57.不完全な秘薬
賢人の遺産の一つである『魔杖ケーリュケイオン』を発見して、シエルにプレゼントした。
思わぬ贈り物にシエルはとても喜んでくれて、目尻に涙すら浮かべて御礼を言ってきた。
「こちらの書物……持ち帰ってもよろしいかしら?」
一方で、本棚を物色していたエレクトラが訊ねてくる。
「良いんじゃないか? ここに置いておいても、劣化するだけだろ?」
本棚には無数の本が並べられている。
いずれも古いものばかり。
俺が知らないどこかの国の言葉、古代言語で書かれているものもあるようだ。
「それでは、持ち帰って宮廷魔術師に調べてもらいましょう。どれも百年以上は前の文献ですし、貴重な歴史的資料として役立つはずですわ!」
エレクトラが嬉しそうに言って、本棚の本を慎重に取り出した。
明らかに、エレクトラの両腕だけでは持ち帰ることができない量である。
「……俺のマジックバッグに入れておこう。あとで城に送ってやるよ」
見かねて、俺は容量無制限のマジックバッグに本を入れていった。
ここにある本に何が書かれているか、俺は知らない。
ゲームではこの本棚は飾りであり、どんな本が入っていたかの描写はなかった。
それでも、古い本なのだから資料として何らかの価値はあるのだろう。
「こちらには薬がありますね……何の薬でしょう?」
エアリスが机の上にある試験管を眺めて、不思議そうに首を傾げる。
その薬もまた、ゲームにおいてはただの背景。触ることもできないオブジェクトでしかなかった。
「ポーションに似ているが……そういえば、何の薬なんだろうな?」
俺はふと興味を引かれて、その試験管を手に取った。
ポーションによく似た青い液体だったが、よくよく見ると金銀の粒が浮かんでおり、上下に揺れている。
俺には薬の知識はないが……マジックバッグに入れてみれば、そのアイテムの名称がリストに表示されるはず。
「ブフッ!」
「ゼノン様……!?」
「い、いや……何でもない……」
思わず噴き出した俺に、エアリスが心配そうに近寄ってくる。
手を振って何でもないということをアピールしておき、改めてリストに表示されたそのアイテムの名称に目をやった。
アイテムバッグのリストに表示されていたのは、これまたファンタジー好きにはおなじみの単語である。
『エリクサー(不完全)』
ファンタジー系のゲームには必ずと言っても良いほど、登場する薬である。
死者をも蘇らせることができる秘薬として知られていた。
「…………」
どうして、この薬がここにあるのだろう。
エリクサーは『ダンブレ』においては登場しない。
少なくとも、プレイヤーが使用することができるアイテムとしては。
サブイベントでエリクサーを探している旅人が出てきたり、エリクサーを作り出そうとしている錬金術師がいたりはするものの……アイテムとしては存在しないはず。
しかも、わざわざ()付きで不完全と表示されている。
どうにかすれば完全になるという意味だろうか?
「この薬については、改めて調べておこう。ひょっとしたら、世紀の大発見になるかもしれないからな」
「そうなんですか? 役に立つと良いですね」
エアリスは特に気にした様子もなく、他の場所を調べる。
その後も最上階層をアレコレと調べていったが……さすがは賢者の研究室。
貴重な薬や、何に使用する物かもわからない未知の品物があった。
俺達はめぼしい物をアイテムバッグに放り込んで、『賢人の鍛錬場』を後にする。
「さて……それじゃあ、みんな。今日はお疲れさん。もう帰って良いぞ」
「ちょっとバスカヴィル……」
「心配するなよ、ウラヌス。『永久図書館』にはちゃんと連れて行ってやる。色々と準備があるからな。出発は三日後にしよう」
「三日後……それでレオンを助けられるのね?」
「保証はない。可能性があるってだけだ」
「……いいわ。十分よ」
シエルが唇を噛んで、しっかりと頷いた。
「それじゃあ、行きましょうか。案内して頂戴」
「案内って……どこにだよ」
「貴方の家によ」
「は?」
シエルが当然のように言った言葉に、俺は怪訝に眉をひそめる。
そんな俺からわずかに視線を逸らし……シエルはとぼけたような様子で、爆弾を投下してきた。
「今晩、泊めてくれない? 帰る家がないのよ」
「…………」
その言葉に唖然としたのは俺だけではない。
エアリスやエレクトラもまた、驚きのあまり言葉を失っていたのである。




