黒騎士と姫とギャルル・タイガー2
「まあ、今はどうでもいい。うちは今猫の手でも借りたいくらい忙しいんだ。さっさと動くぞ!」
そんな風にデールに命令口調で言われたが、だからといってここでデールをついていくわけにはいかない。
俺は一刻も早くギャルルと離れたいんだ。それにベベの世話もしなくちゃならないし。無理な話というものだ。
なので、俺はデールの誤解を解くために口を開いた。
「いや、俺は……」
「いいわね! ナイトさん! 一度やってみたら?」
しかし俺の言葉は、いつの間にか近づいてきたノールさんの言葉に遮られた。
いや、この人何言ってんの?
「ベベの面倒は私が見てるから。一度やってみて! ちゃんと報酬も出すわ!」
そう言ったノールさんは、まさに獣のごとく速いスピードで俺からベベを奪い、デールの方に俺の背中を押した。
そんなノールさんの瞳に浮かぶ真っ黒な欲望を俺は読み取ることができた。
ノールさんの目にはこう書いてあった。
『労働力確保!』と。
「いや、ノールさん。俺、お客さんですからね!?」
「ええ、そうだね。お客さんだね。でもお金は払わないお客さんだもの! 今日来るはずだった人が急用で二人来れなくなったのよ。だから今日だけでいいから手伝ってあげて? バイト代は多めにあげるから!」
「いや、俺はバイト代とかーー」
いらないですから! 俺、お金たくさん持ってるし!
「それが嫌なら、私の特製の離乳食レシピを報酬出してもいいわよ? 私のレシピ、村でもいいって評判なんだから!」
「……!!」
離乳食レシピ!! 確かに首から手が出るほど欲しい!
「て、どうして俺が離乳食作ろうとしてるのを知ってるんですか!?」
「ふふっ! 狭い町だからね! 色々と耳に入るのよ! だからどう? もし忙しいことがあったら諦めるけど……」
「やります!!」
何でもやりますとも!!
そうやって俺から了解の言葉を得たノールさんが、早速デールに言った。
「それじゃあ、デール先輩! 早速新入りたちを連れてアソコに行きましょうか!」
「う、うん! わかった! よし。それじゃあ、二人は僕についてくるように!」
そうやってノールさんとデールに誘われてたどり着いたのは、農場の一角にある畜舍だった。
「遅い! やることが多いんだからさっさと歩けよ!」
当たり前のように小言を言うデールの姿に、ギャルルが「グルルッ」と不機嫌そうに喉を鳴らした。
いくら文明化されたとはいえ、獣人社会には力こそが全て! というものが多い。
つまり、四天王の子であり、この土地の領主の子である上に、本人の力も強いギャルルは親以外の誰かに命令されることがほとんどなかったということになる。
そんなギャルルにとって、あからさまに上から目線で小言を言うデールの態度は、きっと不愉快なものなのだろう。
まあ、そんなことも含めて、社会経験をしてこい、と罰としてこの農場に送られたのだと思うけどね。
しかしそれは別として、ノールさんがそんなギャルルを緊張の眼差しで見つめていた。
新たな労働力の確保に目が一瞬眩んだが、今になってヤバイ事態だと気づいたみたいだ。
俺の手を握っているノールさんの手に力が入っているのを見ると、もしもの事態が起こった場合、自分の身を投げてでもデールを救おうと覚悟を決めたようだ。
まったく、しょうがないな。大切なミルクの仕入れ先で流血沙汰が起こるのは俺も望んでないし、何より大切な離乳食のレシピを教えてくれるはずのノールさんが怪我をしたらまずいからな。ここではちょっと手伝ってあげるとするか。
なんやかんやあって10分ほど歩いたところで、歩くのを止めたデールがまた腰に手を当てて偉そうに言った。
「さあ、新入たち! お前たちの初仕事はこれだ!」
そんな事を言うデールの後ろには、一匹のミノタウロスもいない、空っぽの畜舍があった。
いったい何をしろと? とか考えていると、デールがつつけて言った。
「何ボーっとしてるんだよ! あそこのアレ! アレを片付るんだよ!」
そう言いながらデールが指で指したのは、畜舎の下。地丸見えの地面だった。
いや、ちょっと待ってよ。アレって……。
「……まさか、全部ミノタウロスのフンなのか!?」
「おい! フンとか言うな! これがどれだけ貴重なものなのかわからないのか! うちのミノちゃんたちのウンコはすごいんだぞ! これを腐らせて土に撒けば、どんな荒れ地でも作物が育つすごい肥料になるんだぞ!」
へえ、それはすごいな。それより、お前もフンとかウンコとか言ってるじゃないか。
というか、一瞬感心したけど、そんなこと言ってる場合じゃなかった。
もしかしてこいつ今、あそこにあるウンコを俺たちに片付けろと言ってるのか!?
俺は目を泳がせながら、嘘でしょう? という意味を込めてノールさんを見た。
しかし、残念ながらノールさんは淡々と笑いながら、僕たちに最悪の未来を告げた。
「新入の最初の仕事はアレだと決めているわよ?」
「「……!!!!」」
マジですか。
俺だけじゃなく、ギャルルもショックのあまりに口を開けていた。
いくら罰とはいえ、領主の子にミノタウロスのフンを掃除させるとはギャルルも思わなかったのだろう。そして俺も、客として来た農場でこんなことが起こるとは思っていなかった。
ここまではノールさんの離乳食レシピに目がくらんでついてきたが、やっぱり断……。
「ナイトさん。目をつぶって一度だけやってみないかしら? 案外難しくないかも知らないし。それに……、いつまでもそんなところで働けるわけにも行かないでしょう?」
将来的に選べる道が増えるのはいいことなんだよ。
ノールさんはそう言いながら、俺の手をぎゅっと握った。
これはあれだ。悪い道に落ちたワルに、「ずっとそうやって生きていくの? もっとマシな仕事紹介してあげるから。やりなをしましょ? 少し忙しくてもやりがいのある仕事だよ」と慰めてくれる親戚のおばちゃん。
確かにこの世界で死の谷は凶悪犯の巣窟と同じ扱いをされていますけど! 俺があそこの主人ですから! こんなこと言われるとちょっと心が痛むんですけど!
心の中でそう叫んだが、なぜノールさんが離乳食レシピという餌を差し出してまでこんな事をしたのかを知ってしまった以上、彼女の心を無視するような行為は出来なかった。たぶん、人手が足りないというのも、俺を捕まえる口実だったのだろう。
「はあ、わかりました、やってみます」
「よく考えたわ、ナイトさん!」
ノールさんが本当に嬉しそうに微笑みながら俺の手を両手で握った。
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