22.子犬な鬼っ娘
「ウルザの名前はウルザといいますの! よろしくお願いしますの、ご主人様!」
「お……おう?」
代金の支払いを終えて奴隷を購入する手続きを済ませるや、ウルザが華やいだ声を上げて抱き着いてきた。
外見は小学生か中学生ほどのウルザは、俺の胸ほどしか身長がない。腕にぶら下がるようにして抱き着いたウルザの顔は満面の笑みが浮かんでいる。
「ウルザはご主人様のために一生懸命、働きますの! 末永く可愛がって欲しいですの!」
「…………」
この子、こんなキャラだったのか?
俺の記憶が正しければ、『聖海』に登場するウルザ・ホワイトオーガは無表情で人形のような顔をした少女だったはず。
目の前にいるウルザは飼い主に甘える子犬のように人懐っこく、白い髪の毛が尻尾のようにブンブンと左右に振られている。
「いや……これが本来の、この子なのか……?」
「どうかしましたの、ご主人様?」
「いや、何でもない……」
考えても見れば、ゲームに登場するウルザ・ホワイトオーガは悪辣な貴族の奴隷として拷問と調教を繰り返され心を壊されていた。
今、目の前にいるウルザこそが本来の彼女の姿。奴隷となって弄ばれる以前の姿なのかもしれない。
「まあいい……何はともあれ、お前はこれから俺の奴隷だ。存分に働いてもらうからそのつもりでいてくれ」
「もちろんですの! 頑張ってご主人様のお役に立ちますの!」
「期待している……しかし、その前にお前の格好をどうにかしないとな」
ウルザが着ているのは白いワンピースのような服だったが、いかにも奴隷の服らしくあちこちが擦り切れている。おまけに金属製の首輪まで嵌めている。
こんな一目で奴隷とわかるような女を連れて歩いていれば、悪人面がよりパワーアップされてしまい、いよいよ通報案件だ。
「どこかに着替える場所が……レスポルド!」
「はい、どうかされましたかな。バスカヴィルの若様」
俺がオーナーの名前を呼ぶと、すぐに腹を揺らしたレスポルドが現れた。
「こいつを着替えさせたい。部屋を貸してもらえるか?」
「もちろんでございます。奴隷の待機部屋が空いておりますので、そちらをお使いください」
「それと……こいつの首輪も外して欲しいんだが」
「首輪を……? それはちょっと……」
レスポルドが難しそうな顔をして、頭頂がハゲた頭を撫でる。
「首輪は、その娘が若様の奴隷であるという証明です。ほら、こちらに若様の名前が刻まれていて、所有者であることを示すものになります。首輪を外してしまえば、無主の奴隷としてかえって危険にさらしてしまうかもしれませんぞ」
「危険……? 具体的には?」
「主のいない奴隷は人権がありません。道で拉致されても、暴力を振るわれても、一切の罪に問われることはありません。タダでさえ、その娘は貴重な鬼人族なのです。若様の持ち物であることを示しておかなければ、すぐに連れ去られてしまうでしょう」
「む……」
俺は眉間にシワを寄せて黙り込んだ。
そうだ、思い出した。
スレイヤーズ王国では亜人種族の地位が低く、奴隷以外には町に亜人はいないのだ。
そのせいでエルフやドワーフの国とは折り合いが悪く、有料の追加シナリオでは亜人諸国との戦争を回避することを目的にしたシナリオもあるのだった。
ウルザの頭の角を見れば、一目で亜人であることは明白。奴隷の首輪を付けていなければ、主のいない逃亡奴隷として酷い扱いを受けてしまう。
かといって、俺は女に首輪を着ける趣味などない。これはどうしたものだろうか。
「ご主人様、ウルザは構いませんの」
思い悩む俺の腕を引いて、ウルザが顔を覗き込んできた。クリクリとした金色の瞳に俺の悪人面が映し出される。
「この首輪はウルザがご主人様のものである証ですの。ウルザはとっても気に入ってますの!」
「む……そうか。お前が良いのなら、別に気にすることもないのか……?」
釈然としない感情になったが、とりあえずは納得して頷く。
そんなやり取りを見ていたレスポルドが、話を終えたタイミングを見計らって口を開く。
「それでは、お部屋の方に案内いたします。部屋にはしばらく誰も近寄らせませんので、どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ」
何やら勘違いしているオーナーに連れられて、俺達は奴隷の控室へと案内された。
奴隷が入られていた部屋というくらいだからさぞや汚い部屋だろうと思っていたが、通された部屋は簡素に片付いている。
ここまで案内してくれたレスポルドが部屋に入ることなく、扉を閉める。家具も何もない部屋の中には俺とウルザの2人きりになった。
「さて、それじゃあ……」
「はい、始めますの!」
「……って、うおわあっ!?」
ウルザが間髪入れずに服を脱ぎ始める。ワンピースの奴隷服を脱ぎ捨てると、下に身に着けているのはパンツ1枚。なだらかな丘陵を描く小さな胸が、先端のピンクまで曝け出されてしまう。
いくら着替えるために部屋を借りたからといって、あまりにも脱ぎっぷりが良すぎるのではないか。
「急に脱ぐんじゃねえ! 阿呆か!」
「え……これから子供を作るんじゃないですの? 服を着たままじゃできませんの」
「お前もか! やるわけねえだろ!」
どうやらウルザもレスポルドと同じような勘違いしていたようである。
いったい、人を何だと思っているのだ。こんな小さい少女を抱くようなロリ趣味は持っていない。
「装備を変えるだけだ! そんな格好じゃ、ダンジョンにだって潜れねえだろうが!」
「ダンジョン?」
「俺がお前を買ったのは、一緒にダンジョンを潜る戦力にするためだ。性奴隷にするつもりはないから安心しろ!」
「ダンジョン、ダンジョン……!」
懇々と説明してやると、蕾が花を開かせるようにウルザが笑顔になる。
「嬉しいですの! ウルザ、戦うの大好きですの! 奴隷になってからもダンジョンに潜れるなんて夢みたいですの!」
「そうか、鬼人族は戦闘民族の出身だもんな。戦うのはやっぱり好きか」
「いっぱい殺して、いっぱい奪いますの! 期待してて欲しいですの!」
「…………そうか」
可愛らしい顔で、おっかないことを言わないでもらいたい。どう反応していいかわからなくなるじゃないか。
俺は気を取り直して、収納数無限のマジックバッグから女性用の装備アイテムを取り出した。
周回特典として『成金の部屋』で回収した装備アイテムは、スキルの熟練度の関係で俺は装備できない物ばかりである。しかし、新しく仲間になった女性メンバーに与えるため、女性用の装備はランクが低いものもストックしておいたのだ。
「これと、これ。武器はこっちで……序盤のアクセサリーはこれがいいかな?」
俺はポンポンと装備アイテムを取り出していき、床に並べていく。
「とりあえず、これを装備してみろよ。問題があるようだったら調整してやるから」
「かしこまりましたの!」
俺が取り出した装備を、パンツ姿のウルザが身に着けていく。
数分後、そこには一人前の冒険者のような格好になった美貌の少女が立っていた。
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