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黒騎士と姫とハンスの頼み2



 そしてしばらくして、倉庫から箱を一つ取り出してきて、ドン! と俺の前に乱暴に下ろした。


「ええと。くれるのか」

「......ああ」


 深く頭を下げたハンスが、ため息なのか答えなのかよくわからないあいまいな答えをした。

 あいまいな答えだったが、これを取り上げないところを見ると、俺にくれるということなのだろう。

 俺は、いかにも高価そうな箱の蓋をそっと開けた。

 すると、箱の内側に敷かれてる紫色のサテンと、その上に置かれた半仮面の姿が目に入った。


「あっ! これ! どこに行ったかと思ったら、お前が持っていたのか!」

「……ああ、そうだよ」


 驚いて箱からものを取り出しながら叫ぶと、ハンスがまたため息のように答えた。

 俺はそんなハンスをほっておいて、半仮面を手でそっと撫でた。

 スベスベの半仮面の手触りが心地よかった。


 これは俺が死ぬずっと前に、色々あって一人で町を歩くのがむずかしくなった俺のためにハンスが作ってくれた仮面だ。


「懐かしいな。昔はこれをつけて二人で飲み屋に行ったりしたよな」

「......ふん、そうだったかな」

「そうだよ、いつもなんでお前だけお姉さんたちにモテるんだ!って泣いてたろ、おまえ」

「でたらめだ! 俺は泣いてない!!」

「はいはい」


 俺は横で自分の無実を主張するハンスの言葉を軽く流しながら、箱から仮面を取り出し、そのまま顔に当てた。

 そうして鏡を見ると、鏡の中には、白髪の下に半仮面をつけた鋭い目つきの男が立っていた。黒髪に少し垂れ目をしている俺の元の顔とは全く異なる顔だった。


「おお、やっぱりすごいな。この仮面」


 前のものもまあ、悪くはなかったが、これと比べるとかなり質が落ちる。

 前の仮面が印象をあいまいにするくらいなら、この仮面は着用した人を全く別の人間に見せかける。簡単に説明すると、前の仮面が人の顔にぼかしを入れるものだとすると、これは3Dで実装したVTuberの画像といえるだろう。

 いつ見てもすばらしい技術だ。恐らく世界中を探しても、これほどの認識阻害魔道具を作れるのは3人もいないんじゃないだろうか?


「やっぱりハンス、お前これで食っていけるんじゃないか?」


 そう聞くと、ハンスがふっと頭をそらし、手を振りながら言った。


「フン! いやだね! 俺はこの仕事が性に合っているから、ほっとけ!」

「そうかよ」


 まあ、本当にそう思っているなら別にいいけど。


 技術がもったいないという考えはちょっとある。でも、こういうのは他人が口出ししていいものでもないし。何より、ハンスが本当にこれをやるとなると、気をつけなければならないことが一つや二つじゃない。人の顔を正しく見分けられないということ自体、国のセキュリティに重大なトラブルを引き起こす可能性があるのだ。


 とはいえ、ハンスが本当にやりたいと言うならできる限り手伝うつもりだけど。


 そんなことを考えていると、話題を変えるようにハンスが口を開いた。


「……フン。ところで今日は何用だ。お前のことだ。聖石の礼を言いにきただけじやないだろ」

「ああ、この子のベッドを買いたくてな。いいとこあったら紹介してくれないか」

「ふむ、その子のベッドねぇ……」

「なんだよ」

「いや、べつに。結局その子育てることにしたのかな、っと思ってな」

「……一応、当分はな」


 そもそも俺はこの子を獣人王カプカに押し付けるか、あるいは故郷の聖国に返してやりたいと思っている。それがベベにとっても幸せだろうし。決して長く一緒にいるつもりはないのだ。

 しかし、たとえ短い間だとしても、手抜きをする気はない。


 子供に対して、大人としてやるべき道理というものがあるからだな。


 できることはやるし。できないことはできるように努力はするつもりだ。

 そしてベッドを買うのはその努力の中の一つだと言える。


 なぜなら、数日べべと一緒に過ごして一つ大事なものに気づいたからだ。自分で立つこともできたい赤ん坊と一緒に寝るのは無理だと。

 一緒に寝ると、おそらく近いうちにベベが俺の体にプチッとなってしまう。なのでここ数日、ベッドはベベに譲っていて、俺は今すごい睡眠不足状態である。


そんなわけで。


「だから、工房を紹介してくれ。 ベベもこんなにお願いしてるんだしさ」

「ぴゃあーーーー♥」


 ベベの紅葉のような手をそっと振りながら言うと、ハンスが「くっ! かわいい!」と、うめき声を上げた。

 ふっ、チョロイ奴。


「いいいい、良いだろう。紹介してやろう」

「やった!」

「代わりに! お前も俺の頼みを聞いてくれ」

「頼み? いいぞ。何か欲しいものでもあるのか? ハンナに新しい服でも買ってほしいとか」


 今ならオーダーメイドでクローゼットを一杯にするほど買ってあげてもいい。


「ちげえよ。ハンナの服なら俺が買うし。そうじゃなくて、最近ハンナが森に行きたがってるんだけど。その同行を……」

「あぁ、急用を思い出した。じゃあなー」

「待て待て! 話も聞かずに断るのか!?」

「おい! 放せ!! 俺は忙しいんだ!!」


 そうじゃなくてもベベのことで仕事が増えたというのに! 森に行く時間なんてあるもんか!

 俺は腰にぶら下がったハンスを引きずってそのままドアの方へ歩いていった。


「聞けって! この前聖石もあげただろ!!」


 ただであげるって言ってたくせに! 今更ずるいぞ!!

 でも、それを言われると断りにくい。


「……話だけなら聞こう」

「はあはぁ。全く、力だけは余計にあるんだから」

「話さないなら帰るぞ」

「あぁ、わかったよ! 話せばいいだろ、話せば! 週に一回!ハンナと一緒に森に行ってくれ! 代わりに週に一回うちでその子の面倒を見る! お前もたまには休みたいだろ! どうだ! いい条件だろ!」


 むむ。確かに。思ったよりいい条件だ。

 でもちょっと一つ疑問がある。


「なんでお前が一緒に行かないんだ? この近くの森ならお前でも問題ないだろ」

「ハンナに断られたんだよ! くそ……!!」


 ハンスが悔しそうに涙を流しながら言った。


「あ、あぁ……」


 そうか。

 ハンナ、君がハンスを娘離れさせると言ってたのは本気だったんだなぁ。

 だからハンスもわざわざ俺に頼んだのか。自分が付い行けないなら知人の中で一番強い俺に付いて行って欲しいから。過保護だけど。

 まあ、ハンナ可愛いし、心配するのもわかるけどさ。


「はぁ。わかったわかった。一緒に行けばいいだろ。一緒に行けば!」

「おお! ありがとう!」

「その代わりに! 週に一回ベベの世話をしてくれるって約束はを守っれよ」

「勿論だ! ちゃんと世話するぞ! ウチのハンナが!」

「お前がやるんじゃないのかよ!!」

「やるわけないだろ! 俺のような素人がそんなちっちゃい赤ちゃんの世話をしていいわけないだろ!!」


 確かにそれはそうだけど! この野郎、開き直りやがって!

 ふぅー。もういいや。正直、俺もハンスよりハンナが面倒見てくれる方が安心だし。


「じゃあ、行ってくるか。その子のベット探しに」


 ハンスがそう言いながら扉に向かった。


「大丈夫か?店を空けっぱなしにしても」


 2階に気配がないところを見ると、ハンナも店にいないようだけど。


「ん?あぁ、いいよ。そんなに遠くないし。 というか、すぐ横だし」


 え? すぐ横って確か……。



「ここも一応、タイガー領だけどな」

「ここはそれでも郊外の町だろう。さすがにタイガー領の令嬢がこんな田舎まで来ることはないだろうし」

「田舎で悪かったな」

「そこがいいところだろ」

「……フン。ところで今日は何用だ。お前のことだ。聖石の礼を言いにきただけじやないだろ」


 嬉しいくせに、そうじゃないふりしやがって。

 まあ、別の用件があたのはあってるんだけど。


「この子のベッドを買いたいんだが、いいとこあったら紹介してくれないか」

「ふむ、その子のベッドかぁ……」

「なんだよ」

「いや、べつに。結局育てることにしたんだな、って思ってな」

「……そりゃまぁ」


 獣人王カプカに任せようと思ったんだけど、その人来ないから仕方ないだろう。……獣人王カプカ、本当いつ帰ってくるんだろう。

 とにかく。このままこの子を俺のベッドで寝かし続けるのもちょっと不安だったから、しかたなくベビーベッドを買うことにしたのだ。

 この前研究所に行ったとき、研究員に任せてもいいんじゃないか、とも思ったんだけど。

 その場合、どんな特殊機能が付くかわからないからダメだと思った。


 あいつら、面白くないものを任せると、作るのを無闇に延期したり、自分たちの楽しみのために魔改造したりするから。


 俺ならともかく、子供のベベが使うものをそんな奴らに任せてはいけないという結論に至ったのだ。

そんなわけで。


「だから、工房を紹介してくれ。 ベベもこんなにお願いしてるんだしさ」

「ぴゃあーーーー♥」


 ベベの紅葉のような手をそっと振りながら言うと、ハンスが「くっ! かわいい!」と、うめき声を上げた。

 ふっ、チョロイ奴。


「いいいい、良いだろう。紹介してやろう」

「やった!」

「代わりに! お前も俺の頼みを聞いてくれ」

「頼み? いいぞ。何か欲しいものでもあるのか? ハンナに新しい服でも買ってほしいとか」


 今ならオーダーメイドでクローゼットを一杯にするほど買ってあげてもいい。


「ちげえよ。ハンナの服なら俺が買うし。そうじゃなくて、最近ハンナが森に行きたがってるんだけど。その同行を……」

「あぁ、急用を思い出した。じゃあなー」

「待て待て! 話も聞かずに断るのか!?」

「おい! 放せ!! 俺は忙しいんだ!!」


 そうじゃなくてもベベのことで仕事が増えたというのに! 森に行く時間なんてあるもんか!

 俺は腰にぶら下がったハンスを引きずってそのままドアの方へ歩いていった。


「聞けって! この前聖石もあげただろ!!」


 ただであげるって言ってたくせに! 今更ずるいぞ!!

 でも、それを言われると断りにくい。


「……話だけなら聞こう」

「はあはぁ。全く、力だけは余計にあるんだから」

「話さないなら帰るぞ」

「あぁ、わかったよ! 話せばいいだろ、話せば! 週に一回!ハンナと一緒に森に行ってくれ! 代わりに週に一回うちでその子の面倒を見る! お前もたまには休みたいだろ! どうだ! いい条件だろ!」


 むむ。確かに。思ったよりいい条件だ。

 でも一つ疑問がある。


「なんでお前が一緒に行かないんだ? この近くの森ならお前でも問題ないだろ」

「ハンナに断られたんだよ! くそ……!!」


 ハンスが悔しそうに涙を流しながら言った。


「あ、あぁ……」


 そうか。

 ハンナ、君がハンスを娘離れさせると言ってたのは本気だったんだなぁ。

 だからハンスもわざわざ俺に頼んだのか。自分が付い行けないなら知人の中で一番強い俺に付いて行って欲しいから。過保護だけど。

 まあ、ハンナ可愛いし、心配するのもわかるけどさ。


「はぁ。わかったわかった。一緒に行けばいいだろ。一緒に行けば!」

「おお! ありがとう!」

「その代わりに! 週に一回ベベの世話をしてくれるって約束はを守っれよ」

「勿論だ! ちゃんと世話するぞ! ウチのハンナが!」

「お前がやるんじゃないのかよ!!」

「やるわけないだろ! 俺のような素人がそんなちっちゃい赤ちゃんの世話をしていいわけないだろ!!」


 確かにそれはそうだけど! この野郎、開き直りやがって!

 ふぅー。もういいや。正直、俺もハンスよりハンナが面倒見てくれる方が安心だし。


「じゃあ、行ってくるか。その子のベット探しに」


 ハンスがそう言いながら扉に向かった。


「大丈夫か?店を空けっぱなしにしても」


 2階に気配がないところを見ると、ハンナも店にいないようだけど。


「ん?あぁ、いいよ。そんなに遠くないし。 というか、すぐ隣だし」


 え? 隣は確か……。


「なぁ、マレ。ちょっといいか」

「あら、珍しいわね。ハンスさんがこんな時間にくるなんて」

「ちょっと用があってな」

「おい。ここは野菜屋だろ」


 俺が紹介してほしいのは、新鮮な野菜を売る野菜屋じゃなくて、腕のいい家具屋なんだけど。

 袖を引っ張りながら小さく言うと、ハンスが俺の頭をグッと押しながら言った。


「バカ! 今すぐ家具を注文しても間に合うわけないだろ。質の良い中古を手に入れるのが最善なんだよ」


 そ、そうなんだ。確かにこの世界の家具は木選びから始まるからなぁ。ハンスの言う通り、今は中古を譲り受けるのが一番いいのかもな……。


「なになに、その子のベッドが必要なの」

「あ、はい。あの……」


 この人名前何だっけ、確かさっき聞いたんだけど。ええとーー。


「私はマレよ。あんたはナイトくんだよね」

「はい。どうして分かったんですか」

「ハンナがよく君の話をするから」

「そうだったんですか、知らなかったです」


 だからハンス、そう睨むなよ。

 親しいおじさんのことを周囲に話すのってよくある事だし。それに多分半分はお前が起こした事故を收拾してくれたって話だろうし。 

 俺はハンスを必死に無視しながら、マレさんに聞いた。 


「あの、それでベッドを譲ってもらえるでしょか? お金は払いますから」

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