黒騎士と魔王謁見
「奪命王様、申し訳ございません。私の部下が失礼をいたしました」
メイド長が落ち着いた声で謝罪をする間、メイド長の後ろでは、他のメイドたちが床に倒れているメイドを連れ席を外した。
ほんとだ。セイレンメイド長が来てくれてほんとに助かった。この人、急に座り込むからどうしようかと。下手したらここで他の人が来るまで立ちっぱなしになるのかと。
やっぱりそこまでやるとそれもで怪しいから、その時はその時で何か別の手を考えただろうけどね。あ、とにかくありがとう! さすがメイド長!!!
ほんとは中身こんな感じなんですけどね……。
「……うむ」
「奪命王」としてのイメージがある俺は、ろくにお礼も言えずにただ短く答えた。
「相変わらず、無口ですね」
ああ、言葉の裏に「こんなところでだけ」という言葉が隠れてるな。
俺の本性を少し、ほんの少しだけ知っているメイド長から見て、この状況がどうしよもなくバカバカしく感じるのはわかる。
でも仕方ないだろ。キャラ作りする時間違えちゃったんだから、今更こんな性格だと言えるわけないだろ!
そう目で言うと、メイド長が冷たい目で「だからどうしろと?」と言ってきた。
……今日も淡いグレーの瞳が鋭い。くっ!!!
「それよりも、魔王様にお会いにいらっしゃたのですね?ご案内します」
「……ああ」
表には出してないが、願ったり叶ったりである。
セイレンメイド長がいれば、他の人と出会っても何とか解決してくれるから。正直助かる。
……メイド長の冷たい視線はとても痛いけど。
黙々と歩を進めるメイド長と俺は、 まもなく謁見の間に着いた。
「奪命王、ブレード様がいらっしゃいました」
「入れ」
許可が下りると同時に、俺たちの前を遮っていた巨大な扉が音もなく開く。すると、謁見の間の台座に一人座っている魔王が目に入った。
俺はホールの奥に足を運びながら周りを見た。
魔王の玉座の左右に四天王のうち2人が立っていた。ヴァンパイアクイーンであるリリー・V・ノヴェーラと巨人王ギガンタスだった。どうやら今日は四天王の中で唯一の常識人。獣人王カプカ・タイガーはいないようだ。
くそー。不安だなぁ。
緊張しながらも勢いよく歩き出した俺は、玉座の前にひざまずき、深く頭を下げた。
「魔王様の呼びかけを受け、奪命王ブレードここに参上しました」
「ああ、よく来てくれた。奪命王ブレード。頭を上げよ」
「は!」
頭を上げると、俺を見て妙な笑みを浮かべている魔王と目が合った。
「此度は其方に頼みたいことがあって呼んだ」
頼みたいこと?魔王が?俺に?
なんか笑ってるし。
……不安だ。他の四天王たちが静かなのも気になるし。いい感じが全然しない。
そう心の中で不安に震えていると、魔王が笑うような声で言った。
「奪命王ブレード、 君に命じる。捕らえた姫の世話役となれ」
「は?」
「聖国ティレンシアの王女だ。どうか失礼のないように。わかったな」
「はあ!?」
ああっ! 思わず本性が出ちゃった!
いや、でも、まだ大丈夫! 言葉は短かった! まだ! キャラは無事だ!!
それに、流石に今のは黒騎士のキャラでもツッコミを入れないとおかしい状況だった。
いや、この魔王様、何言ってるんですか?!??!?
捕える?? 姫を??? しかも今、聖国ティレンシアって言った!?!?!? 嘘でしょ!?!? ティレンシア聖国は今、この国と何十年も停戦中なんだぞ!??!?!! そんな国の王女を拉致してくるなんて!!!! この魔王様は戦争でも起こしたいのか!?!!?
心の中ではそう叫んだ俺だが、さすがに魔王様に狂ってるとか正気かとか言うわけにはいかない。
口から飛び出そうとする言葉をどうにかこらえて、俺はかろうじて落ち着いた声で質問した。
「……失礼ながらお聞きします。魔王様、 もしかして聖国と戦争でもするつもりですか」
ああ、今少し声が震えた。
だが、これだけは聞いておかなければ行かない。ティレンシア聖国と停戦協定を結んで約20年。まだ世論は安定していない。もし魔王が戦争を宣言するなら、今だと戦争に参加する魔族は数え切れないほどいる。
そしておそらく、その中には高確率で奪命王である俺も含まれるはずだ。
正直、戦争などお断りだったが、魔王の命令なら聞かないわけにはいかない立場なのだ。四天王というのは。
「なんだ。怖気付いたのか」
魔王の右側に立っていた四天王の一人、巨人王のギガンタスが煽るような口調で言った。
奴と目が合うと、ギガンタスは目をキリッと見開いて睨んだ。
俺はそれを避けずに目を合わせた。
巨人王ギガンタス。奴は四天王中1番の戦闘派で、見た目通り戦闘しかできない脳筋派だった。
そして人間との戦争に積極的な強硬派でもあった。
ちなみにギガンタスと俺は正直なところ険悪な中、いや宿敵と言っても過言ではないくらいの関係だった。俺が魔王軍に入る前、魔王国と聖国間で行われた血で血を洗う攻防戦。
ギガンタスと俺は、あの戦いで国の存亡と互いの命を賭けて戦った間だ。今でも奴の裸の肩に残っている傷は、あの頃俺がつけたものだったりする。俺の肩にも同じような傷が残っていた。アンデッドとして蘇ったことで消えたがな。ハハッ!
とにかく、そこまでいった仲が一朝一夕に良くなるはずもなく。よって、あの時のギクシャクした関係が今でも続いていて、今でも何かあるたびに奴は俺に喧嘩を売ってくることになった。今日のように。
正直相手したくないんだけどなぁ。
しかし、だからといってここで奴に押されてはいけない。あいつは相手が自分より下だと思えば無条件にマウントを取ってくる奴だ。
「……愚問だな。俺は騎士だ。戦争が始まれば魔族が死ぬ。不必要な犠牲を放置するのは騎士の道理ではない」
「あら、そうだったんですね、私はてっきり同じ人間と戦うのが嫌でそう言ってるのだと思ってましたわ。ごめんなさいね、奪命王様?」
ギガンタスの反対側に立つヴァンパイアクイーン・リリーが魅惑的な笑みを浮かべた。
あんた、片方の口角が上がっているのが見えるからな。
少し腹が立ったが、俺は怒りをギュッと抑えた。
ヴァンパイアクィーン・リリー。
ギガンタスもそうだが、彼女もまた俺に険悪な感情を抱いているようだった。
噂では穏やかで慈愛に満ちたヴァンパイアクィーン・リリー様と呼ばれているようだが、彼女は僕を見ると必ずと言っていいほどに喧嘩を売ってくるのだ。
一体俺が何をしたと言うのだ、とも思ったが、あの長く険しい戦争の時期を彼女も乗り越えてきたのだから 何かあったとしてもおかしくない。
とはいえ、理由もわからず、いちいち咎められるのは愉快な気分ではないのだが……ここで怒るわけにもいかなかった。
理由は彼女の主な仕事が外交で、特技とするのは話術だからだ。
あのリリーのことだ。微妙に嘲笑うようなあの笑顔も、おそらく挑発するためにわざと見せているのだろう。
ここでキレて怒ることは、彼女の思うままに操られるというのと同じことだ。
俺は冷静な声でリリーに答えた。
「人間は捨てた。だが、弱者を尊重する強者の道理は捨ててない」
嘘である。
冷静なふりをしているが、今でも胃が痛い。
弱者を尊重する強者の道理? もちろんいいことだろう。 昔、アンデッドになる前のパラディン時代は、その言葉を口癖にしていたこともあるくらいだ。今もできればそうありたいとは思っている。
だが、俺が今この話題に対して反対している真の理由は、それじゃなかった。
誰にも言っていないが、俺にはまさに誰にも言えない大きな弱点が一つあるからだ。
それは、「人を殺す事ができない」ということ。
なぜなら、俺はデスナイトメアに蘇る過程で、日本での前世を思い出してしまったからだ。
日本人として生きてきた自分に深く植え付けられた遵法精神!!!
どんなに頑張っても、人の首の前で刃が止まる。
そんな中、死ぬ気で努力してギリギリバレずに掃討作戦までやり遂げたのに! 今更また戦争なんて。マジ無理!!(泣)
だが、それを政敵しかないこの場で言うわけにはいかない。
俺は真実を明らかにする代わりに、ただ堂々と頭を上げ、二人を睨んた。
すると、その瞬間、魔王のほうから状況にそぐわない豪快な笑い声が聞こえてきた。
「ハハハ!! よい! よい! この魔界のために献身しようとする忠実な部下がこんなにいるなんて、余は嬉しいぞ!!」
「「「は!!」」」
豪快に笑うのとは違い、魔王の体からジワジワと圧が漏れ出た。
これ以上戦うことを許さないという魔王の意思表示だった。
その強烈な圧に、俺を含む四天王たちは頭を下げた。
「さて、では余の忠実な部下の奪命王ブレードよ。余の命令、しっかりと遂行してくれるよな」
ちくしょう! この言葉を言うために、わざと忠実とか言ったんだな!?
こうなったら断れないだろ! 罠を仕掛けやがって!!
「……は! かしこまりました!」
俺は心の中で涙を流しながら、頭を下げた。
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