黒騎士と姫と本城3
「またこれを取り出すようになるとは」
『守護の盾』
このアーティファクトは、持ち主に聖力が残っている限り、何があっても持ち主を危害から守る、いわば自動防御システムが付いた守護系の最上級のアイテムである。
いろいろあって俺が持っていたが、本来なら聖国の城に大切に保管されているべき国宝級のアイテムなのだ。
「まあ、本当に聖国の国宝なんだけどね」
これを取りに来た理由は他でもなく、ベベをこの魔界という環境から守るためだった。
今日いろんな所を言ってみてわかったのだ。家畜に成り果てたミノタウロスのような草食動物もベベには脅威になりうると。魔界で生きてゆくには、このお姫様は弱すぎるのだ。
「普通なら、適当な武器でも渡して、自分で守れって言って終わりだろうけどーー」
ベベはまだ歩くこともできない赤ちゃんだ。武器なんか渡しても使えないだろうから何の役にも立たないし、子供にそんなことを望むのも酷な話だ。
なので、俺は仕方なく持ち主の意思とは関係なく持ち主を守ってくれるこのアーティファクトを取り出しに来たのだ。
聖力がある限りちょっとした害意でも問答無用で対応するから、いざ戦場で使おうとするとデメリットがないわけじゃないが、こんな赤ん坊を守るくらいなら十分に役立つはずだ。たぶん。
「まあ、どうせ処分に困ってたし。ん、それにしてもこれってもしかして聖国の宝を聖国に返すことになるのか」
んん。悪くないな。全部丸く治るし。メデタシ。メデタシだな。
「それにしても、これ、どうやってつければいいんだ? ネックレスのままだとベベには危険そうだし。腕にも着けられるか?」
物は試しと言うし。とりあえずやってみようか。
そんなことをつぶやきながら俺はネックレスをそっとベベの腕に近づけた。
すると、ベベの肌に触れた瞬間ネックレスがシュッと縮んでブレスレットになった。
というか、なんかデザインもシンプルに変わったな。 もしかしてこれ、着用者に合わせてデザインも変わるのか? すごいな。 聖国の国宝。
「ぴゃうー?」
ちょっと驚いていると、ベベが角度によってキラキラと色が変わる聖石が不思議だったのか、首をかしげながら自分の腕に着けられたブレスレットを見た。
そして、
「ハム!」
とブレスレットを口にくわえた。って、
「ダメぇぇぇぇッ!! ベベ!! ペッ! しなさい! ペッ!!」
ちょっと着けさせてみるだけのつもりだっだから、ちゃんと滅菌もしてないのに! 口に入れちゃダメだよ!!!!
そんな必死の思いを込めてベベに叫んだが、当然その気持ちが赤ちゃんであるベベに届くはずもなく。
「おぎゃあああああーーーー!!!!」
ベベちゃんがまた泣き出した。
「うわああああッ!!!! 痛い! イタイ! イタイカラヤメテ、ベベチャン!!」
ちょっと声を上げただけで泣くなんて!
本当、もう、赤ちゃんは難しい……!!!!(泣)
***
「はあ、疲れた……」
家でただベベの世話をするだけでも大変だったと言うのに。それに加え、仕事までやったんだから。今日はほんとに骨が折れた。
いつもは用事だけ済ませて昼過ぎには帰えるのが普通だったのに。今日はもう夕方近い時間だ。
「今日もロベランはしつこかったし」
普段も俺が城に行くと、ロベランは俺を何かしら捕まえようとする。
霊墓城が領主の城なら、領主である俺が住まなければならないということだ。彼曰く、主人のいない城は城ではなくただの建物らしい。
まあ、言いたいことはわかるけど、それは受け入れられない。ちょっとアレだ。霊墓城にいるとどうしても周りの視線が気になるというか、リラックスできないから。
「休むときはゆっくり休みたいしね。ねえ、ベベ」
「ぴゃあ♥」
ベベが嬉しそうに答えた。
城を出る前にミルクをあげたからか、ベベはとても機嫌がいい。
まあ、この子の機嫌がいいことは、俺にも良いことだし良いか。
「……にしてもうるさいな」
遠くから戦いの音が聞こえてきた。
モンスターが一匹。おそらく人型魔族が一匹。1対1の状況。
いつもなら無視して通り過ぎるけど、ちょっと状況が悪い。
なぜなら、気配を見る限りモンスターは大型モンスターで、それに比べ魔族はずっと小さいからだ。普通の魔族と比べても小さい。おそらく、子供か種族自体が小さい種族なのだろう。どちらにしても良い状況ではない。
子供も小人族も大体戦闘能力は低い。今は頑張っていても、いずれ限界を迎えるだろう。
そう思った途端、魔族の足取りが遅くなった。
「……危ないな」
急にスピードが落ちた状況から、足を怪我している可能性が高い。
このままではすぐにやられる。
くそー。もう少し耐えられると思ったのに!
俺は自分の影に向かって叫んだ。
「シュナイダー!!」
すると、地面に付いていた俺の影がどんどん伸びていきーーーー
[ヒヒィィーーーーン!!!!]
黒い馬の姿をとった。
炯炯と光る赤い目。普通の馬より一回り大きな体。周囲を圧迫する威圧的なオーラ。誰もが一目を見ては逃げるような、凶暴な姿。
デスナイトメアである俺の魂の半分。
幽霊馬シュナイダーだった。
戦闘時にはこの子に乗って戦場をかき乱したこともあるが、今回の目的はそれではない。
「シュナイダー、お願いできるか」
[ブルルゥーー]
シュナイダーが任せてくれという顔で首をかしげた。
よし、戦闘能力の高いシュナイダーがベベを預かってくれるなら安心だ。
戦いの場にまだ小さいベベを連れて行くのは気が引けるからさ。
だからシュナイダーにはここでベベを守ってもらう。
シュナイダーに承諾を得た俺は、ベベを木の幹に下ろしてシールドを張った。
大抵の攻撃は『守護の盾』が防いでくれるはずだが、『守護の盾』が防いでくれるのはあくまで害意のある攻撃のみ。虫に刺されるくらいでは発動しないし、こんな森の中、どんな虫や毒草があるかわからない。たかが虫や毒草だとしても、野生には一歩間違えれば命に関わるものもあるから、一種の保険て事だ。
「……じゃあ、行ってくる」
向こうの状況がわからないので、身バレ対策としてローブを羽織り、認識阻害マスクを取り出し被った俺は、すぐに音が聞こえてきた方角に向かい飛び出した。
走ってから間もなく俺は戦闘場所に到着した。
そこには灰色の森が広がっていた。
いや、これは灰色の森じゃない。これはーーーー。
「ーーーーっ! そこのあんた! 危ない!! 逃げて!!」
突然戦闘場所に現れた俺を発見した魔族、いや。獣人がモンスターの攻撃をギリギリで避けながら叫んだ。
やっぱり。
俺は獣人を見てそう思った。
予想通りモンスターに攻撃されている獣人の片足が石になっていた。その片足は周りの木と同じ灰色だった。それ以外にも肌の処どころが灰色になっている。モンスターの攻撃によって石化したのだ。
こんな能力を使えるのは一つしかなかった。
「……バジリスクか」
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