28.鬼っ娘と学園
俺とウルザに遅れて、レヴィエナも目を覚ました。
制服に着替えた俺はウルザを連れてダイニングに行き、テーブルについて朝食を摂る。
ちなみに、父親であるガロンドルフは入学式の日から家に帰ってはいない。母親については存在するかどうかさえ不明である。
俺はレヴィエナが運んできた料理を口にかっ込んで、ウルザを連れて屋敷から出た。
「さて、これから学園に行くわけだが……ウルザ。昨晩、教えたことは覚えているよな?」
「はい、もちろんですの! 騒がず、喚かず、暴れませんの!」
ビシリと敬礼を決めて、ウルザがはっきりと断言した。
学園にウルザを連れていくことは事前に決めていた決定事項である。
王立スレイヤー学園は貴族や王族が通っていることもあって、執事やメイドなどの使用人、あるいは護衛などを連れている者が少なくない。ウルザを連れて行っても、授業中に騒いだりしなければ学園のルールには抵触しない。
加えて、これからは授業のカリキュラムの中にダンジョン探索や町の外でのモンスター討伐などが組み込まれることになる。そのため、一緒にダンジョンを潜る仲間であるウルザを連れて行かないわけにはいかないのだ。
「学園で騒ぎを起こしたりすれば、立ち入り禁止になるぞ。わかっているな?」
「はいですの! ご主人様と一緒にいるために、ウルザはお行儀よくしていますの!」
ウルザはキラキラとまっすぐな瞳で即答してくる。
ここまで断言するのであれば騒ぎを起こす心配もないだろう。俺はひとまず胸を撫で下ろして、ウルザと共に馬車に乗り込んだ。
「ですの、ですの。学校ですの~。ご主人様と、学校ですの~」
「…………」
ウルザが馬車の中でおかしな歌を口ずさんでいる。
いったい何がそんなに嬉しいのか、子供っぽい顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「……何故だろう。とんでもなく不安になってきたな。本当にコイツを連れて行っても大丈夫なのか?」
「ですのですの~、ぶっ殺ですの~♪」
「…………」
ご機嫌なウルザとは対照的に沈痛な気分になってしまう俺であったが、それでも馬車は止まることなく学園へと俺達を運んでくれる。
「着きましたの!」
やがて学園へと到着した。ビョンっと馬車から降りたウルザの後に続いていくと、登校中の生徒から驚いたような視線が浴びせられる。
「あれって……」
「バスカヴィル家の……え、誰あの子?」
「何、あの子。かわいい……」
「でも首輪つけてるよ。頭に角もあるし……亜人の奴隷かしら?」
「む……」
思った以上の反響だ。多少騒ぎになることは覚悟していたが、どうやら想定以上にウルザの容姿は目立ってしまうようである。
「ここがご主人様の通っている学園……ご一緒できて嬉しいですの!」
「そうか……それは良かったな。俺は不安でいっぱいだが」
「それじゃあ、行きますの! ウルザが先導しますの!」
「……お前は教室までの道を知らないだろうが。俺の後ろで大人しくしていろ」
注目の的になっているウルザは周囲の視線など気にすることなく、瞳を輝かせながら校庭を歩いていく。その無邪気な顔にはほっこりとさせられるよりも不安が強かった。
亜人大陸という人外魔境の出身者であり、さらに戦闘民族として生まれ育ったウルザが、はたして学園での集団生活にうまく順応することができるのだろうか。
「いや……大丈夫だ。さっき散々、言い聞かせたし、それにあくまでも俺のお付きとして通うんだ。生徒として通うわけでもないし、トラブルなんて起こるわけがないよな……うん」
俺は自分に言い聞かせて、「ふー」と深呼吸をした。
そんな俺の袖を引いて、ウルザが上目遣いで顔を覗き込んでくる。
「ご主人様、どうかしましたの? お腹でも痛いですの?」
「……いや、問題ない。ちょっと考え事をしてただけだ」
心配そうな表情になっているウルザの頭を軽く撫でて、俺は校舎に向けて進んで行く。当然、後ろをチョコチョコとした足取りでウルザも付いてくる。
こちらからトラブルに近づくような真似はしない。ウルザは俺の言うことはちゃんと聞いてくれるし、何も問題はないはずだ。
そのまま校舎に向かって足を進める俺であったが……1つだけ、重大なことを失念していた。
トラブルというのは必ずしも、自分の方から近づくようなものではない。トラブルの側からやって来る場合もあるのだ。
「おい! バスカヴィル!」
「あ?」
背中にかけられた鋭い声。俺は顔をしかめて振り返る。
この学園に急に呼び捨てにしてくるような友人はいなかったはず。振り向いた先にいたのは、やはり友人などではなかった。
「その女の子は何だ! そんな小さな子に首輪を着けて奴隷にするなんて……見損なったぞ、この悪党め!」
指を突きつけてそう言い放ったのは、学園の制服を着た金髪の男である。
学年主席の秀才にして、『1』の主人公――正義感に瞳を燃え上がらせる青年、レオン・ブレイブであった。
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