97.新たな生活
連続投稿中になります。
読み飛ばしにご注意ください。
あの後、めちゃくちゃセックスした。
……いや、深い意味はない。
ただ、1度言ってみたかったセリフだから言ってみただけである。
ガロンドルフ・バスカヴィルとの決闘が終わり、すぐにスレイヤーズ剣魔学園は夏休みに突入した。
日本の学生たちがそうであるように、夏休みの過ごし方はそれぞれだ。
地方の実家に帰省して家族と過ごす者もいれば、学生寮や下宿に残って友人と夏を謳歌する者もいる。
勉強に明け暮れる者もいれば、命を削るような勢いで遊び回る者もいる。
俺――ゼノン・バスカヴィルの夏はどうだったかというと、同級生への暴行により謹慎を食らっていた時期と特に変わらない。
ウルザとエアリス、ナギサの3人と連れ立ってダンジョンに潜り、ギルドの依頼を達成したりして過ごす日々。
ナギサとは毎朝のように剣術の鍛錬をして……時折、気分転換に女性陣を連れてデートに出かけて機嫌を取る。
変わったことといえば夜の生活なのだが……その点については深くは語らない。
溜まりに溜まったエネルギーが火山の噴火のように爆発してしまった――とだけ語っておくとしよう。
いや、まったく。精力増強効果のあるポーションがあってよかったと思う。アレがなければ、干物になって命を落としていたことだろう。
そんな具合に夏を満喫したわけだが……学生の夏休みというのは気がつけば終わっているもの。
それはゲームの世界でも例外ではなかったらしく、この世界にやってきてから初めての夏はいつのまにか野風のように過ぎ去っていた。
「そんでもって、また学校か……どんだけ展開が早いんだか」
夏休み明け。スレイヤーズ剣魔学園にて。
中庭から校舎を見上げて、俺はぼんやりとつぶやいた。
刺激的な夏休みはすぐに終わってしまった。
そのことを寂しく思っているが……同時に、ホッとした部分もある。
1日中美少女と過ごす日々。それが1ヵ月も続いたことで、俺はすっかり精魂尽き果ててしまっていた。
幸せな日々といえばもちろんその通りなのだが、それが3人も4人も重なればある種の苦行である。
精力増強ポーションの効力だって限界がある。こんな日々がいつまでも続いていたら、カマキリのようにオスがメスに捕食されるという事態が生じていただろう。
「どうかしたですの、ご主人様?」
「ゼノン様?」
中庭に立って校舎を見上げる俺に、ウルザとエアリスが怪訝そうに声をかけてきた。
幼児体型のウルザ。豊満でグラマラスな肢体のエアリス――女性としては真逆のタイプの2人だったが……どちらも瞳はキラキラ。肌はツヤツヤ。日々の生活が充実していることが初対面の人間にもわかるような満ち足りた顔をしている。
「結構な事じゃねえか。充実しているのは夜の生活のほうだけどな……」
「ゼノン様、早く参りましょう。ナギサさんも待っていますよ?」
「ああ、そうだな。さっさと教室に行くか」
ちなみに、今日はナギサと一緒に登校していない。
ナギサは夏休みの後半から、クラスメイトに頼まれて『剣術部』というクラブの活動に参加しているのだ。
知っての通り――ナギサは剣術道場の娘であり、青海一刀流を修める剣士である。
クラスメイトの頼みで部員に剣術の指南をしているらしく、今日も朝練に参加するために早めに屋敷を出て学校に来ているのだ。
以前のナギサであればクラスメイトのお願いなど冷たくあしらっていただろうが、最近のナギサは友人付き合いに積極的になっていた。
仇討ちを果たしたことで心の余裕ができたのか、『剣術部の部員に剣を教えて、あわよくば流派復興の礎にしてやろう!』などと大きな胸を張って宣言していた。
「ナギサさん、もう朝練は終わっているですの。教室で待ってるですの」
「ああ、さっさと俺達も行くとしよう。新学期に早々遅刻じゃ、またワンコ先生に怒られるからな」
「はあ、ワンコ先生?」
「あー……そんなこと言ったか? さっさと行こうぜ」
思わずネット上のあだ名を口にしてしまったが、なかったことにして教室に向かう。
教室の扉を開けるとナギサがクラスメイトと歓談していた。
俺に気がつくと、友人に謝罪をしてからこちらに歩いてくる。
「遅かったな、遅刻ギリギリだぞ。我が主よ」
「ああ、道が混んでいて馬車が遅れたんだ。部活の朝練はどうだった?」
「うむ。皆、まだまだ未熟であるが筋は悪くない。人に剣を教えるというのも存外に楽しいものだ」
「そうかよ、充実しているなら何よりだ」
「ああ、満ち足りているとも。剣士としても…………女としてもな」
「ブフッ!」
爆弾発言に思わず吹いてしまった。
誰かに聞かれてやしないかと慌てて周囲を見るが、椅子に座っている女子生徒の1人が唖然とした目でこちらを見つめている。
「あっ……あわわわっ!」
女子生徒は俺と目が合うや、アワアワと離れた席に移動してしまった。
俺の顔が怖かったのか、それとも、クラスメイトの性事情を知ってしまって気まずくなってしまったのか。
「ナギサ……場をわきまえろよ。公然の場所だぞ」
「構わないではないか。私が……エアリスやウルザが貴方の女なのは事実なのだ。強き男が複数の女を娶るのは、我が国では自然なことだぞ? 甲斐性があることを自慢してやればいい」
「……お前の国ではどうか知らないけどな。この国では一応、一夫一妻が基本なんだがな」
常識的な話をしてやるが、ナギサは不思議そうに瞬きを繰り返した。
「それはおかしいな。この国も貴族は多くの妻をとることがあると、エアリスが言っていたぞ?」
「うっ……」
「我が主、貴方はもうバスカヴィル家の当主なのだろう? ならば気にすることはあるまい。『こいつらが自分の妻だ』とでも胸を張るといい」
そう――俺はゼノン・バスカヴィル。バスカヴィル家の新たな当主。
『バスカヴィルの魔犬』を継ぐ、スレイヤーズ王国の闇の支配者となっていたのだ。
次回更新予定:7月29日0時頃