59.ウルザとナギサ
『賢人の鍛錬場』の探索が終わった。
自宅であるバスカヴィル侯爵家の屋敷に戻ってきて俺は、別行動をしていたメンバーに事情を説明した。
一通りの話を聞くと、ナギサが呆れ返ったように苦笑いをする。
「……それで連れて帰ってきてしまったのか? 我が殿は随分と手が速いんだな」
場所は俺の部屋である。
俺は椅子に座り、ナギサはベッドに腰かけていた。
俺の膝の上にはウルザが座っており、どこか不満そうな様子で頭の角をチクチクと俺の胸に刺してくる。
「ムウ……ズルいですの! エアリスさんはともかくとして、新規の女がご主人様と一緒にダンジョンに潜るだなんて! ウルザはヤキモチを妬いてしまいますの!」
「好きでやったわけじゃねえよ。痛いからやめろ」
俺はウルザの頭を押して、地味に痛い角を押しのけた。
「これからはいるダンジョンは魔法が使えないと敵を倒せないんだよ。戦士職を連れていっても活躍できない。あきらめろ」
「うー、うー!」
「牛か、お前は! だから角を刺すな!」
ウルザをグググッと押さえつけて、まだ冷静なナギサの方に目を向ける。
「それで……お前達の方はどうだった? 成果を報告しろよ」
「ああ、そうだな。私達は我が殿から指示されたように、モニカを連れてダンジョンに潜っていた。あの娘のレベルに合わせて鍛錬を行った」
ナギサが流水のように淀みのない口調で説明をする。
「結果を述べるのなら、やはりあの娘は天才だな。順調に成長している」
「そんなにか?」
「実戦経験が足りず、技術不足も目立つ。しかし、天性の戦いの勘だろうな。要点要所での動きが的確で、一を学んで十を知る。メキメキと成長をしている」
「それは重畳。このまま次期勇者になってくれると有り難いな」
ますます、レオンが必要なくなってきた気がする。
モニカがこのまま新しい勇者になってくれたら、レオンは人間に戻らなくても良いのではないか。
「とはいえ……意図的に見捨てるのも不義理か」
幼馴染のシエル、妹のモニカ、どちらもレオンを救うために必死になっている。
母親のアネモネだってこの屋敷で働いていることだし、助けられる可能性があるのに放棄するのはやってはいけないことだろう。
『永久図書館』に入って、レオンを救い出す方法を探すという指針に変更はなかった。
「ご苦労。明日からも引き続き、モニカの鍛錬に当たってくれ。無理はしないで良いから、ジックリと育ててくれればいい」
「御意。任せてもらおう」
「ところで……ナギサ。どうして、お前まで引っ付いてくるんだ?」
先ほどまでベッドに座って報告していたナギサであったが……今は立ち上がって、俺の背中に身体を寄せてきている。
和服に包まれた豊かな胸部が当たって、フニュリと形を変えた。
「我が殿よ、私は貴殿が多くの女性を侍らせることを否定しない。むしろ、強者として当然のことだと思っている」
「…………」
「だが……自分が可愛がってもらえないのは不満だぞ。私の仕事を評価してくれるのであれば、相応しい報酬を用意するのが主君の義務ではないか?」
「ウルザもご褒美が欲しいですのー! イチャイチャパラダイスですのー!」
「……つまり、抱けってことかよ。ウチの女共はどうしてこうも積極的かね」
俺は溜息を吐く。
壁にかかっている鏡に自分の横顔が映る。
顔立ちは整っているが、子供が泣くような悪人顔に変わりはない。
「いったい、この面のどこがいいかね……物好きが多くって困る」
言いながらも、俺は言われるがままにベッドに移動した。
しがみついてくるウルザを布団の上に放り投げ、ナギサに向かい合う。
「んっ……」
和服の前合わせを開くと、下着すら付けていない乳房が露わになった。
やはり、最初からこのつもりだったようだ。
俺はやれやれと苦笑しながら、深い谷間に顔を埋めた。