31.クリティカルリング
「それじゃあ、森に入るとしようか」
「はいですの! ハンティングですの!」
朝食を終えた俺はウルザを連れて近くの森にやってきていた。
他のメンバーとは別行動である。
エアリスとナギサはレオンパーティーのルーフィーを加えて、別のサブクエストの消化をお願いしていた。
モニカは母親の説得のために家に残っており、シエルは実家であるウラヌス伯爵家の屋敷に戻って父親に会いに行っている。
残るメーリアはいつの間にかどこかに消えていた。別に探す理由もないので放置している。
俺が森に入ろうとしているのは、サブイベント『黄金の蜂を追え』をクリアするためである。
この森にはある稀少な蜂が生息しており、その巣を発見することで稀少なアイテムが手に入るのだ。
「さて……目的は事前に説明した通り。黄金の蜂『ゴールドクイーン』の巣を発見することだ」
「はいですの! 蜂蜜が楽しみですの!」
「うん、あの蜂蜜は絶品らしいな。俺も食ったことはないが」
ゲームでは舌が蕩けるほどの美味さだと言われており、とある権力者も欲していた。
それはともかくとして……この蜂の発見にはいくつかクリアする条件がある。
「まずは巣が何処にあるかわからないということだな。厄介なことに、アレの巣は日によって場所が変わるんだ」
ゴールドクイーンは半分魔物、半分精霊という特殊なモンスターだった。
そのため、精霊の力によって森に干渉することができ、日によって違う場所に巣を移動させるのだ。
ゲームでもランダムで場所が変わっており、見つけるのにかなり苦労させられた。
「とはいえ……キーアイテムはすでに入手してある。これを使えば発見できるだろう」
俺が取り出したのは、昨晩、亡霊騎士を倒して入手した指輪だった。
『クリティカルリング』という名前の指輪はモンスターの弱点を看破する能力があり、これを装備していると相手の弱点部位が赤く光って見えるのだ。
使用時に20%の確率で壊れてしまうものの、弱点部位にヒットするとダメージが倍加するので貴重なアイテムとして温存されていた。
「それじゃあ、ウルザ。説明していた通りに頼む」
「えっと……本当に良いですの? そんなことをしても?」
「構わん。怒らないからさっさとやれ」
俺は指輪を身につけ、ウルザに指示を出した。
ウルザは不思議そうに首を傾げながらも、「わかったですの」と武器の棍棒を構える。
「それじゃあ、ご主人様……いきますの!」
「…………!」
「ヤアアアアアアアアアアアアアッ!」
ウルザが下からすくい上げるようにして、棍棒を振ってくる。
俺は下からの打撃を踏みつけるようにして、タイミングを合わせて大きくジャンプした。
「オオオオオオオオオッ!」
ウルザの膂力を借りて、俺は勢いをつけて跳躍する。
『身体強化』や『体術』スキルなどの向上によって得た脚力に、ウルザのパワーを乗せて、森に生えている樹木を見下ろせる高さまで飛びあがる。
「『クリティカルリング』発動」
そして、森を見下ろしながら指輪を発動させた。
弱点を看破する能力を発動させながら森を見回し……ある一点に目を付けた。
「あった……!」
森の一部分に赤く光を発している場所がある。
あれこそがこの森の弱点部位……すなわち、ゴールドクイーンがいる場所だろう。
「よっと……」
空中で地面を回転して着地し……俺は「フッ」と短く息を吐く。
まったく……つくづく、このゲームの運営は意地が悪い。
ゴールドクイーンの巣を発見するためには広い森を歩き回らなければならず、数時間……下手をすると数日かかってしまうことも多い。
おまけに再び「巣」に訪れようとしても場所が変わっており、一から探索し直さなければいけないという意地悪しようだ。
「それなのに……このアイテムを使用したら一発ときたものだ。ガチで性格悪いよな」
これはたまたま一人のプレイヤーが発見し、ネットに投稿したことでハッキリしたことである。
そのプレイヤーは飛行アイテムを使ってフィールド上を移動していたのだが、何を思ったのかフィールドに向けて装備していたクリティカルリングを発動させた。
特に意味があっての行動ではない。長時間RPGをプレイしているゲーマーは、時におかしな行動をとるものなのだ。
犬や猫に話しかけてまわったり、「うまのふん」を大量に集めてみたり、すでに景品アイテムを取りつくしているのに何時間もカジノゲームに興じてコインを増やしてみたり……そのプレイヤーがとった行動もそんな意味不明なアクションの一つだった。
しかし、プレイヤーは気がついた。
クリティカルリングごしに見たフィールド上に、弱点部位を示す赤い光が浮かんでいることに。
後から検証したところ……フィールドを俯瞰した状態でクリティカルリングを発動させると、レアアイテムやボスモンスターが隠れている場所を見つけ出すことができることがわかったのだ。
これはアイテムの説明文にも攻略本にも書いていないことである。
一部のプレイヤーが運営にクレームを入れたところ、「さあ、何のことかわかりませんね」「バグじゃないですか? うっかりしていました」としらばっくれた回答が返ってきたらしい。
クリティカルリングの本当の価値はモンスターの弱点を発見することではなく、地形に対して使用することこそが本当の意義だったのである。
「隠れ〇ッキーじゃねえんだから……プレイヤーをおちょくるのもいい加減にしろよな」
「あ、ご主人様! 目的の物は見つかりましたの?」
「ああ、バッチリだ。目的地はそれほど離れていない。さっさと行こう」
俺は駆け寄ってきたウルザに応えて、ジャンプした際に身体についてしまった木の葉を払う。
時間が経過すると、ゴールドクイーンの巣は移動してしまう。さっさと見つけた場所に向かうことにする。
俺は心の中で意地の悪いゲームの製作者に悪態をつきながら……ウルザを連れて、森の中を移動するのであった。




