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貧血

作者: 星雷はやと

 

「……うぅ……」

「だ、大丈夫か? 華?」


 下校する為に靴に履き替えようとすると、背後から苦しそうな声が響いた。驚き振り向くと幼馴染みが、下駄箱にもたれかかっている。彼女の顔色は悪い。


「動けない……無理」

「抱えるよ。辛かったら言えよ?」


 駆け寄ると、そっと抱き上げる。向かうのは保健室である。俺の幼馴染みである華は昔から身体が弱い。外で遊ぶことが出来ず、木陰から眺めているだけだ。そんな彼女は高校生になり、貧血状態になり校内でよく倒れている。

 その所為で保健室の常連となり、『白雪姫』とまで呼ばれる始末だ。日に焼けていない白い肌に『白雪姫』を助長させるのだろう。俺としては彼女が少しでも元気に過ごしている姿を見ていたい。


「うぅ……」

「大丈夫か? ソファーに居るから少し寝て休め」


 保健室に着くと、間の悪いことに養護教諭は居なかった。そっと華をベッドに寝かせ、ソファーに向かおうとすると袖を引かれた。


「ごめん……折角、カフェに行こうって誘ってくれたのに……」

「良いから、寝ていろよ」


 苦しそうに眉を下げる彼女は謝罪を口にした。確かに今日はこの後に、最近人気なカフェに行こうと約束をしていた。しかしそれは彼女の体調が珍しく良かったからだ。体調が芳しくない時は登校出来ない程であるが、今日は一日授業を受けることが出来ていた為すっかり油断をしていた。


「ごめん……」

「良いから、寝ていろよ」

「で、でも……」

「華の体調が良い時に、今度行こう」


 華は約束を反故にしてしまうのを相当気にしているようだ。今は休息をとる方に専念して欲しい。俺は次の約束を口にした。


「……っ、うん。ありがとう……」

「嗚呼、だから今は休め」


 作戦は上手くいったようだ。彼女は安心したように微笑んだ。ベッドのカーテンを閉め、今度こそソファーに座った。


「ふわぁ……眠い……」


 不意に欠伸が出た。今日は体育の授業があって疲れたのだろうか、睡魔に抗えず瞼を閉じた。



 〇



「ねぇ、大丈夫?」

「……っ!? 悪い。寝ていた……大丈夫か?」


 肩を揺らされた振動で意識が覚醒した。慌てて顔を上げると、不思議そうな顔をする華が居た。彼女の具合が悪いというのに、寝てしまうなんて俺は一体何をしているのだ。

 保健室は何時の間にか、夕陽に照らされ赤く染まっている。随分と眠ってしまったようだ。


「うん! 私なら大丈夫! ほら!」

「分かったから、大人しくしていろ。さっき倒れたばかりなのを忘れたのか?」


 両腕を掲げて体調の良さをアピールする幼馴染みに焦る。貧血には急激な動きは厳禁だからだ。


「大丈夫だもん!」

「一応、家の人に迎えに来てもらおう。あ、鞄! 取ってくるから座って待っていろ……っ!?」


 俺の心配を他所に、華は顔色の良い顔で笑った。一時的でも、元気な姿を見ることが出来て嬉しい。俺は下駄箱に置き忘れた鞄を取りに行こうと立がり、急な眩暈に襲われた。

 思わずソファーの背凭れを掴み、転倒することを回避する。


「え……大丈夫?」

「嗚呼……急に立ち上がったからな。もう大丈夫だ。待っていろ」


 心配する幼馴染みに頷くと、ゆっくりと立ち上がり保健室を出た。


「ちょっと吸い過ぎちゃったかな?」


 赤い瞳を細め、彼女が笑ったのを知らなかった。



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