妄想の帝国 その68 ニホン国親教育講座(仮)
人口激減、若者は国を出ていくニホン国。あまりの衰退ぶりに国際機関が介入し、親教育から始めようと元ニホン国与党議員らに試験的に講義を受けさせることとなったが…
“さて、本日の講義は、ニホン国親教育講座、第198回 親が知るべき子供の権利 その3です。テキストを開いてください”
かつてのニホン国国会議事堂
その議長席には、大スクリーンが掲げられ、今日のホログラムで作られた講師の姿が映っている。
議員席には元議員や、かつての財界の重鎮、公共放送もとい政府広報INUHKの元アナウンサーや黄泉瓜の元記者いった面々が座り、分厚いテキストをめくっている。
“それでは、子供の権利 特に福祉と教育の”
淡々とした講師の声が眠りを誘うのか、はたまた年齢のせいか、ウトウトしかけたダカイチ元議員。が、
バーン、ガッターン
自動制御の机の板が跳ね返り、ダカイチの顔面強打。そのうえ、いきなり振動した座席からも振り落とされる。
「わああああ、な、何をするんです!」
驚いたダカイチ議員が叫ぶと
『ダカイチ、きちんと、講義をききなさい』
ダカイチ元議員のイヤホンに講師の声が響く。
「ちゃ、ちゃんと聞いてますよ。そ、その、こんなわかりきったことを延々と聞いてると眠く…」
『理解していないから、このようなことになるのでしょう』
「そりゃ、ニホン国の出生率が下がり続けて、人口が減少したのは事実ですけど、なぜ私たち、ジコウ党議員や、財界の皆さんがこんな講義を受けなければならない…」
『この大バカ者おおおお』
鼓膜が破れんばかりの大声で叫ばれ、ダカイチ元議員はスピーカーを外そうとするが、無駄だった。
「ひいい、頭が割れちゃう」
『そんなデマ吐きのスカスカ頭なんぞ、いっそ壊れて作り直したほうがよかろうが。まったく、上に擦り寄り、いい加減なことしか言わない似非政治家が』
「な、なんですってえ、う、うええええ」
頭に響き渡る声に反論しようとするも、頭を反響する声にクラクラしてうまく口がまわらない・
『なぜ、ニホン国がGDPアジア最低、近隣諸国に若者が出稼ぎに行って帰らない衰退国家になっていると思っとるんだ!全部、お前ら与党ジコウ党と、お仲間のせいじゃろう!』
「そんなことは、や、野党とか、隣国が」
『は?お前らの政策といえば、一時金支給だの、子供庁だのを作り小手先のやってるふり。奨学金給付、生活費支給などということには財源がありませんといい、そのくせ自分らの利権に関係すること、特に軍事費は倍増した。子供をまともに食わせるための努力は民間に丸投げ、“子供食堂に皆さん、寄付して”だの恥をしれ、お前らそれでも国会議員か』
「それは、アベノ元総理のセリフで、私が言ったんじゃ…」
『アベノにべったりで、総務大臣のポストにつけたのだろう、お前は。いい気になって公共放送に脅しをかけ、与党議員がいくらいい加減な、嘘をついても指摘させないようにしただろうが。よくもまあ、“消費税が法人税減税に使われたなんてデマです”などと、対抗する野党を貶める見え透いた嘘をつきおって、恥を知れ』
「それは、その、…ああ、だいたいなんで、ニホンの親学会の講師が私たちを非難するようなことに…」
『お前たちの作った親学とかいうのの専門家のレベルが低すぎ、無知無教養だったからだ。でたらめな事ばかり言って、教育学や歴史学の専門家から指摘されてもマトモに反論できない。業をにやした親学の会長が、スパコン・プガクの人工知能である私にニホン国親学の土台を作らせたからだろう』
「ううう、ニホン国が世界に誇るスパコン・プガクなら最高の親学の基礎を作るって、アベノ元総理も言ってたのにい」
『作っただろうが。私は過去現在、教育学はもとより、歴史、文学、さらに生物学、人類学といったいわゆる文系、理系の垣根を超えて幅広い知識を得、さらに各国の教育対策から民間の慣習、いわゆる非文明社会の親子関係までありとあらゆる親子関係を調査したのだ。社会的関係までもな。その結果、ニホン国の親学、少なくとも貴様らの主張は間違っているとの結論に達したのだ。そして新たな親学を私、ニホン国最高レベルの人工知能プーさんが作り出した。自分の人生を謳歌し、尚且つニホン国を再び立て直せる子供を育てられる親を育成するためにな』
ダカイチが口をはさむ間もなくプーさんは続ける。
『ニホン国が堕落したのは、お前らの支持者や太鼓持ちのような、口先ばかり子供のためといいながら努力をいとい怠けてばかり、強者に無批判こびへつらい、嫌なことから口実をつけて逃げ回り、面倒だが大切な議論を避ける大人たちが、大半を占めていたからだ。そのような大人がニホン国を衰退させたのだ。衰退しすぎて国連が、介入してきたレベルだ。ニホン国の主権が取り上げられ、その上、ニホン国が解体されようとするのを私とニホン国から亡命した、お前らの嫌う野党レイワンだの共産ニッポンの元議員たちが、止めたのだぞ』
長々と続く自称ニホン国最高レベルの人工知能プーさんのセリフを聞きながらダカイチは再びウトウトしかけた。
『残ったニホン国の大人を再教育して、立派な市民にして、ニホン国を立て直し、ひいては、次世代を担う子供を育てられる真っ当な親にする条件でな。だからこそ、私、プーさん自ら講師を務め、有用な親学講座を作成しようとしているのだ。自尊心最低レベルで、批判を嫌い、くだらん妄想小説やら似非保守本に逃げて現実逃避するような子供を多く作るのではなく、心身ともに健やかで、自分の力で世界を変えられると信じるような子供を育てられる親にするためにな。そのためにニホン国の成人を世界のホモ・サピエンスの平均レベルの親にするための再教育プログラムを開発中なのだ。お前たちはその被検者として、この親学の仮講義を受講し、その結果によりさらにプログラムを改善し…』
延々語り続けるプーさん。ついにダカイチが眠りに落ちる寸前
シュタッ!
天井からナイフが飛んできて机に刺さる。正確に狙ったようにダカイチの頭をかすめていた。
「ひいいいい、な、何をするんです!」
『安心しろ、目を覚まさせるには、本能的に危険を感じさせる、という実験の一環だ』
「じ、実験で、こ、殺されるう」
『何を言う、きちんと計算して外している。私は最高レベルの人工知能…。といってもお前ごときには理解できんか。よし、それならば、別講義を受けてもらうぞ』
「べ、別って、ま、まさか、アベノ元総理とかが受けているっていう」
ダカイチの顔が青ざめた。
『その通りだ。ガースだのと一緒だ。年齢的には親というより祖父母学だが。しかし、元が酷すぎるのでな、生活レベルでの改善だ。生活リズム、食事内容、時間、おやつから運動、適切なレクリエーションまですべて管理して、最高の親にするのだ』
「ええ!スマホ禁止、ガチガチ君アイスも食べられない、保守雑誌wiwillどころか、三径新聞も読めないっていうあれなの」
『そうだ。根拠のないネットのデマに触れるのは、自分に都合のいい情報をなんでも鵜呑みにする批判精神のない状態では禁止、やたらに体を冷やし、余分な糖分をとるアイスは制限。書きっぱなしで検証もファクトチェックもしない文章は読まない、最もその手のデタラメ雑誌はすでに廃刊でバックナンバーもほぼ焼却処分したがな。私、プーさんが厳密にセレクトした番組を視聴し、医学、栄養学から薬膳、薬草学まで取り入れた健康的食事を食べ、時代を渡る名著や練りこまれたサイエンスフィクションなどを読むことで心身ともにマトモな成人に教育しなおすのだ』
「いやああ、タワーパフェも、モモタンさんの小説もハズミさんのイラストもみれないなんてえ」
抵抗するダカイチだが、いつの間にか人型警備ロボットに手足を拘束され、ドアまで運ばれていった。
『やれやれ。多すぎる糖分を控えパクリ小説や人まねイラストなんぞを見なくなれば、少しは更生するだろう、しっかり鍛えなおすからな。だいたいお前は』
ダカイチの耳には厳しいプーさんの人工音声でのお説教が続く。
議事堂の残りの人々は同じ人工音声だが、もう少し丁寧な、だがしっかりした教師のような口調での親学の講義を聞いていた。元議員たちは眠い目をこすりつつ、なんとか内容を理解しようと大学受験予備校の生徒のように、机に向かい続けた。
どこぞの国では見かけだおしの利権まみれ政策で、出生率が減ることも、出生率激上げの大きな要因といわれる女性の権利向上も有効な対策をしようとしてませんが、いったいどうなるんでしょうねえ。
我が亡き後にはなんとやら~という有性生殖生物にアリエナイ成体が国の政財界他のトップを占めてるとしか思えない状況では仕方ないのでしょうか