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44.エレクトラ・ル・スレイヤーズ

「ハア、ハア、ハア、ハア……ま、待ちなさいって言ったでしょ……ゼノン・バスカヴィル……」


「……待っていましたが、ずっと」


 左右の胸を激しく躍動させながら、ようやくエレクトラが俺達のところにやってきた。

 スレイヤーズ王国の王女である彼女は、両手を膝について荒い呼吸を繰り返している。


「これはこれは……麗しの王女殿下ではありませんか。ごきげんよう」


 俺は胸に手を当てて、呼吸を整えている女性に向かって頭を下げる。


 エレクトラ・ル・スレイヤーズ。

 若草色のドレスに包まれたスイカのような爆乳の持ち主である彼女は、スレイヤーズ王国に三人にいる王女の一人である。

 紺碧色の長い髪をバレッタでまとめており、瞳の色も髪と同じく海の色。

 背丈はエアリスよりもやや低め。運動神経が良くないのは先ほどの醜態……胸部に付けた二つの重りを上下させる走りっぷりからわかる通り。


『ダンブレ』のゲームにおいては、ストーリーの進め方次第で仲間にすることができるサブヒロインの一人。

 プレイヤーの間で『王家三姉妹の青信号(シグナル・ブルー)』などと渾名(あだな)を付けられていた女性キャラクターである。


「それで……俺を呼び止めになったのは如何なるご用件ですかな? エレクトラ殿下が私に用事とは珍しい」


 俺とエレクトラは顔を見知っている程度の関係であり、まともに口を利くのもこれが初めてである。

 ゲームではいくつかのイベントを攻略することで仲間になるが、そんなフラグを踏んだりもしていない。

 わざわざスイカをブルンブルンとさせてまで追いかけてきたのは、いったい何の用事だろうか?


「ちょ、ちょっと……まひなさい。すぐに……ハア、ハア、ハア……」


「…………」


 エレクトラはなおも息を整えている。

 いったい、どれだけ運動不足なのかと呆れるほどに回復する様子がない。


「……ゼノン様」


「ああ……エアリス、頼む」


「わかりました」


 後ろに控えていたエアリスが進み出てきて、エレクトラに魔法をかける。


「ハイヒール」


 エレクトラを緑色のエフェクトが包み込む。

 傷を治して体力を回復させる魔法をかけられて、エレクトラが平静を取り戻す。


「ふう……ありがとう、エアリス。さすがの治癒魔法ね」


「この程度、大したことはありませんよ。エレクトラ殿下」


「ううん、やっぱり貴女はすごいわ。学園に通うようになって、魔法に磨きがかかったんじゃないかしら?」


 二人が和やかな様子で会話を始めた。

 どうやら、見知った関係のようだ。二人の間には気の置けない親しさが感じられる。


「バスカヴィル侯爵とは上手くやれてる? 虐待されたりしていないかしら?」


「もちろん、大丈夫です。可愛がってもらっていますよ」


「本当かしら? 貴方の言葉を疑うつもりはないけど……もう侯爵家の屋敷に移っているのでしょう? 心配だわ……」


「ゼノン様は噂されるような悪い方ではありませんよ。それは妻となる私が保証します」


 エアリスが穏やかながらも、譲らぬ口調で断言する。


「学園を卒業したら結婚式を挙げる予定ですから、是非とも王女殿下もいらしてくださいませ」


「ええ……もちろん、参列させてもらうわ」


「……そろそろ、俺も話に混ぜてもらって良いかな? 放置されると、寂しくて敵わない」


 会話に割って入ると、ようやくエレクトラがこちらに視線を向けてくる。


「ああ……悪かったわね。呼び止めてしまったことも」


「それは別に構いませんが……それで、何の御用ですかな? 婚約者……エアリスに話があっただけというのなら、女同士、ゆっくりとお茶でもしてきては如何ですかな?」


「それなんだけど……バスカヴィル侯爵、貴方に話があって来たのよ」


「うお……!」


 エレクトラが背筋を伸ばし、居住まいを正す。

 背中を伸ばしたことで胸部の膨らみがさらに強調されることになり、水色のドレスが今にもはちきれてしまいそうだ。


「コホン……」


 エアリスが咳払いをした。

 半眼になって横目で睨みつけてくる。どうやら、胸を見ていたのを悟られてしまったらしい。

 俺は気まずさに顔が引きつりそうになるのを堪えながら、エレクトラに向き直る。


「あー……俺に話ですか? いったい、どのような御用件でしょう?」


「……バスカヴィル侯爵、貴方は先ほど父上と謁見をしたそうね。それも『永久図書館』への立ち入り許可を与えられたとか」


「……『永久図書館』のことを知っているのですか?」


『永久図書館』は国王に認められたごく一部の人間だけが知りうる、機密情報である。

 王族であっても知らない者は知らないはずなのだが……。


「私は王族だけど、宮廷魔術師の筆頭補佐を務めているのよ。その関係で知らされていたわ」


「ああ……なるほど」


 そんな設定もあった気がする。

 ゲーム上ではまったく話に出てこずに、別売りで発売された設定資料に書かれていた情報だが。

 俺が納得して頷くと……エレクトラがグイッとこっちに詰め寄ってきて、真剣な表情で訴えてきた。


「バスカヴィル侯爵……私も『永久図書館』に連れていきなさい! どうしても、そこに行かなければいけない理由があるのよ!」


「は……?」


「私は父から許可をもらえなかった……だけど、貴方と一緒だったら入れるでしょう!? 連れていきなさい!」


「…………」


 エレクトラの要求に、俺は唖然として目を瞬かせる。

 隣では、同じようにエアリスも固まっていた。


 エレクトラ・ル・スレイヤーズ。

 NPCとして彼女が就いているジョブは『高位呪術師(ドルイド)』。


『永久図書館』の攻略のために必要な人材……魔法職に就いた強力な仲間キャラクターが、探すまでもなく、あちらからやって来たようである。



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