26.家出娘の処遇
モニカは俺達のパーティーメンバーとして戦っていたものの、正式な仲間というわけではない。
あくまでも行方不明になったレオンを見つけ出すため、臨時でメンバーに加わっていただけである。
当然、用事が終わったらパーティーから抜けるはずだったのだが……。
「王都にって……おいおい、お前は故郷に戻らなくても良いのか?」
忘れかけていたが……モニカは家を飛び出してきて、親戚の商人に引っ付いてきて、領都アルテリオーレにやってきた。
そういえば……完全に失念していたが、モニカの叔父とやらはどうしているのだろう。いなくなった姪っ子のことを探しているのではないだろうか?
「母親だって心配しているだろう。息子が行方不明になって、娘までいなくなったんじゃあ、心労で倒れてしまうかもしれないぞ?」
「そ、それはそうかもですけど……私、それでもレオンお兄ちゃんのことが心配なの。このまま、私だけ家になんて帰れないよ……」
「ふむ……それはそうかもしれないが……」
モニカの提案は……正直、願ったり叶ったりな部分がある。
俺がモニカをダンジョンに連れていった目的は、レオンと同じく勇者の子孫である彼女を新しい勇者にするためだった。
モニカが勇者になれるかどうかはわからないが……『勇血』のスキルを持っているということは資質は間違いなくあるだろう。
このまま成り行きで仲間になってくれるのなら、渡りに船というやつである。レオンが元に戻れるかわからない状況であれば、なおさらである。
「でも……少なくとも、一度、家に帰ったほうが良いんじゃないですか? お母様にもブレイブさんのことを報告しなければいけないでしょう?」
エアリスがモニカと母親を案じて言う。
常識人であるエアリスらしい発言であったが……何故かモニカが目をそらした。
「え、えっと……それはちょっと……い、家に帰りたくないかも……?」
モニカが両手の人差し指を合わせて、モジモジと居心地悪そうに言葉を濁らせる。
どうにも歯切れが悪い。都合の悪いことでもあるような反応である。
「ひょっとして……母親に怒られるのを恐れているのではないか?」
「あうっ……」
ナギサの言葉にモニカが胸を押さえてうめく。どうやら、図星であったようだ。
この暴走娘でもやはり母親は怖いらしい。家出同然で飛び出してきたのであれば、無理ものないことであるが。
「なるほどな……そういうことであれば、やはりモニカを家に帰したほうが良さそうだ」
このまま連れて帰っていったら、誘拐として通報されかねない。
モニカの母親は平民であるが、貴族であるウラヌス家と付き合いがある。短期間であればともかくとして、いつまでも連れて歩いたら面倒ごとになってしまう可能性があった。
「痛くもない腹を探られるのは面倒だからな。ウラヌス伯爵領だったら帰りの道中に通るし、寄っていくとしよう」
「でも……それじゃあ、レオンお兄ちゃんが……」
「家に戻り、レオンがどうなったかについて母親に事情を説明する。その上で、俺に同行する許可をもらえばいいだろう」
「うー……それはそうかもしれないけど……」
モニカが顔を引きつらせる。
どれだけ母親が怖いのかだろう……ゲームで登場したレオンの母親は普通に優しそうな人だったのだが。
「モニカさん、お母様に心配をかけてはいけませんよ」
「身を案じてくれる親がいるのは良いことだ。孝行すると良い」
「…………はい」
俺だけではなくエアリスとナギサにまで諭されて、モニカは渋々といった様子で肩を落とす。もはや逃れることはできないと観念したようだ。
家に帰れば母親から説教されることになるだろうが……それは甘んじて受け入れてもらうとしよう。
俺達は王都に戻るにあたって、レオンの生まれ故郷……ウラヌス伯爵領に向かうことを決定した。
「モグモグ、ムシャムシャ」
ちなみに……ウルザは話し合いに参加することなく、ひたすらに料理を食べ続けていた。
とにかく大食いのウルザのせいで追加で料理を注文することになり、ルームサービスのためにスタッフが三往復もすることになったのである。