私は今日
私は今日、この世に誕生した。お父さんとお母さん、そして春の温かみを感じながら産まれて来たんだ。私がお腹の中にいるって分かった時、お父さんとお母さんはとっても嬉しかったんだって。まだ私の顔を見てもいないのに、「可愛いね、世界で一番。お母さんに似て、凄く美人さんなんだね。」って言ってたんだ。お父さん、伝えることはできないけど全部聞こえていたよ。
私は今日、一回目の誕生日を迎えた。おめでとうって沢山言われたんだ。私が初めて歩けるようになって、初めて「パパ。ママ。」って言った時、お父さんがすごく泣いてたな。その姿を見て、お母さんも泣きながら笑ってたっけ。最近はよく難しい言葉が聞こえてくるんだ。雨とか晴れとか曇りとか色んな難しい言葉。でもね、なんとなくだけどわかる気がする。お母さんが晴れだから散歩しようかと言った日、凄く眩しく感じたから。
私は今日、三回目の誕生日を迎えた。この頃には簡単なものを喋れるようになって、幼稚園に入園したんだ。まだ少し大きい制服を着て入園式の看板の横に立つ私を、お父さんとお母さんは泣きながら何枚も写真を撮っていたっけ。ねえ、そんなに泣かないで、沢山撮らないでよ。私恥ずかしいよ。というか、この洋服変だよ。皆私と同じだし、少し大きいよ。
私は今日、六回目の誕生日を迎えた。ついこの間、幼稚園の卒園式をしたの。またお父さんとお母さんが凄く泣いてたの。でもね、その時は私も泣いたの。初めて出来た沢山のお友達とさようならしないといけないって分かったら、涙が凄く出ちゃった。すぐ後に、小学校の入学式があったんだ。凄く大きな、大好きな水色のランドセルを背負って、入学式の看板の隣に立って写真を撮ったんだ。私、少しは大きくなったかな?
私は今日、十二回目の誕生日を迎えた。小学校の卒業式があったんだ。でも幼稚園の卒業式の時よりは悲しくないかな。だって、中学校は殆ど皆一緒の学校だから。今日でこのランドセルとはさようなら。入学した時はあんなに大きく感じてたのに、今は凄く小さいな。中学校で楽しみなこともあるんだ。それは部活。小学生の間続けてきたバスケットボール部に入部して活躍するんだ。私ならきっと出来るよね。
私は今日、十五回目の誕生日を迎えた。三年間努力して、偏差値の高い高校に受かることが出来たんだ。反抗期で沢山お父さんとお母さんに迷惑をかけたから、少しは恩返し出来てたらいいな。夜遅くに家に帰った時は凄く怒られたっけ。あの時はごめんなさい。友達と遊んでたら、楽しくていつの間にか時間が経ってたの。あ、そういえば私、部活でキャプテンをやったんだよ。
私は今日、十八回目の誕生日を迎えた。全てをかけたと言っても良いくらいの大学受験。第一志望の大学に受からなくて沢山泣いたよ。自分の努力が足りなかったんだって、そう自分自身を責めたんだ。でもお父さんとお母さんがお前は十分努力した、よく頑張った。そう言ってくれて嬉しかった。私、夢を叶える為に沢山勉強して、沢山これから努力する。
私は今日、二十回目の誕生日を迎えた。そう、成人したんだ。お酒、飲めるようになったんだよ。私の振袖姿を見て、お父さんとお母さんは凄く泣いてたな。ねえ、そんなに泣かなくても良くない?やめてよ、私まで泣けてきちゃったじゃん。これから、私は海外に留学に行くんだ。行ってくるね。
私は今日、二十三回目の誕生日を迎えた。社会人になって凄く忙しい毎日を過ごしてるの。最近のご飯はカップラーメンだけ。まともに寝られてないし、怒られてばかりの毎日だけど、ずっと子供の頃から叶えたかった夢を叶えられて、私は今凄く幸せ。そういえば、暫くお父さんとお母さんの声、聞いてないな。二人とも、元気にしてるかな。今度の休みに二人に会いに行こう。会えるの楽しみだな。
私は今日、結婚式場にいる。そう、遂に一生を添い遂げたいと思える人と出会えたんだ。真っ白で雪のようなふわっとしたウェディングドレスを身に纏って、髪の毛も化粧も綺麗にしてもらって、これから旦那さんになる人と誓いのキスをかわした。そして、私のお腹には小さな命が宿っている。一生をかけて、この子が幸せになれるように守っていくんだ。ああ、お父さんとお母さんにも私のこのウェディングドレス姿を見せたかったな。この子の顔を二人に見せてあげたかったな。もっと会っていれば良かったな。もっと親孝行をしていれば良かったな。この子には沢山幸せになってもらわないとね。いや、私達二人で幸せにするんだ、絶対にね。