黒騎士と姫とギャルル・タイガー1
「……」
縦に長いギャルルの獣の目が鋭い視線で俺を観察していた。
俺はその視線に気づかないふりをして、ただただお茶を飲み続けた。
ううッ。緊張する。気づ枯れてないんだろうな。
ハンスが作ったものに比べれば質が落ちる物とはいえ、それでもあの時は認識阻害の魔道具をつけていたし、ハンスが見せてくれたあの手配書の事を考えると俺のことをちゃんと覚えてるはずが無いと思う。
アレに描かれてた俺の絵はかなり歪曲されて描かれていたし。
だから大丈夫だとは思うんだけど。
「流石に髪と目の色で気づくとか、そんな事はないよな?」
なんて事を考えてしまい、なんだか不安になってきた。
緊張で汗だくになった手を、俺は気付かないふりをしてズボンでそっと拭いた。
これは心配すべきはノールさんの方じゃなかったな。むしろ、俺の方が心配だ。
こんなことならノールさんについて行けばよかったな。
すごく恥ずかしかったけど、むしろ霊墓城でガラガラを振っていたほうが気が楽だったような……あ、今のはなし。
やっぱりそれはないな。どっちも不便ということにしよう。うん。
それにしてもこの子、何でこんなに俺を睨んでるんだ。気になるんだけど。
あとノールさんはなんでこんなに遅いんだ。前はもっと早く来ていたはずだが。疑うのはちょっとあれだと思うけど、もしかしてノールさん、わざと遅れてるの? ここに戻るのがいやだから?
いや、まさか。ハハ!
……と思いたいが、なぜかさっきからノールさんの気配がドアの向こうから感じられていた。
あの、ノールさん、早く戻ってきてください。お願いします。
そんなことを考えていたとき、
「ねえ、あんた。一つ聞きたいことがあるんだけど」
「……は、はい?」
いきなり何だ。何が聞きたいんだ。いや、聞きたくないから言わないでくれ。
俺は背中から冷や汗をかきながらそう祈った。
今すぐにでもここから飛び出したい。
そんなことを考えたとき、
「おぎゃああああーーーー!!」
目が覚めたベベが泣き始めた。
「ア、アレェ。ナンデ、ナクノカナァ。ヨシヨシ」
ナイスタイミング……!!
子供が泣いているのにこんなことを考えるのは不誠実だが、そうしか言えなかった。
何か聞こうとしたギャルルも、俺がベベをなだめていると口を閉ざした。
ノールさんが帰ってくるまで、ベベはこのまま泣いていてほしいな、と思うくらいだった。良い大人がこんなことを考えてはいけないと思うけど。
それだけ今のこの状況を避けたいということた。
「ヨシヨシ。良い子、良い子。泣かないで?」
俺はベベをなだめながらおむつを確認した。
よし。おむつは濡れてないな。ご飯も食べさせたばかりだし、これってただの寝起きで泣いてるんだな。
これはこのままなだめるしかない。
俺がぎこちなくベベをなだめていると、ギャルルもちょっと疲れたのか、はあ、とため息をついた。
よし、これで行こう。
心の中でそう心を決めたとき、キィと椅子から立ち上がったギャルルが俺たちの方に向かってきた。
な、なんだろう。
「......たせ」
「ん? 何を……?」
「その子をわたせって言ってるんだよ」
「えぇっ」
いきなり何だ。
俺からベベを取ってどうするつもりなんだ。
まさか、もう俺の正体に気づいたとか? だから犯罪者か、他国のスパイか、正体を知らない俺を取り押さえるためにベベを交渉の材料にしようとしてるとか!?
そんなことを考えていると、ギャルルが大きくため息をついて言った。
「あんた、子供をなだめるのがヘタなんだよ。 僕がやるから、その子を渡せ」
「は、はぁ」
ばれてない……のか?
にしても子供をなだめるのがヘタって。返す言葉がないな。
ベベを預かってまだ一ヶ月も経ってないから、慣れてないのは本当だし。
迷いながらもベベをギャルルに渡すと、ベベを腕に抱えたギャルルが慣れた動きでベベをなだめ始めた。
そして間もなく。
「ぴゃ、ぴゃあ♥ ぴゃあ♥」
大泣きしていたベベがパアッと笑いながらギャルルに縋り付いた。
なんだ、こりゃ。
「スゴイな」
俺もぜひ見習いたい。
何なら弟子入りしたいくらいだ。
まあ、同じ四天王のカプカの娘に弟子入りするなんて、さすがに無理だろうけど。
でも一つだけ聞きたい。
「何かコツでもあるのか?」
「ん? 別に、普通にやればできるだろ」
「……」
その普通のやり方を知りたいんだけど。
そんな思いを込めてじっとギャルルを見つめてみたが、ギャルルは首をかしげながらベベを俺に渡すだけでそれ以上何も話してくれなかった。
もう少し説明してほしいんだけど。
ああ、そうか。この子は感覚派か。 そういうのが一番わかりにくいんだよなぁ。
仕方ない。これは自分でなんとか身につけるしかないな。
そんなことを考えて心の中でため息をついていると、「バタン!」という音とともに、農場側に通じる扉が開いた。
ノールさんかと思って振り返ると、開いたドアの向こうからノールさんよりずっと小さい人影が見えた。
ノールさんの息子のデールだった。
応接室に入り、中をざっと見たデールが両手を腰に当てた後、偉そうに言った。
「ふむ! 新人が来たと聞いたが、あんたたちが新人か?」
この前、ハンナと来た時と全然違う態度だった。
にしても新人ってギャルルのことか?
いや、そんなことならあんたたちとは言わないよな。 もしかしてここに俺とギャルル以外の人がいたのか? なんてすごい隠密能力の持ち主だよ。
そんなことを考えながら現実逃避をしていたが、どうやらデールが言う新入は俺だったようだった。
デールが俺をじっと見ながら言った。
「子連れか。仕方ない時はうちで面倒を見てくれることもあるけど。でも、初日から子供を連れてくるのはないと思うぜ! そうでなくても初日はいろいろと覚える事も多いのに! まあ、どこも人手不足なんだから仕方ないけどさ」
「いや、俺は……」
この農場に働きに来たわけじゃないんだけど。
もしかしてデール君、俺のこと忘れちゃった?
いや、確かに一度見ただけのおっさんの顔を覚えろというのもちょっと酷な話だけど。でも前に来た時はミノタウロスの脱走というかなりインパクトのある事件もあったのに。ひどいな。ちょっと傷ついたかも。
と、言いたいところだが、なんだかデール君の目線がちょっとおかしい。何がおかしいというと、ちゃんと目と目が合ってない感じがする。
ええと、もしかしてデール君は視力がメチャクチャ悪いのかな?
そんなことを考えていると、デールが一人で『ヤレヤレ、仕方ないな』という顔で言った。
「まあ、今はどうでもいい。うちは今猫の手でも借りたいくらい忙しいんだ。さっさと動くぞ!」
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