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58.最後の報酬

連載作品『悪逆覇道のブレイブソウル』

コミックノヴァにて、コミカライズが連載開始いたしました!

皆様の応援に心よりの感謝を申し上げます!


https://www.123hon.com/nova/web-comic/bravesoul/

挿絵(By みてみん)

「帰る家がないのよ……私の下宿先には父の部下がいるから」


 事情を尋ねると、シエルはしばらく迷ってから説明を始めた。


「前にも話したでしょう? 私に縁談が来ているって。父が私が逃げ出さないように監視役の使用人を送り込んできたのよ」


「監視役って……お前、もしかして親父と仲悪いのか?」


「そんなことはない…………と、思うけど」


 自信なさげだった。

 シエルは子供の頃から、屋敷を抜け出して領地の村に遊びに行ったりしていた。

 それがレオンと出会うきっかけだったのだが……父親としては、手間のかかるヤンチャな娘だったに違いない。


「それで家に帰りづらいのはわかったが……適当な宿屋に泊まれよ。どうして、ウチにくるんだよ」


「そうですよ、シエルさん。殿方の家に泊まるだなんてはしたないですよ!」


「エアリスがそれを言うのはおかしくない!?」


 シエルが思わずといったふうにツッコんだ。

 婚約する以前からバスカヴィル家の屋敷に泊まり込み、風呂やベッドに入り込んできた女が口にするセリフではなかった。


「宿屋に泊まっても、連れ戻されちゃうでしょう? だけど……バスカヴィル家だったら、ウチも手出しできないと思うのよ」


「む……」


 それはそうだろう。

 王都の大貴族。スレイヤーズ王国の夜の支配者である家に「お嬢様を返せ」などと怒鳴り込んでくる者がいるものか。

 俺がその気になれば、そんな無礼者は翌朝には川に浮かべることができる。


「だから……お願い! 泊めて! ただとは言わない……家事だって手伝うからっ!」


「人手は足りているんだけどな。親子丼……じゃなくて、親子のメイドも入ったことだし」


「そんなこと言わないで! お願いっ!」


「……ゼノン様」


 エアリスが同情した顔になって、俺の表情を窺ってくる。


 正直、泊めるくらいは別に良い。

 懸念事項があるとすれば……このまま、成り行きで俺の家に居着いてしまうのではないかということ。

 女が増えるんだから良いじゃないかというよりも、人の家をたまり場にするなといった心境である。


「……仕方がないな」


 とはいえ……放っておくのも寝覚めが悪い。

 別にシエルが嫌いというわけではないのだ。

 前世のゲームではそれなりに好きなヒロインだったし、不幸になって欲しいというわけではない。

 夜も色々と世話になったりもした。

 そう……色々と。


「良いだろう……泊めてやる。行儀良くしていろよ」


「ありがとう! 恩に着るわ!」


 シエルが喜んで飛び跳ねた。

 とても可愛らしいが……仮にもメインヒロイン。

 それもエアリスやナギサとは違って、レオンの幼馴染である正統派ヒロインが他の男の家に泊まっても良いのだろうか?


「もう、なるようになれだな……好きにしろよ」


「やはりゼノン様はお優しいですね。惚れ直しました」


「……ありがとうよ」


 エアリスの頭を軽く撫でて、リオンは学園の前に家の馬車を呼び出した。

 ダンジョンに潜った後で、それなりに疲労している。

 さっさと帰って休みたかった。


 馬車が来るのを待っていると、所在なさげに立っているエレクトラに気がついた。


「ああ、エレクトラ……じゃなくて、王女殿下はどうされるんですか? このまま、城にお帰りになる?」


 すでにダンジョン探索は終わっている。

 探索中は俺に従うという約束も済んでいるので、口調を改めて訊ねた。


「そうですね……それでは、私もバスカヴィル卿の屋敷に泊めていただきましょう」


「あ? 何でだ?」


 意味がわからない。

 シエルだけではなく、エレクトラまで家出しようというのだろうか?


「だって……寂しいではありませんか。ここにいる皆でダンジョンを攻略したというのに、私だけ除け者だなんて!」


「寂しいって……いや、ガキじゃねえんだから」


「父上もバスカヴィル卿には良くしてもらうように言っていましたから、絶対に外泊を許してくれるはずですわ! 今日は絶対に泊めてもらいますからね!」


「…………マジか」


「エレクトラ殿下まで……」


「うっわあ……エレクトラ様ってば大胆」


 ここにきてワガママを言うエレクトラに、俺達はそろって呆れ返る。

 結局、馬車がやって来る前にエレクトラを説得することはできなかった。


『賢人の鍛錬場』の最後の攻略報酬。

 二人の美女のお持ち帰りに成功したのである。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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