62.悪魔少女再び
魅惑の入浴タイムを終えた俺であったが、色々と消耗しながら部屋に戻ってきた。
やり方こそ問題はあったものの、アネモネのマッサージの腕は確かだったらしい。
精神的に消耗はしてしまったが、身体のコリやら疲れやらは取れていた。
「やれやれ……ウチの女どもは本当に騒がしいな」
ぼやきながら、自室のベッドに横になる。
頭に思い出されるのは先ほどの出来事。アネモネからされたスペシャルマッサージのことである。
やはり彼女もエロゲのヒロインということだろうか。
ちゃんとした母親に見えたアネモネも覚醒したかのごとく、風呂で迫ってきた。
直接的な行為にこそ及ばなかったものの、専門店に行かなければできないようなサービスをしてくれた。
この調子でいくと、モニカやエレクトラがいつやらかすかわかったものではない。
「ん?」
ふと足元の影が凝り、そこから人型が現れる。
急に部屋に現れたのはかつて俺が召喚した悪魔の少女……ミュラ・アガレスだった。
ゴスロリ衣装の悪魔がベッドの横に立ち、「よっ」と手を挙げながらこちらを見下ろしてくる。
「…………きた」
「……お前、まだいたのか」
長らく姿を見ていなかったので、もしかすると魔界に戻ったのではないかと思っていた。
出てこなかっただけでずっと影に潜んでいたのだろうか。
「寝てた」
「そりゃあ、よく寝たな。何日ぶりだよ」
「ちょっとだけ。うたたね」
さすがは年を取らない悪魔である。
ちょっとうたた寝しただけで何日も経過してしまうらしい。
「…………」
ミュラが無言のままこちらに近寄ってきて、横になった俺の身体に馬乗りになる。
そして、ジッとジッと穴が開くほど顔面を見つめてきた。
「……何だよ。人の顔を見つめて」
「……………………可愛い」
「…………」
「可愛い。好き」
「……そうかよ」
これである。
悪魔であるミュラの目には何故かゼノンが可愛らしい姿に映っているらしくて、会うたびに可愛いだなんだと言ってくるのだ。
「図書館……」
「ん?」
「図書館、いく?」
「……『永久図書館』のことか? いくぞ、準備ができたらな」
「……私も、ついてってあげる」
「いや……あそこの立ち入りには人数制限があるのだが?」
俺とエアリス、シエル、エレクトラ。
これで人数制限の四人に達しており、これ以上は入ることができないはず。
「私は悪魔……どうとでもなる……」
「……まあ、召喚獣だもんな。どうにかなるか」
先ほどまで影に潜んでいたように、何かしらの方法で侵入するつもりなのだろう。
「まあ、付いてきてくれるのなら有り難いさ。正直、今のメンツに心配はあったからな」
永久図書館でパーティーを組む三人のうち、百パーセント信用できるのはエアリスだけである。
シエルは魔法使いとしての実力は確かなのだろうが、性格的にうっかりした部分が目立つ。
エレクトラも万能タイプの魔法使いとして役には立つが、やはりお姫様である。
色々と経験値不足があって、ここぞという場面でやらかしてしまう恐れがあった。
ミュラは最強の召喚獣の一人。
時間を止めるというマンガやゲームにおいて最強の能力を持っている。正直、まともに戦えば俺だって勝率は二割を切るだろう。
本来は戦闘が終わると魔界に戻ってしまう存在なのだが、何らかの手段によって地上に留まり、俺の傍にいる。
おかげで本来の力よりも大きく弱体化しているが……それでも、シナリオ後半の激戦にだって十分ついてこれるはず。
「ん、任せる」
「ああ、任せた」
「ご褒美」
「あ?」
「ご褒美。お風呂一緒」
褒美に風呂に一緒に入れということだろう。
前に俺が入浴している時に勝手に入ってきたことがあったが……もしかして、気に入ったのだろうか。
「別に風呂くらい、いいぜ。減るもんじゃないしな」
「やった」
「それじゃあ、永久図書館を攻略してレオンの問題が解決したら、温泉にでも行って……」
「いく」
「は…………うおっ!?」
突如として周囲の景色が変わる。
宙に投げ出されて、一瞬の浮遊感の後で着水した。
バシャリと水音が鳴り、直後に全身に感じる熱。
どうやら、水ではなく湯に落とされたらしい。
「おまっ! なんて無茶なことを……………………あ?」
「え……?」
俺が投げ出された場所は風呂場だった。
見慣れた場所。小一時間ほど前まで入っていたバスカヴィル家の浴室だ。
困ったことに、そこには先客がいた。
「ゼノン様!?」
「我が殿……」
「あ、ご主人様ですのー」
エアリス、ナギサ、ウルザ……俺の正規パーティーメンバーにして愛人でもある三人。
見慣れた爆乳、巨乳、まな板が横一列に並んでいる。
「あらあら、バスカヴィル卿ではありませんか。急にどうされたのです?」
そして……三人と少し離れた場所に王女であるエレクトラ。
エアリスですら凌駕する『魔乳』が布一枚纏うことすらなく、先端の突起まで見えてしまっていた。
「ヒッ……!」
そして……すぐ正面。
そこには恐怖で引きつった顔をしたシエル・ウラヌスの姿があった。
シエルは俺のすぐ眼前にいて、おまけに湯船の中で立ち上がっている。
一方で、俺は突如として湯船に放り込まれて、服を着てお湯に浸かったまま尻もちをついている状態。
「…………毛が無い」
「~~~~~~~~~ッ…………!」
俺は思わずつぶやいてしまい、シエルが声にならない絶叫を上げる。
「吹き飛べっ!!!!!」
「グオッ!?」
シエルが泣きながら炎の魔法を放つ。
顔面に爆炎をモロに浴びて、俺は砲撃を喰らった戦艦のように沈んでいったのである。




