61.浴室マッサージの罠
食事を終えると、女性陣だけで集まってサロンが開かれることになった。
サロンなどというと大袈裟に聞こえるが、つまりは女子会である。
応接間にお茶とお菓子を運んで、エアリスが主導して小さなお茶会が開かれた。
「それでは、今晩は私が客人をもてなしておきます。『正妻』として」
「……よろしく頼んだ」
「はい。ゼノン様はお疲れでしょうし、ゆっくりと休んでくださいませ」
エアリスに勧められたとおり、俺はゆっくりと寛がせてもらうことにした。
久しぶりに一人での入浴タイムである。
「あー……しんど……」
湯船に浸かり、手足を伸ばして……俺は長い長い溜息を吐いた。
いつもだったら、入浴の際は誰かしらが一緒についてくる。
エアリスが爆乳を押しつけてきたり、ナギサが巨乳を押しつけてきたり、ウルザがまな板をスリスリさせてきたり。
日によっては浴室で始めてしまうこともあって、こうして一人で入浴できる機会はめったになかった。
「最近の俺は頑張りすぎだな……さすがに疲れが溜まってやがる……」
「でしたら、マッサージでもいたしましょうか?」
「あ?」
見計らっていたかのように浴室の扉が開いた。
現れたのは予想外の人物。
レオンの母親であるアネモネ・ブレイブだった。
「どういう展開だよ……そんなフラグ立てた覚えはねえぞ」
「あうう……恥ずかしいよう……」
「お前もかよ」
アネモネの後ろから、レオンの妹であるモニカも浴室に入ってきた。
アネモネとモニカ……母娘は裸の上にバスタオルという格好であり、身体のラインがクッキリと浮き彫りになってくる。
モニカは以前、エアリス達と入浴してスタイルの差にへこんでいたことがあったが、こうしてタオル越しに見るとまあまあ育っていた。
ウルザがまな板の上の苺だとしたら、モニカは枇杷ほどのサイズだった。
アネモネの方はかなりスタイルが良い。
胸のサイズはレヴィエナと同程度だったが、二人の子供がいる母親だけあって熟した身体つきをしている。
十代二十代の若い女性とはまた違った、年代物のワインのような風味のある身体つきだった。
「いや……どんな身体つきだよ……」
「この屋敷の使用人はお風呂で旦那様にご奉仕すると聞きましたよ? 今日は私と娘でサービスさせていただきますわ」
恥ずかしがって小さくなっているモニカに対して、アネモネは余裕の表情をしている。
やはり経産婦は違う。男との入浴くらいで狼狽えることはないようだ。
「こちらでマッサージでもいかがですか、旦那様。夫が生きていた頃にはよくしていたんですよ?」
「マッサージね……」
浴室の床にクッションを置いているアネモネに、俺は複雑な気持ちになる。
身体はかなり疲れており、マッサージ自体は嬉しい提案だった。
しかし、浴室でのそれを言われると、どうしても日本でお世話になった専門店をイメージしてしまう。
「……まあ、いい。頼んでみるか」
娘の前だ。
無茶をするわけがない。
過剰に気にしているこっちの方がおかしいだろう。
俺は言われるがままに浴室から上がり、クッションにうつ伏せになった。
「あうっ……す、すごい……」
下は隠していたのだが、モニカが顔を真っ赤にして俺の身体を見つめてくる。
目がグルグルと回っており、今にも倒れてしまいそうだ。
「モニカ、失礼ですよ。私がお手本を見せますから覚えておきなさい」
「お、覚えるって……お母さん」
「今日は私がやるけれど……いずれ、貴方も旦那様にしてさしあげるのです。やり方を覚えておきなさい」
「はううう……恥ずかしいよう……」
「ウフフフ……」
妖しく微笑んで、アネモネがうつ伏せになった俺の身体に乗ってくる。
馬乗りになったことにより、熟女の柔肌が俺の背中に押しつけられた。
「ム……」
まず、メイドがご主人様の背中に乗るなと言いたくなるが……それを気にしていられる状況ではない。
馬乗りになるということは、当然ながら股下のいやんな部分が触れることになるのだから。
「それでは、マッサージを開始いたします。オイルを背中に広げていきますね」
アネモネがクチュクチュと音を立てながら、両手に付けた謎のオイルを塗り込んでくる。
粘性のある液体、トロトロとしているそれはまるでローションのようだが、薔薇の香りのような芳香が鼻をくすぐってきた。
「香油か? どこでそんなものを?」
「自家製のものです。花壇で花を育てて自作したものですよ」
「なるほど……」
「それでは、肩から揉み込んでいきますね」
アネモネが本格的にマッサージを開始した。
最初は弱めに、徐々に強く、固くなった筋肉のコリを時間をかけてほぐしていく。
慣れた手つきだ。香油の匂いも相まって、とても心地良い。
「……えらく慣れてるな。本当に旦那相手だけか?」
「ご近所の方々にも、頼まれてやっていましたよ。もちろん、ご婦人だけで男性にはしていません」
「フン……」
「夫以外にしたのは、旦那様が初めてです」
「…………」
余計なことを言わないでもらいたい。
旦那との大切な思い出であるマッサージを、会って間もない男にして良いのだろうか。
「貴方が息子や娘に良くしてくれて、とても感謝しています。その御礼と思えば安い物ですよ」
顔は見えないが、アネモネが微笑んでいる空気を感じる。
「これからも、二人のことをよろしくお願いします。特にモニカは長い付き合いになると思いますから」
「長い付き合いね……いや、良いんだけどな。そんなに信頼しても良いのかよ」
「もちろんです」
アネモネが何故か断言した。
どんな信頼だよと呆れてしまう。
「貴方は夫とよく似ていますから。とても親しみがわきます」
「……俺と似ている?」
「はい。目つきが悪いところとか、悪ぶっていても優しいところとか。夫を思い出して、とても懐かしいですよ」
「…………」
アネモネの夫、つまりはレオンの父親であって勇者の一族の人間である。
まさか、その人物が悪役キャラの俺に似ているというのか。
「……お前はアレだな。男を見る目がないんだな」
ゲームにおいて、アネモネは娘のモニカと一緒にゼノン・バスカヴィルに拉致されて、薬漬け調教されるサブヒロインだった。
ひょっとすると、悪い男に引っかかりやすい星の下に生まれているのかもしれない。
「はい、次は背中をマッサージします……私の身体で」
「グハッ!」
普通にマッサージしていたのは最初だけ。
最終的には、やはり専門店のサービスみたいなことをし始めた。
気持ち良かったし、癒されもしたのだが……色々と消耗する入浴タイムになったのである。
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