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黒騎士と姫とミノタウロス農場2



 その後、戻ってきた農場職員に案内されて行った小屋で、俺はようやくミノタウロス農場の主人と会うことができた。


「本当に申し訳ございません……!!」


 ミノタウロス農場の主であるノールさんが頭を深く下げて謝った。

 下げられた髪の毛の中から、垂れ下がった牛の耳が見えるところを見ると、ミノタウロス農場の主であるノールさんは牛の獣人らしい。

 それにしても、どうやらノールさんは本当に申し訳ないと思っているようだった。





 正直、話をするまでは農場の主に一言言わないと気が済まないと思っていたのだが、本気で反省しているのなら、これ以上何かを言うつもりはない。


 俺はそっと顔に笑顔を浮かべながらノールさんに言った。


「頭を上げてください。幸い怪我人もいないし、そんなに丁寧に謝らなくても大丈夫です」

「でも驚いたでしょ? あなたの赤ちゃんもまだ落ち着いていないみたいだし。本当にごめんなさい。私たちの管理が甘かったせいで……!! ハンナも驚いたでしょ!?」

「大丈夫です! ナイトさんが守ってくれましたから!」

「それでもごめんね! ハンナちゃん!」


 ノールさんが元気に答えるハンナを豊満な体でキュッと抱きしめて優しく撫でた。

 すぐに抱きしめられたハンナには見えなかったようだが、牛に似た大きな瞳に涙を浮かべるのを見ると、ノールさんもかなり驚いたようだった。


 そりゃあ、自分たちのミスで人を殺しそうになったんだから。当たり前だよな。


 俺はガラガラとガラガラを振りながらそう思った。

 基本的に頑丈な魔族だが、ミノタウロスに轢かれても大丈夫なほど頑丈かというとそうではない。普通に怪我もするし、下手にすると死ぬこともあるだろう。

 農場主としてそれを誰よりもよく知っているノールさんだから、なおさら重く感じるのだろう。

 まだベベも落ち着いてないし、とりあえず落ち着くまで待ってみよう。

 雰囲気を考えるとガラガラを振るのもやめたいんだけど。ガラガラを止めるとすぐにベベが泣き始めるので、そこは理解してほしい。


「ふー、ごめんね、乱れた姿を見せてしまって」


 しばらくして、ようやく落ち着いたノールさんがテーブルにお茶を置きながら謝った。


「大丈夫です。ノールさんにとっても大変だったでしょうし」


 本当に問題なかった。おかげでベベをなだめる時間も取れたし。

 むしろ冷静に対処するのがおかしいくらい大変なことだったしね。

 でもノールさんはそうは思っていないようで、真剣な表情で首を横に振った。


「ええ、でも、お客さんの前で見せる姿ではなかったと思います」


 まあ、それもそうか。

 農場とはいえ、一つの商売をしている人が、お客さん、しかも初対面の人の前で涙を見せるなんて。ノールさんの気が晴れないのもなんとなく分かるような気がした。

 コホン! と空気を変えるように咳をしたノールさんが真剣な顔で言った。


「じゃあ、本題だけど、私は今回の件で皆に迷惑をかけたお詫びをしたいの。何か要望はないかしら?」


 私にできることなら何でもします! と、ノールさんは真剣な声で言った。

 うーん、何でも、と言われてもなぁ。


「俺は特に何も欲しくないんですけど、ハンナはどうだ」

「うーん、私もあまりないです。少しびっくりしましたけど、怪我をしたわけでもないし、ノールさんにはいつもお世話になってますから」


 ハンナの健気な言葉に嬉しそうに耳を少し動かしたノールさんが、頬を左手に当てて困ったように言った。


「あら、嬉しいことを言ってくれるのね。でもハンナちゃん、それでも何かないかしら、私もこの農場の主人として何もしないまま終わるわけにはいかないから。このままではハンスさんにも申し訳ないし」


 ノールさんがそこまで言うと、ハンナはうーん、と少し悩んでから口を開いた。


「うーん、じゃあ後で言ってもいいですか? 今は何も思いつかないんです」

「あら、そうなの。じゃあ焦らなくていいから、後で思いついたら言ってね」

「はい!」


 ノールさんとハンナちゃんの会話が終わったところで、横から幼い男の子の声が入ってきた。


「ねえ、ママ! もうそろそろ大丈夫? 僕、ハンナちゃんと遊びたいんだけど!」


 この小屋に来た時に職員からノールさんの息子だと紹介されたデールだった。

 彼はハンナの友達のようで、俺たちがこの部屋に入り、会話をする前から待っていたのだが。流石にそろそろ待ちくたびれたようだった。


「ああ、そうだね。ハンナ、少しだけデールと一緒に遊んでくれないかしら」

「はい! 行こう! デール!」

「うん!!」


 ハンナがデールの手を引いて外に出ると、小屋には俺とノールさん、そしてベベだけが残った。

 するとノールさんが俺の目を見つめながら言い始めた。


「じゃあ話を続けましょか、お礼に何か欲しいものありますか? 聞いたところによると、かなり危険だったらしいし、魔道具も使ったでしょ。可能な限り要望に応えるつもりなんですから、魔道具の代金を含め考えてください」


 ノールさんはそう言いながら、緊張した表情で唾を飲み込んだ。

 魔道具というのは基本、結構な値段がするものだが。ノールさんは自分が言った通り、本当に出来る限りの補償をするつもりのようだった。

 だが、緊張しているノールさんには申し訳ないが、本当に俺は彼女に望むものがなかった。


「うーん、特にないですね。あえて言うなら牛乳をちょっと安くしてもらえないかな? ぐらいですかね」

「えっ、それでいいわけ!?」

「はい。それでいいですよ、そもそもここにきたのもこの子の牛乳を買うために来たんですから」

「そ、そう……。あんた、欲がないのね」


 別にそんなことはないけど。今持ってることに満足しているだけだ。

 しかし、ノールさんは俺が言った報酬では納得出来ないようだ。

 しばらく悩み続けたノールさんは、ぱち! と両手を合わせた後、俺の腕に抱かれているベベを見て言った。


「よし! これから1年間。その子のミルクは私が担当するわ。そしてあなたの分も!」

「えっ、いいんですか? 販売品ですよね?」

「平気平気、子供一人に食べさせるミルクは、さっきあなたが捕まえた子一匹で十分だから! むしろ余るくらい!」


 まあ、俺が捕まえたミノタウロス一匹で十分なら良いか。俺が捕まえなかったら高い確率で殺処分されてただろうし。


「じゃあ、ありがたく頂きます」


 これでベベの食事はしばらく心配しなくていいかな。離乳食を作る時が来たらまた違うけど。

 ……その前にこの任務が終わればいいけど、多分、無理だろうな。


 そんなことを考えていると、何か言いたげな顔をしたノールさんが目に入った。


「他に何か言いたいことでもあるんですか?」

「ええ、その、あ、あるといえば、あるんだけど……」

「良いですから、気軽に言ってください」


 ベベのミルクもタダでもらったし。多分、おそらくだけど、これから長い付き合いになる可能性が高い。なのでノールさんの要望が何なのかはわからないが、難しいことでなければ、受け入れるのもやぶさかではない。


「……あの、うちのミノちゃんを捕まえたあの魔道具! 私たちに売ってもらえないかしら!」


 なるほど、そういうことか。


 

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