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47.新たなる刺客(メイド・子)


「おに……さ……」


「…………」


「お兄さん……起きて……」


「…………」


「お兄さん、起きてよ。夕ご飯ができて……ふあっ!」


「…………?」


「ふわわわっ! そこ、そこはダメッ! エッチだよう!」


「ん……?」


 キョドッたような声に意識を呼び戻される。

 自室のベッドで眠っていたはずの俺がゆっくりと瞼を開くと、そこには顔を真っ赤にした少女の顔があった。


「お、お兄さん……」


「……モニカ?」


「あう……」


 俺と密着して恥ずかしそうに鳴いているのはモニカ・ブレイブ。

『ダンブレ』の主人公であるレオン・ブレイブの妹にして、『戦乙女』のジョブに覚醒して勇者の代理として絶賛育成中の少女である。


 モニカは何故かベッドの中に潜り込んできており、おまけに俺の腕の中にいた。

 つまり、俺はモニカを両腕で抱きしめて抱き枕にしていたのである。


「モニカ……お前、まさか男のベッドにもぐりこむ趣味があったのか?」


「違うよっ!? お兄さんが私のことをベッドに引きずり込んだんでしょっ!?」


「あ? そうだったか?」


 モニカの甲高い声に俺は首を傾げた。

 眠っていたから当然ではあるが、記憶にない。

 まさか俺が中学生くらいの年齢の少女をベッドに連れ込むという暴虐を犯したというのだろうか?


「……最近は一人で寝ることがほとんどなかったからな。無意識のうちにやっちまったか」


 ウルザ、エアリス、ナギサ、レヴィエナ……最近の俺は常に誰かと同衾をしており、彼女達の身体を抱きしめながら眠るのが習慣となっていた。

 もしかすると、いつもの癖で無意識に女体を求めて、モニカを引っ張り込んでしまったのかもしれない。


「……悪かったな。寝ぼけていたみたいだ。許してくれ」


「うー……それは良いんだけど、あんまり手を動かさないでよう……」


「あ?」


 モニカが顔を真っ赤にして、ピクピクと肩を震わせている。

 よくよく見れば、俺の右手がモニカの腰に回されており、そのまま尻を撫でつけていた。

 左腕は背中をガッチリとホールドして身動きを封じており、無抵抗の少女はされるがままにセクハラに身をゆだねている。


「重ねて悪かった。本当にワザとじゃない」


「うう……ワザとだったらお巡りさんを呼ぶところだよ。お兄さんって、まるでレオンお兄ちゃんみたい……」


「はあ? レオンにも尻を撫でさせてたのか?」


「別に撫でさせてたわけじゃないもんっ! レオンお兄ちゃんは昔から、転んで女の子の胸とかスカートの中に顔を突っ込んだりする癖があったの!」


「ああ……主人公補正か。アイツもやるな……」


 レオンはエロゲ主人公のお約束として、ラッキースケベ体質だったのだ。

 アイツがうっかり転んだりすると、大抵はそこに女の子がいてエッチなイベントが発生する。

 風呂に入るたびに何故か先に入っていたヒロインと遭遇するのだから、ゲームでなければ警察に通報される事案である。


「私はお兄さんを起こしにきたの! ご飯ができたから!」


「それはすまんな。それにしても……その格好はなんだ?」


 モニカは冒険者として買い与えた服でもなく、実家で着ていた村娘の服でもなく、メイド服を身につけていた。

 レヴィエナが着ているのと同じデザインのものだったが、スタイルも体格も違うモニカが着ていると別物のように見える。


「お母さんが『お世話になるのだから、家事くらいは手伝わないといけません』って。このお屋敷で暮らしている間はメイドとして働くことになったの」


「へえ……律義なことだな」


 さすがは人の親である。

 モニカの母親であるアネモネ・ブレイブは怒ると怖いが、感性としては常識人であるらしい。


「ということは……もしかして、アネモネもメイド服を着ているのか?」


「うん、お母さんも着てるけど?」


「そうか……」


 中学生くらいの年齢の少女と未亡人の熟女がメイドとして屋敷で働いているわけか。

 何というか……やましいことは何一つしていないというのに、とんでもなく後ろめたい気持ちになってくる。

 その二人は本来のゲームのルートではゼノン・バスカヴィルによって監禁され、薬漬けのペットになっていたのだから笑えない。


「そういえば……差分のイラストでメイド服もあったな」


 俺はメイド服を着せられて親子丼にされる母娘のイラストを思い出し、身震いする。


 これが歴史の修正力でないことを祈りながら……のそのそとベッドから起き上がり、ダイニングへと向かうのであった。


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