53.美女と美少女の朝
その夜のことを俺は生涯忘れることはないと断言できる。
バスカヴィル家の屋敷に泊まることになったエアリスとナギサであったが、彼女らが寝泊まりする部屋を巡って騒動が起こったのである。
それというのも、俺が自分の奴隷であるウルザや専属メイドのレヴィエナと、同じベッドで眠っていることが原因である。
この2人との同衾に慣れてしまい、それが他者からは不道徳に見えることを失念していた。
「若い男女が同じベッドで……はしたないです。アウトです。容認できません!」
「だったら、弟子である私もご一緒しても問題ないな。護衛は多くて困ることはあるまい」
「私だって一緒に寝ます! 神の名の下に、破廉恥なことは許しません!」
2人は口々に言って、俺と一緒に寝ることを主張してきたのだった。
最初は拒んでいた俺であったが、彼女らが恐ろしく頑固であることは短い付き合いの中で学んでいる。
結局、風呂の時と同じように俺が折れることとなり、5人で眠ることになったのである。
俺のベッドはかなり大きなサイズであったが、さすがに5人で使うとなるとスペースが足りない。そのため、客間から余っているベッドを運び込んで、2つのベッドを連結することにした。
キングサイズベッドによって俺の部屋は大部分が占領されることになり、テーブルなどの家具の一部を他の部屋に移すなど、夜中に大規模な模様替えが行われたのである。
そして、長い夜が明けて朝がやってきた。
俺は思い瞼を開いて、開口一番に率直な感想を口にする。
「……寝苦しい」
巨大なベッドの真ん中に眠っている俺であったが、左右から美少女によってサンドイッチされている。
それぞれが眠る配置は女性4人によるジャンケンで決められており、俺は当然のように真ん中だと決められており参加権が与えられなかった。
右を見れば小さな美少女。ウルザが俺の腕を抱いてスヤスヤと心地良さそうな寝息をたてている。
左を見れば大きな美少女。エアリスがこれまた俺の腕を抱きしめ、ふくよか過ぎる胸の谷間に押し込んでいる。
昨夜はさんざん「はしたない」とか「ハレンチ」だとか言っていたエアリスであったが、薄手のネグリジェは上のボタンを2つほど外しており、かなり大胆に胸部が露出していた。
ちょっと角度を変えれば山の先端を拝むことも可能である。どっちがハレンチだと言ってやりたい気分である。
「んんっ……はあん……」
「うっ……」
俺の腕を抱いたまま、エアリスが悩ましそうな寝息を漏らした。どんな夢を見ているのか、俺の肩に顔を押しつけて愛おしそうに頬をすりつけている。
何というのか……とんでもなくエロかった。
本当にツッコミどころが多い状態だった。下ネタではなくて。
「…………」
俺は鋼の意志によって欲望を振り払い、美少女の胸部からゆっくりと腕を引き抜いた。そのまま上体を起こすと、ベッド全体が見渡せるようになる。
ウルザの背中側には寝間着姿のレヴィエナが上品な寝息をたてており、エアリスの側には髪を下ろしたナギサが眠っている。
ナギサは時代劇のような白装束を着ており、胸には刀を抱いていた。どうやら護衛をするためというのは単なる口実ではないらしく、いつでも戦えるようにしているようだ。
「……まさか、これが毎晩続くんじゃないよな?」
「ふあ……おはようございますの。ご主人様」
思わずつぶやいた独り言に起こされたのか、ウルザが目をこすりながら起きあがってきた。
続いて、レヴィエナ、ナギサの順番で目を覚ましていく。
「んんっ……ゼノンさまあ……」
意外なことに、最後まで眠っていたのはエアリスである。
むずかるように寝返りを打ったエアリスは、ベッドの上で上半身を起こした俺の大腿に頭を載せて、幸せそうに表情を緩ませる。
「……この女」
ようやくわかった。
このメンバーの中で、俺がもっとも注意をしなければならないのはエアリス・セントレアに違いない。
口ではモラルや常識を語っていながら、体つきと行動は誰よりもエロい。
今だって俺の太腿に頭を載せて、顔は股の間に向けられている。もう少し首を動かせば、鼻と唇がやばい部位に触れてしまうことになるだろう。
まるで朝のご奉仕をするような光景に、すでに目覚めている女子3人は白い目になっていた。
「……ゼノン坊ちゃま」
「レヴィエナ、やれ」
「かしこまりました」
レヴィエナが恭しくうなずき、エアリスの首根っこをつかんでベッドから引きずりおろした。
「むぎゅっ……な、何ですか!?」
「おはようございます。セントレア様。もう朝でございます」
「貴女は……ええと、レヴィエナさんでしたよね? もっと優しく起こしてくれてもいいじゃなですかっ」
「失礼いたしました。発情した雌犬と間違えました」
「め、めす? へ……?」
エアリスは不思議そうに俺たちの顔を順繰りに見て、首を傾げた。
「皆さん、どうかされたのですか?」
「……エアリスさん、はしたないですの」
「……セントレア、流石にそれはないと思うぞ」
「へ……?」
ウルザとナギサに口々に言われて、エアリスはますます表情を困惑させる。
「枢機卿が泣くぞ。まったく……」
俺も呆れかえってつぶやき、途方に暮れたように天井を仰いだ。
こうして、専属メイドとパーティーの仲間、即席ハーレムと迎える最初の夜明けが訪れた。
どうやら、複数の女性に囲まれる生活はマンガやゲームとは違い、想像以上に苦労するようである。
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