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69.テセウスの船

「てー……うす?」


「『テセウスの船』だ」


 言いながら、俺はアイテムバッグから目的の物を取り出した。

 アイテムバッグの中から出てきたのは、掌ほどの大きさのクリスタル。

 それこそが『テセウスの船』というアイテム。この状況を打開することができる可能性がある物だった。


「テセウスの船……ある船のパーツを取り換えていき、最初の部品が一つも無くなった船は元の船と同じ物といえるのか。だいたい、そういう内容の話だ」


 俺も詳しく知っているわけではないが……古代ギリシャか何かの逸話であり、哲学とかの話だったはず。


「これは同名のアイテムでな……まあ、使ってみればわかる。見てろよ」


「見てる」


 ミュラが素直に頷いた。

 後ろから抱えられているため、ミュラの顎がコツコツと後頭部に当たる。


「ほいっ」


 俺は『テセウスの船』を海に投げ入れた。

 クリスタルの形をしたアイテムは海水に沈むことなく、プカプカと海の上を漂っている。


「続いて……資材を投入」


 さらに、アイテムバッグに入っていた木材やら石やら布やらガラクタを投入する。

 クリスタルを中心として、大量のガラクタが海に投下された。


「まだだな。追加追加」


「ちょ……バスカヴィル! アンタ、何を遊んでるのよ!」


 ホワイトドラゴンの背中から、シエルが叫んでくる。

 シエルはリヴァイアサンに向けて魔法を撃って攻撃しており、そのせいで優先的にリヴァイアサンから海水を噴きつけられていた。

 ホワイトドラゴンが素早く天を舞って回避しているが……一撃でも受けてしまえば、撃墜されかねない状況である。


「遊んでないで、アンタも攻撃しなさいよね!? 海にゴミを投げてる場合じゃないでしょうが!?」


「黙ってろよ。こっちはこっちで忙しいんだ」


「何を……」


「ああ……起きたな」


 俺はニヤリと笑った。

 見下ろす先……眼下の海に変化が生じていた。

 クリスタルに投げ落としたガラクタがくっ付いていき、形状を変えていく。

 まるで現代アートのように不可思議な造形……それはやがて、大型の船の形になったのである。


「よし、降りろ」


「ん」


 指示を出すと、ミュラが船の甲板に着地した。

 二人の人間が降り立つが……船は少しだけ揺れただけで、もちろん沈むようなことはない。


「これ?」


「ああ……これが『テセウスの船』だ」


『テセウスの船』……このアイテムは有料追加シナリオに登場するアイテムであり、海の上を自由自在に移動する船だった。

 この船には自動修復機能がついており、魔物の攻撃によって破損しても、資材を与えるとそれを吸収して復元されるのである。


「便利なアイテムではあるんだが……問題点として、持ち運びができないという欠点があった。船なんだからアイテムバッグにも入らない。当然だな」


 追加シナリオに登場するエリア内はこの船の入手により、自由に移動することができる。

 プレイヤーは他のエリアでも『テセウスの船』を持ち出そうとするのだが……残念ながら、陸地や岩礁に阻まれてしまい、別のエリアには持ち出せない。

 そういう仕様なのだと諦めるプレイヤー達であったが……一人のプレイヤーが革新的な方法を編み出し、ネットに情報を流すことになる。

 その方法というのが……『テセウスの船』の自動修復機能を利用した船の持ち運び。船を完全に解体して、『核』にあたる部分だけを別のエリアに持っていくというやり方だった。


「船を修復することなく意図的に破壊していくと、最終的には『核』のクリスタルだけが残される。船はマジックバックに入れられないのだが、何故かクリスタルだけだったら運んでいけるんだよな」


 完全に破壊された船であったが……クリスタルに資材を与えると、また船の形状に自動修復される。

 それはバグなのか。それとも、スタッフが意図してやりながら情報を隠していたことなのか。

 このゲームの制作陣の意地の悪さを考えると……後者の可能性が高かった。

 プレイヤーがどうにかして船を持ち出そうと四苦八苦しているのを見て、ニヤニヤしていたに違いない。


「ゼノン様、この船はいったい……?」


「バスカヴィル! 何なのよ、コレは!」


 ホワイトドラゴンが船の上に降り立ち、エアリスとシエル、エレクトラが下りてくる。


「質問は後だ。ともかく……足場ができた。これで腰を据えてリヴァイアサンと戦うことができるだろう」


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


 船に降り立った五人に向けて、リヴァイアサンが咆哮してくる。


「さあ、ここからが本番だ! 海の王者を藻屑にしてやる!」


 俺は牙を剥いて笑って、剣を抜いてリヴァイアサンに向ける。

 四人の仲間達は困惑しながらも、武器を構えて戦闘態勢を取った。


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