59.ナギサの疑問
2話連続投稿になりますのでご注意ください。
「おまっ、こんな場所で何てことを……」
俺は周囲をキョロキョロと見回しながら、ナギサを咎めた。
公園には子供だって大勢いるのだ。言っていいこととそうでないことがある。
幸い、ベンチの周りには俺達以外に人はいなかった。
「すまない、どうしても気になってしまったのだ。私は貴方に弟子入りしたのだが、技を伝授していただく報酬として必要であれば、この身体を捧げる覚悟だった。昨晩もそのつもりで風呂と閨を共にしたのだが……結局、貴方の方から私に触れることはなかったな」
「…………」
「ひょっとして私に魅力がないのかと落ち込みもしたが、今日の様子を見る限り、そうでないことがわかった。貴方はずっと私のスカートを気にしていたからな」
「……なるほど、さてはそれが狙いで下着を着けてないとか言いやがったのか」
考えても見れば、いくら和服が普段着であるからといってパンツも履かずに外出するなどとんでもなく非常識なことである。
俺の反応を探り、自分への好意が少しでもあるのか確認したかったのだろう。
「いや、本当に下着は普段からつけてないぞ? 制服のスカートは短いので、流石に学園では履いているが」
「聞きたくなかった!」
真相を確認するつもりが、残酷な真実を引き出してしまったようだ。俺は愕然として頭を抱える。
「私を……いや、セントレアやあのメイドのことも女性として見ていながら、どうして手を出さないんだ? おそらく、二人も君の子種を欲しがっていると思うが?」
「……子種とか言うな。生々しいんだよ」
そして、さりげなくウルザのことを除外してやるな。アイツは外見はともかくとして、俺達と同年代だ。
「まさか不能であるわけではないのだろう? 浴室ではキチンと大きくなっていたからな」
「だからそういうことを露骨に言うなって……」
俺は溜息をつきながら頭を掻く。
ナギサの疑問に対する回答を探すが……考えても見れば、本当に俺はどうして彼女達に手を出さないのだろうか?
ここは18禁ゲームをもとにしたであろう世界。そして、彼女達はそのヒロインである。
本来のシナリオであればレオン・ブレイブによって抱かれていたはずの女性達だ。
手を出してはならないというルールなどない。それどころか、彼女達だってそれを許してくれている。
それなのに、俺がヒロイン達を抱いていない理由は果たして何なのだろう。
「……ああ、そうか。俺はビビってんだ」
この世界において、ゼノン・バスカヴィルはヒロイン達を卑劣な手段で陥れ、その身体を好き勝手に弄ぶ寝取り男である。
俺は心のどこかで、ゼノンとなった自分がゲームのような悪党になることを怖がっているのかもしれない。
女性を抱いたことがきっかけとなって、自分がゲームのような悪党に覚醒してしまう可能性がある。そんなことを無意識のうちに危惧していたのだ。
それに――男女の営み、即ちセックスには依存性がある。
エアリスやナギサ、レヴィエナといった類まれな美女・美少女が相手となればなおさらのこと。
一度、彼女らを抱いてしまえば、俺は夢中になって他のことが手につかなくなってしまう恐れがあった。
「……俺には、やらなくちゃいけないことがあるからな。女に溺れて日和るわけにはいかないんだよ」
不幸や苦難が人を成長させることがあるように、幸福や安息によって人が堕落させられることもあるのだ。
俺はまだ、この美しくも残酷な世界を生き抜けるだけの力を得たとは思っていない。
ナギサ達と愛を語らうのは、俺がこの世界で戦い抜くために十分な力を得てからでも遅くはないだろう。
「然り、それは納得のいく理由だな」
俺の答えがお気に召したらしく、ナギサは深々と頷いた。
「欲を断ち、己に枷をかけることによって修練を積むのは効果的なやり方だ。それほどの力を得てなお、貪欲に上を目指し続ける姿勢には敬服する。やはり、貴方を師として仰いだことは無駄ではなかったようだ」
「そんな大それたものではないと思うが、わかってくれたのならば何よりだ」
俺は「ふう」と一度息をついて、コップに残っていたジュースを飲み干した。
「そうだな……アイツとの決着がついたら、改めてお前らとの関係を見直すとしようか」
「アイツ……? 誰ぞ、倒したい相手でもいるのかな?」
「…………」
その問いに答えることなく、無言のまま唇を吊り上げる。
俺の頭の中には、この世界における宿敵である父親――ガロンドルフ・バスカヴィルの顔が浮かべられていたのであった。
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