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23.勇者の豹変


「お、お兄ちゃん! 嘘だ、お兄ちゃんっ!」


「下がれ、モニカ!」


 座り込んだモニカの肩を掴み、力任せに部屋の後方へ投げ捨てる。


「フッ!」


「ガアッ!」


 レオンだったものが剣を振るってくる。俺も右手の剣で攻撃を受け止めた。


「チッ……そのナリで剣を使ってくるのか! おまけにこのパワーは……!」


「グガアッ!」


「グッ……!」


 凄まじい膂力で押し飛ばされ、そのまま部屋の入口まで吹き飛ばされる。

 それでも、無様に床を転がるような真似はしない。空中で態勢を整えて着地し、同時に魔法を発動させる。


「シャドウエッジ!」


 漆黒の刃がレオンめがけて放たれる。

 闇属性の魔力が込められた刃が化け物となったレオンの顔面を切り裂こうとするが、直前、レオンの前方に白いシールドが出現した。


「グガッ! ガアッ!」


「ホワイトシールド!? 魔法まで使えるのか!?」


 レオンが発動させたのは光属性の防御魔法だった。

 魔法で生み出されたシールド……闇属性と相反する光属性の盾により、漆黒の刃が相殺される。


「剣術に魔法……あんな姿になってまで、レオンの能力を引き継いでいるというのか!?」


 戦っているうちに思い出した。

 今のレオンの姿……あれはゲームにも登場した『ライカンスロープ』と呼ばれるモンスターによく似ている。

 ライカンスロープはダンジョンで行き倒れになった冒険者などが、ダンジョンの魔力に汚染されることで生まれる……という設定のモンスターだった。

 怪物になってしまった人間には理性はなく、他の冒険者などを襲うようになる。

 生前の強さを引き継いでいるため、素体となった人間の実力が強いほどに厄介になるモンスターだった。


「レオンがダンジョンコアによって魔物に変えられた……まさか、そういうことなのか!?」


 確かに、ダンジョンはモンスターを生み出す温床である。ダンジョンの中枢であるコアには魔物を作る力があるという。

 しかし……狙って人間を魔物に変えることができるとまでは知らなかった。そんな設定、ゲームにだって登場しなかったはずである。

 そして、ゲームになかったということは対処法もわからないということ。レオンを元の姿に戻す方法は俺も知らなかった。


「クッ……最悪だ!」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 剣で斬りかかってくるレオンを迎え撃ちながら、俺はこれでもかと顔面を歪めた。

 レオンを救い出すために『アルテリオーレの奈落』に潜ってきたはずなのに、どうしてかレオンと戦うことになっている。

 いったい、どんな因果に巻き込まれたらこんなイベントに遭遇するというのだろう。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん……!」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 モニカが必死に呼びかけるものの、レオンに反応はなかった。もはや、人間としての自我が残っていないのかもしれない。


「チッ……どうしたものかな」


 俺は選択を迫られた。

 怪物になったレオンを殺すべきか、殺さないべきか。

 情を取るのであれば、生かしたまま、どうにかして救う手段を考えるべきだろう。

 レオンはモニカの兄。大好きだったゲームの主人公だ。決して親しい関係ではなかったものの、助け合い、競い合ったこともある。

 だが……レオンは仮にも勇者。その力は並ではない。


「パワーもスピードも前に戦った時を余裕で越えているな。魔物になって強化されているのか?」


 生け捕りにできるほど容易い相手ではない。

 ならば、やるべきことは一つである。


「殺るか……悪く思うなよ!」


 積極的に殺したくはないが、手加減無用で全力で潰す。

 できれば生きていてくれと願いながら、全身全霊で殺す。

 我ながら何を言っているのかさっぱりだったが……俺がやるべきことはそれである。


「ギッ……!?」


 俺から放たれる本気の殺気に気がついたのか、レオンが怯んだように後ずさる。

 わずかに怯えるような挙動を見せるが……瞳には依然として殺意と闘志が浮かんでいた。戦闘をやめるつもりは無さそうだ。


「一気に決めさせてもらう! オーバリミ……」


 オーバリミットを発動させようとする俺であったが……最後まで言い切ることはできなかった。

 突如として俺の周囲を水泡のような薄い膜の球体が包み込んだのである。


「キャッ!」


「何ですの、これは!?」


 見れば、俺だけではなくエアリスやウルザ、ナギサ、モニカもまた膜につつまれている。


「ガアッ!」


 俺達だけではなく、レオンも球体に閉じ込められていた。

 レオンが薄い膜を剣で叩くがいっこうに壊れる様子はない。見た目は薄っぺらいが、強度は鋼並みのようだ。


「まさか……ダンジョンの脱出装置。安全機能か!?」


 ゲームでも同じようなものが出てきたことがあった。

 ダンジョンが破壊された際、内部にいる人間を外に出すための脱出機能である。

 ダンジョンコアが破壊されて、ダンジョンの崩壊が始まると作動するようになっていたはずだが……。


「まさか……!」


「クック……」


 ダンジョンコアに目を向けると、魔王軍四天王――ボルフェデューダがダンジョンコアに短剣を突き刺していた。

 魔族の猛将はニヤリと俺に笑いかけてから、口から血を吐いて今度こそ絶命する。


「まだ生きていやがったのかよ……やりやがって」


 ダンジョンの安全装置によって薄い膜のバリアーに包まれた俺達であったが……周囲の景色が一変する。

 視界が切り替わり、目の前に現れたのは瓦礫の山とそこを行き交う大勢の人。ダンジョンの外――交易都市アルテリオーレに飛ばされてしまった。


「ひゃあっ!」


「ちょ……バスカヴィルさん、どこから出てくるんですかあ!?」


「お前ら……!?」


 すぐそばに尻もちをついたシエルとパンを齧っているメーリアの姿があった。どちらも驚いたように俺達を見つめている。


「外に飛ばされたようだな……何がどうなっているんだ?」


「とりあえず、全員無事なようですけど……」


 ナギサとエアリスが周りを見回し、首を傾げた。

 少し離れた場所にウルザとモニカもいる。仲間は全員、無事なようだ。


「レオンは……!?」


「グルルルルルルル……!」


 同じくダンジョン最深部から転移させられたレオンであったが……その姿は頭上にあった。

 背中の翼をはためかせ、空を飛んで俺達のことを見下ろしている。


「あれって……そんな、噓でしょう?」


「もしかして……アレがレオンさんですかあ!?」


 シエル、メーリアも愕然として驚きの声を上げる。

 変わり果てた仲間。ともに苦楽を共にして、愛情すら抱いていたであろう男の姿を目にしたのだから当然だろう。


「グオオオオオオオオオオッ……!」


「不味い……魔法攻撃だ!」


「お兄ちゃん、やめて!」


 レオンの後方に白い魔方陣が出現した。光属性の上級魔法が発動する前兆だ。

 モニカの声は届かない。

 こちらも闇魔法を放って打ち消そうにも……先に魔法を発動させたのはレオンの方。今からでは間に合わない。


「伏せろ! 全員、物陰に隠れ……!」


「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 絶叫、次いで轟音が響き渡る。

 頭上から光の矢が雨のように降りそそぐ。いくつもの爆発が生じて、瓦礫を吹き飛ばして砂塵のカーテンを舞い上がらせた。


 光属性上級魔法――イノセント・スターダスト


 レオンが放った強力な魔法により、無慈悲な破壊が周囲一帯に降りそそいだのであった。


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