黒騎士と姫とハンスの頼み3
「なぁ、マレ。ちょっといいか」
「あら、珍しいわね。ハンスさんがこんな時間にくるなんて」
「ちょっと用があってな」
「おい。ここは野菜屋だろ」
俺が紹介してほしいのは、新鮮な野菜を売る野菜屋じゃなくて、腕のいい家具屋なんだけど。
袖を引っ張りながら小さく言うと、ハンスが俺の頭をグッと押しながら言った。
「バカ! 今すぐ家具を注文しても間に合うわけないだろ。質の良い中古を手に入れるのが最善なんだよ」
そ、そうなんだ。確かにこの世界の家具は木選びから始まるからなぁ。一国の姫であるベベには悪いけど、今はハンスの言う通り、今は中古を譲り受けるのが一番いいのかもな……。
「なになに、その子のベッドが必要なの」
「あ、はい。あの……」
この人、名前何だっけ、確かさっき聞いたんだけど。ええとーー。
「私はマレよ。あんたはナイトくんだよね」
「はい。どうして分かったんですか」
「ハンナがよく君の話をするから」
「そうだったんですか、知らなかったです」
だからハンス、そう睨むなよ。
親しいおじさんのことを周囲に話すのってよくある事だし。それに多分半分はお前が起こした事故を收拾してくれたって話だろうし。
俺はハンスを必死に無視しながら、マレさんに聞いた。
「あの、それでベッドを譲ってもらえるでしょうか? お金は払いますから」
「いいよ、お金は。私もハンスさんからもらったものだし」
「さすがにそれは悪いですよ」
「いいよいいよ! そんなに気になるなら、たまにうちの野菜でも買ってきてね。いいものを売ってあげるからさ」
マレさんはハハハと笑いながら俺の肩をポンポン叩いた。
俺はそっと手を避けながら笑った。痛くはないが、体が少し揺れる。
「それより、その子見せてもらえないかな」
「ええ、いいですよ」
ケモ耳がついているところを見ると、マレさんもハンナと同じ獣人っぽいし。特に問題はないだろう。
そっとベベを差し出すと、マレさんはベベを経験者らしく自然な姿勢で抱きしめた。
マレさんの腕に抱かれたベベは、両腕を伸ばしながら気持ち良さそうに笑った。
「ぴゃー♥」
「はあ。本当に可愛いわね、この子!」
「そうですね」
一日中見ている俺も、たまにびっくりするくらいかわいいんだよな。本当にカワイスギ。
うんうん。うなずきながら同意していると、マレさんがふと思い出したように聞いてきた。
「そういえばこの子の種族はなに? 尾がないのを見ると獣人じゃないみたいだし。魔族?」
「……人族です」
これくらいは言っていいだろう。ハンナのように獣人と人間のハーフの子も住んでいる村だし。この村はそもそも避難民の集落だから、割と人間界から逃げてきた人間も少なくないからな。
「そうかぁ、じゃあこの子生まれて何ヶ月? 1ヶ月? 人間の子供だから2ヶ月くらいかな」
「え、あ、4ヶ月です」
「ぴゃ! ぴゃっ!」
たぶん。メイド長がそう言ってたから。きっとそうなんだろう。
ベベは自分も質問に答えるかのように、喃語を発しながら元気にはしゃいだ。
おっと、と言いながら笑ったマレさんがさりげなくベベを抱きしめなおした。さすが経験者!
それにしても、なんで急に暴れ出したんだろう、表情は悪くないし、気分も良さそうなのに。自分の話が出てきたから反応したのかな。それともただの運動?
「4ヶ月なんだ。じゃあもう離乳食始めた?」
「え、離乳食?」
「うん。ローナ姉さんが前に言ってたんだけど、人間の赤ちゃんはこのくらいで離乳食始めるらしいからね」
ローナ姉さんって、確か今は亡くなったハンスの妻の名前だったな。
ハンナが獣人と人間のハーフだから、人間の赤ちゃんの育て方も勉強してたのか。すごいな。
それにしても知らなかった。人間の赤ちゃんが4ヶ月で離乳食を始めるなんて。
「人間の子は離乳食で何を食べるか知ってますか」
「うーん。たしかにオートミールを浸して挽いた後、煮て食べさせたんだと思う。あ、あと、最初は母乳を少し入れてあげるといいとも言ってたかな」
「……割とやることが多いんですね」
離乳食ってお粥みたいなものだと思ってたんだけど。
オートミールを浸して挽いてから煮るなんて。すでに準備から30分以上かかるじゃないか。
「そうだよね。でも、子育てってのは元々そんなもんでしょ」
「……まあ、それはそうですけど」
はあ。仕方ないな。頑張ってみるか。
「あ、ちなみにオートミールお粥の次は野菜を食べさせるって言ってたけど。どうかな、お兄ちゃん、安くするからうちで買っていかない?」
「……一応買っておきます」
いつ使うかわからないし。マジックバッグに保管すれば腐ることもないから、とりあえず買っておこう。
マレさん、営業上手だな。
***
その後、マレさんにベッドをもらい、ハンスと別れた俺は、ノールさんのミノタウロス農場へ向かった。
離乳食作りもあるし、今日はミノタウロス農場で牛乳だけもらってすぐに帰るつもりだった。
そのつもりだったんだけど.……。
「……」
ミノタウロス農場の応接室でノールさんとお茶を飲んでいるギャルルと、バッタリ出会ってしまったのだ。
……いったいどうなっているんだ。
なぜ四天王の一人であるカプカ・タイガーの子供がこんな普通の農場にいるんだ。
どう考えてもこんなところに直接来るような立場じゃないだろう。
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
まずは知らないふりだ。知らないふりをしてこの場を乗り越えるんだ!
「こんにちは、ノールさん。その子はお客さんですか?」
「ええと、こんにちは、ナイトさん。ええと、この子はルルちゃん。知人の子なんだけど、職業体験? みたいなものを家でやって欲しいと言われて、明日からうちで働くことになったわ。ここはいつも人手が足りないから……ねぇ」
ノールさんがぎこちない笑みを浮かべながら説明した。
そうか、そうなったのか。どうやらギャルルは危険なところに一人で入った罰として、この農場の仕事を手伝うよう命令されたらしい。この魔界にキツい仕事は山ほどあるけど、ミノタウロス農場の仕事ほど汚くて辛い仕事は滅多にない。
領主の子として領民の暮らしがどのようなものか勉強にもなるだろうし、罰としてはちょうどよかったのだろう。それに、ここは獣人王カプカの領地だから、監視もしやすいだろうし。
それにしても知人の子って、おおよそ他人に言うなと口止めでもされたのだろうか。
ノールさんが言ったギャルルの用件が何なのかはわからないが、とりあえず最初に思った通り知らないふりをしよう。
「そうですか、あ、ノールさん。ミノタウロスの乳を追加でいただきたいのですが、お願いしてもいいですか」
「ええ、いいわ! 今すぐ持ってくるね!」
俺の頼みにノールさんが待っていたかのように席を立ち、応接室から出て行った。
客を一人にするわけにもいかず座っていただけで、領主の娘であるギャルルと一緒にいるのは彼女にとってもかなり負担だったらしい。
この先、ギャルルと一緒に仕事をしなくちゃいけないだろうに。 ノールさん、心配だな。
「……」
ノールさんが部屋を出ると、部屋が静かになった。
前日と違って今日はベベも昼寝をしていたのでなおさら。
椅子に座ってお茶を飲んでいると、同じテーブルに座っているギャルルとバッタリと目が合った。
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