60.王女がいる食卓
それからしばし、ウルザとナギサの二人と部屋で乳繰り合った。
その間、エアリスは屋敷に客人としてやってきたシエルとエレクトラの二人の応対をしていたようだ。
夕食の席で顔を合わせたエアリスはどこか疲れたような表情をしており、俺達を出迎えた。
「……随分とお楽しみだったようですね。私を抜きにして」
「客人の応対は夫人の仕事だろう? 俺の妻を名乗るのなら我慢してくれよ」
「そうでしたね……私はゼノン様の妻、正妻の仕事……」
ちょろい。
エアリスが俺の正妻を名乗りだしたときにはどうなるかと思ったが、こうやって家の雑事を任せられるのだから幸運かもしれない。
晩餐のテーブルにはすでにエレクトラもシエルもやってきており、二人が挨拶をしてくる。
「ごきげんよう、バスカヴィル卿」
「えっと……お邪魔してるわ」
エレクトラは優雅な笑みを浮かべているが、シエルは借りてきた猫のように緊張していた。
「エレクトラ殿下は……お寛ぎ頂いて良かったよ」
「ええ、エアリスも使用人の皆さんも良くしてくれますわ。突然の訪問なのにここまでしていただいて、感謝しています」
先ほどまではダンジョンで活躍していたエレクトラであったが、ドレス姿に着替えると高貴さを全身から放っている。
やはり、生粋のお姫様だ。
エアリスをすらも上回る、圧倒的な育ちの違いを見せつけている。
「ところで……本当に外泊の許可は下りたのかな? お姫様の誘拐疑惑とかかけられたら困りますよ?」
「もちろんですわ。バスカヴィル侯爵でしたら構わないと、父も仰っておりました」
「…………そうですか。それは僥倖」
本心としては、王城に帰ってもらいたいものである。
自宅にお姫様がいるとか、気を遣って仕方がない。
狸親父……国王は何を考えているのだろう。さっぱりわからない。
「……まあ、良いでしょう。殿下の口に合うかはわかりませんが……是非ともディナーをご堪能ください」
「ええ、楽しませていただきますわ」
しばらく待っていると、メイドのレヴィエナ、アネモネが料理を運んできた。
モニカはいない。
王族に不敬がないように、あえてこの場には出さないことにしたようだ。
「まあ、美味しそう」
夕食のメニューは子羊のソテーにコーンスープ、ふかしたジャガイモ、シーザーサラダである。
デザートにはホットケーキが用意されており、レオンの故郷の森で採取した蜂蜜付きである。
「こちらのジャガイモ、柔らかくて美味しいですわ。素朴な味わいですわね」
意外なことに、エレクトラがもっとも気に入ったのはふかしたジャガイモだったらしい。
王宮では出ることのない庶民の味が、かえってお気に召したらしい。
その料理を作ったのはレオンの母親であるアネモネだったが、壁際に立って誇らしそうに胸を張っている。
「ウチのメイドは優秀ですからね。みんな、良くやってくれていますよ」
「……貴方には謝らなければいけませんわね。バスカヴィル卿」
「何のことですか?」
「貴方の悪い噂を鵜吞みにしていたこと。バスカヴィル卿は自分の家の使用人を虐げているという噂を、真に受けていました。エアリスが貴方と婚約したと聞いた時には、どうにか破棄させられないかと思っていましたが……貴方は噂とは別人でした」
エアリスがナイフとフォークを置いて、小さく頭を上げてきた。
「貴方は顔こそ恐ろしいですが、責任感ある紳士でした。ダンジョンでは私やシエルのことを気遣ってくれていましたし、使用人のことも大切にされているようです。誤解していて申し訳ございません」
「……顔が恐ろしいは余計ですよ」
エレクトラの評価はあながち間違いではない。
ゼノン・バスカヴィルはかつて専属使用人だったレヴィエナのことを虐待していて、『俺』が中に入るまでは噂通りの悪党だった。
「そうよね……私を匿ってくれたり、レオンのことを気遣ってくれたり、わりとお人好しよね。バスカヴィルは」
スプーンでスープを飲みながら、シエルも同意した。
家に泊めてくれと言ってくるあたり、今回のダンジョン探索でシエルからの評価もいくらか上がったようである。
「はい、ゼノン様はとてもお優しいです」
「そして、強いな」
「あぐあぐ、もぐもぐ。ご主人様は最高ですの」
「ゼノン坊ちゃまは素晴らしい御方です。理想の主人です」
エアリス、ナギサ、ウルザ、レヴィエナが次々と褒めちぎる。
悪人扱いされるのは困りようだが、こうやって褒め殺しをされるのも気恥ずかしい。
「ウフフフフ……」
そんな俺達を見て、アネモネが微笑ましそうにしているのも居心地が良くない。
よくよく考えてみたら……この場にいる男は俺だけ。それ以外は全員、女性である。
おまけに……ウルザを除いた彼女達は一人残らず、ゲームにおいてゼノン・バスカヴィルによって卑劣な手段で抱かれていた。
「これがゲームの強制力なのか……」
結果的にヒロインを寝取ってしまった気分である。
俺は味がわからなくなった料理を口に運んで、気まずい夕食を終えたのであった。
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