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森を抜けて山を登り、丘を下ってもうひと山越えた場所に、城が建っている。年中、白い霧で覆われて城の全貌を見た人はいないという。
そもそも、ここ人がくることはそうない。
人と呼ばれることがない者が、いる。
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「王、ご報告に参りました。」
「うん。」
「第三大陸と第五大陸の戦争は、まだ、長引くようです。」
だだっ広い部屋の奥、王座に座る者と、それに向かって跪く男性。
人気がなく、薄ら暗く、冷たい石の部屋には不釣り合いに、真っ白な騎士服を着た金髪の青年である。
どこぞの王子のような見目は、人々からの人気が高そうだが、いまはここにふたりきりしかいない。
「ーーそうか。そろそろ、いい頃だね。」
はきはきと報告した青年と対照的に、静かな冷たい声が響く。
王座に座るのは、城に似合いの、漆黒の青年だった。立派でおどろおどろしい椅子に座るには、年若くか細いが、何処か近寄りがたい威厳があるのは、真っ黒な目に感情がないからか。
「フォイア頼むね。」
「御意。」
「それから、第一にいる彼はどうかな。」
「今のところ、有力です。当初は雷の属性かと言われていましたが、光属性だということが、公に認められました。所謂、勇者の扱いですね。ただ、いかんせんまだ、若すぎます。」
「そういえば、マニエーテがぴよちゃんって呼んでいた気がする。かわいいんだね。」
「…あれは、かわいいというよりは、ただの生意気ですね。」
「今度、連れておいでよ。」
「側近にするには、まだ早いかと…。」
「みんなが認めてる人は久しぶりだし。きっと大丈夫だよ。もしだめなら、またクロックにお願いしよう。今までもそうだったでしょう。心配なら、みんなでおいでよ。もしものことがあっても、誰かがなんとかできるでしょ。」
それは、魔王と呼ばれる者とその側近の会話にしては、どこか気が抜けたような雰囲気だった。
まるで、新しいお友だちを連れておいで、とでも言うような。
フォイア、と呼ばれた男性は、表情には出さないが、内心困っているようだった。その証拠に、周りでぱちぱちと小さな火花が散っている。王子様面なので、単にキラキラオーラが出ているようにもみえるが。
困るのも当然。なんせ、魔王の元に勇者を連れて来いというのだから。
「わかりました。停戦協定の際、話をつけて参ります。」
「さすがフォイ。ありがとう。」
冷たい声に、わずかに柔らかさが含んだようだった。
その声のあと、ばちん、とひとつ火花が弾け、フォイアの左手をわずかに焼いた。
「ああ、ごめん。大丈夫?手が赤くなってる。薬塗る?」
「結構です。ではそろそろ、戻ります。」
口早にそういうやいなや、フォイアの周りを青い炎の渦が包んだ。
全てを包むと瞬間、その炎は風に消えた。
「君も相変わらず、かわいいね。」
感情のこもってない呟きが落ちた。




