40.自由と断罪
翌日、いつものように学園に登校するや、生徒指導室へと呼び出されてしまった。
担任のワンコ先生、それと学年主任や生徒指導教員に囲まれて厳しく尋問されたのは、昨日のダンジョンでの出来事についてである。
どうやら、エアリスと見捨てた連中が俺のことを学園に報告したようだ。
いわく、『ダンジョンを探索していたら突然、魔法で拘束されてその場に置き去りにされた。あと少しでも魔物に襲われて殺されるところだった』とのことである。
自分達がエアリスを囮にして見殺しにしたことは一切言わず、自分の都合の悪い部分を完全に無視した身勝手すぎる報告である。
「そうだな、事実だ」
しかし――俺はそっけない口調で答えた。
連中の報告は詳細を欠いたものであったが、内容自体に嘘はない。
俺が彼らに魔法を打ち込んでその場に放置したことは、紛れもない事実なのだ。
「なるほど……理由を聞いてもいいかしら?」
ワンコ先生は責めるような目をしながら、それでも真摯な口調で聞いてくる。
「貴方は色々と良くない噂を聞くけれど、意味もなく他者に暴力を振るう人間ではないと思っています。何か理由があるんじゃないですか?」
「理由なんてあるわけないですよ! そいつはバスカヴィルのクズです!」
答えたのは俺ではなく、生徒指導の男性教員だった。頭の禿げた中年教師がヒステリックな様子で怒鳴り散らす。
「どうせ金や魔物の素材を奪うためにやったのでしょう! 強盗を働くような犯罪者を学園においておけば、我が校の名誉に傷がついてしまいます! 即刻、退学にしてやるべきです!」
「…………」
随分と一方的な言い分である。
そういえば……この中年教師はゲームに登場する敵キャラだった。学園の一部の生徒から賄賂をもらって成績の改竄やテスト問題の横流しをしており、さらに女子生徒の弱みを握って猥褻な行為を働いていたりするのだ。
ゲームではこの男の本性を偶然にレオンが知り、脅迫を受けているサブヒロインを救うために戦って全ての悪事を明るみに出すのだが……。
「こちらの言い分も聞かずに断言ですか? ひょっとして、アイツらから賄賂でも貰いましたか?」
「なっ……!」
図星を突かれたらしい。中年教師が面白いように動揺した。
こんなわかりやすい男が、よくもまあこれまで悪事を隠し通すことができたものだ。俺は呆れながら椅子から立ち上がる。
そのまま扉に向かおうとする俺に、ワンコ先生が慌てて声をかけてきた。
「バスカヴィル君、話はまだ終わってませんよ!」
「十分に反省はしています。だから、これからしばらく自主的に謹慎したいと思います。正式な処分が決まったら、屋敷のほうまで連絡をください」
「そんな勝手な……!」
「昨日の件についてですが、セントレアさんに話を聞いてみてください。きっと面白い話が聞けますよ?」
俺はそれだけ言い捨てて、ワンコ先生の制止を振り切って生徒指導室から出て行った。
ここで抗弁をすることも可能だが……ワンコ先生以外の教職員は俺のことをバスカヴィル家の人間として、最初から悪人と決めつけている。やったやらないの水掛け論になることは目に見えていた。
ならば、申し訳ないが後のことはエアリスに任せるとしよう。彼女ならば信用もあるし、俺のことも良いように説明してくれるはずだ。
「話は終わりましたの? ご主人様」
部屋から出るや、廊下で待機するように命じていたウルザが駆け寄ってきた。
まるで飼い主の帰りを待っていた子犬のようである。もしも尻尾があったのならば、左右に勢いよくブンブンと振り乱されていたことだろう。
「ああ、行くぞ」
俺は短く答えて、校舎から出るべく昇降口へと向かった。
これでしばらく学園を休むことになるが……むしろ好都合である。
学校の授業は休んだところで問題ない。ゼノン・バスカヴィルは優秀な頭脳を持っているから座学は問題ないし、ダンジョン探索だって学外のダンジョンに入ればいいだけだ。
この機会に外での用事を済ませておいた方が、真面目に学校に通うよりもよっぽど効率的だろう。
「これから冒険者ギルドに向かう。いくつか依頼を受けて、場合によっては魔物と戦うこともあるだろう。覚悟しておけ」
「はいですの! 戦うの、大好きですの!」
俺の命令に、ウルザが勢いよく手を挙げて答える。
せっかくできた自由時間だ。いい機会なので、王都内で発生しているサブイベントを片付けておきたいと思う。
もちろん、重要なイベントは主人公であるレオンに譲ってやるつもりだが……イベントの中には時間制限が決められているものがある。
周回や攻略サイトでようやく発見できるような隠しイベントも存在するため、レオンが取りこぼしていることも多いはず。その辺りを中心に攻略していき、熟練度とイベントアイテムを稼いでしまおう。
「さあ、主人公ごっこでも始めようか? せいぜいゲームのイベントを楽しませてもらうとしよう」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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