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黒騎士は疲れた




「ふぅーー」


 ハンナを見送って森の奥深くに作ったマイホーム(隠れアジトとも呼ぶ)に戻った俺は、ベッドに横になってため息をついた。

 今日は本当にいろいろと忙しかった。

 魔王様にティレンシア聖国の王女の世話をするよう命じられたり、ミノタウロスに襲われたり、帰りが遅くなった理由を説明したらハンスに嫌みをいわれたり、本当。最悪の一日という言葉しか出てこないな!


「疲れた……」


 家に帰ったらすぐ赤ワインを開けて、ノールさんがくれたチーズと一緒に飲もうと思っていたが、指一本動かしたくない。今思えば、一人で子供の世話をしなくちゃならない時にお酒を飲むのもどうかと思うし。


 はあ。こうなると、魔王様からもらった赤ワインを開けるのはまた先延ばしになるな。


 そんなことを考えながら、俺は額に腕を乗せてそっと目を閉じた。

 夕飯はちょっと一休みしてから考えることにしよう。

 どうせ一人暮らしだし。誰にも気を使う必要はないんだから。


 そんなことを考えていたら、横からガラガラと音が聞こえてきた。


「ぴゃあ?」


 ふと目を向けると、ガラガラを哺乳びんのように両手で持って遊んでいるベベが目に入った。


「ああ、君がいたね」


 そういえば、この子がいるから、もうこの小屋でも一人ではないのか。

 唯一心の安らぎであるマイアジトが……。

 もう俺に安住の地なんてないのか。

 ちょっと涙が出そうだなぁ。ぐすっ。


「……まあ、泣いてもしょうがないけど」

「ぴゃあ♥ぴゃあ♥」

「おお、おー。そうか。楽しいか」


 楽しそうでよかった。泣くよりはずっといい。

 手でほっぺをプニプニ押すと、ベベが片手で指をつかんできた。

 うわ! もちもちする、温かい、かわいい!

 はあ、いい、癒される。


「はぁ。よし! こんな可愛い子だし! どうせやるんだから前向きに考えよう!」


 子育てってきっと大変だろうけど、あれこれ気を使う事も多いだろうけど! まあ、でも、思春期のお姫様を相手に頭痛い事を考えるよりはマシかな。

 ……人と接すること苦手なタイプだし、俺。


 そんなことを考えていたら、ベベの黄色い瞳がぼやけてきた。

 そして、


「ふぅ、ぷぅ、ぷぅえええぇんーーーーー!!!!!」

「ええっ! 何でまた泣くんだ!?」


 大泣きし始めた。

 あっ! もしかしてお腹が空いたのか!? ハンナがミルクを飲ませてから少し経ったし!?

 俺は一度聖石で浄化したミノタウロスの乳をベベの口に近づけた。

 そして、拒否された。


「と、いうことは……」


 ……やはりおむつだった!!

 セイレンメイド長に教わったけど、うまくできるかな、俺。ううう、自信がない。(泣)


「はぁ。でも、ここでこの子の世話をする人は俺しかいないんだからな」


 俺は気を取り直しベベのおむつを交換した。

 それにしても、セイレンメイド長の教えが良かったのか、少々迷いはしたが思ったより簡単におむつを替えることがができた。


「おお! やろうと思えばできるもんだな!」


 よし、自信がついた!

 そうだ! 俺でも努力すればできる! 少なくとも、思春期のお姫様のヒステリーを堪えるよりずっとマシなことだし! 頑張ろう! 俺!






 そう決めてから3日が過ぎた。

 そして俺は壁に頭を打ち付けながら叫んだ。


「思春期のお姫様のご機嫌取りより子育ての方がマシ!?! バカか!!!!! うざけんじゃねーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」(小さな声)


 育児は労働だ!!!!! それもすごい重労働!!!!!!!!!!!!!!

 思春期のお姫様のご機嫌取りの方が百倍、いや!! 万倍はいい !!!!!!!!!

 ミルクは3時間ごとに1回飲ませなきゃいけないし、おむつもそのたびに交換しなきゃいけないし!!  しかも夜中に泣き叫んだら寝かしつけなきゃならない!?!!

 これマジで一人でやることじゃないんですけど!??!!?!!!!

 人が死ぬんだけど!!!!!!!!!(俺はもう死んでるけど)


「誰か助けてーーーー!!!!!!!!!!!」(小さな声)


 もう3日前から1時間も寝てないんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!

 アンデッドだからなんとか耐えてるんだけどね??? 普通の人ならもう過労で倒れてるはずだからな??????

 もう精神的に限界だ!!!!! 死なないけど!!!!!!! 休む暇がないからついつい変な笑い声出しちゃうし!!!!!! これやばいやつ!!!!!!wwwwwwwwww

 もしかして魔王様はこれも計算に入れてこの仕事を任せたのか!?!!? 俺を苦しめるために?!?!!? 

 だとしたらマジ怖いんですけど!!?!!??!!wwwwwwwwww


「とにかく誰でもいいから俺に休みをくれぇぇぇぇ」


 マジ死ぬ。(もう死んでるけど)

 俺は遠くを見ながら独り言を言った。

 だが、そんな事をしていられる時間も長くなかった。


「おぎゃあああああああああああああーーーー!!!!!」


 ベベがまた泣き始めた。

 俺は反射的にガラガラを振りながらベベのところに向かった。


「はいはい、今行きますーー。ミルク? それともおむつ? あぁ。またおむつか……」


 最初はあわてふためいたおむつ替えだが、今になっては目を閉じていても出来るほど慣れた。

 さすがに目を閉じてはしないけれど、何となくできるかもーー、みたいな感じはするんだよな。

 やらないけど。こういうのは綺麗にするのが大事だし。


「はぁ。それにしてもこの状態で今日はあのお城に行かないとダメなのか……」


 眠いし。行きたくない。


 実を言うと、今俺がいるこの小屋は秘密のアジトで、本当は魔王様からいただいたもっとちゃんとした城がある。

 霊墓城という、昨日ノールさんに言った死の谷のど真ん中にある薄暗くて殺風景な場所なんだけど。

 さすがにそんな場所ではゆっくり休むこともできないから、こうして城から離れた場所に別に小屋を建てたんだけど。

 しかし、ここはあくまで実生活用の住宅であり、ここまで部下が出入りするようになると、俺が俺として休める場所がなくなってしまう。 なので、奪命王である俺はまだその城に住んでいる事になってる。

 ……実際はほとんど使ってないし、俺としてはあれは業務用の建物なんだけど。

 つまり簡単に言うとあれは会社と同じ物で、普段でもあまり行きたいところではないんだが、疲れた今になってはなおさら行きたくない。


「でも今日は向こうでやらなきゃいけないことがあるんだよなぁ」


 いくら魔王軍四天王の一人である奪命王でも、仕事からは逃げられないのだ。この姫のベビーシッター業務から逃げられないのと同じに。シクシク。


「はあ、泣いても仕方ない。どうせ行かなきゃならないんだし。早く終わらせてくるか」


 先延ばししてもストレスが溜まるだけだし。むしろ早く済ませてきた方がいいだろう。

 俺はそう心の中でつぶやきながら、ベベを抱きしめ、小屋を出た。






 

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