76.敵軍と援軍
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アイテムを使って転移してきたのは『蛇神の祭壇』から少し離れた場所にある岩場だった。
事前にシャクナをここに隠しておいて、魔法で身を隠すことができる俺がリューナを救うために突入したのだ。
もちろん、シャクナは妹を助けに行きたいとごねていたが……そこはどうにか納得してもらった。
俺だけならば逃げ出すことは容易だが、人数が増えれば増えるほどに脱出が困難になるからである。
「さて、リューナを救い出すというミッションは成功。これで邪神の復活を阻止することもできたが……」
俺は顔を上げ、天空を睨みつける。
頭上ではいまだに太陽が姿を隠し、闇の帳が落ちていた。
皆既日食は終わってはいない。そろそろ太陽が顔を出してもおかしくはないのだが……。
「日食が終わらない……ルージャナーガが何かをしているのか?」
天文運動にまで干渉することができるとは恐ろしい呪術師である。
もちろん、現実にはあり得ないことであるが……ここはあくまでもゲームの世界。
隕石の雨を降らしたり、太陽光を捻じ曲げて光線として敵にぶつける魔法もあったので、そこまで不自然なことではあるまい。
「事前に話しておいた計画通りにいくぞ。シャクナ、お前はこのままリューナを連れて撤退しろ。皆既日食が終わるまで隠れていろ」
俺は手にしていたホルスの羽をシャクナに手渡した。
これがあれば安全圏まで離脱することができる。何処に逃げたのかもわからなければ、同じく転移能力を持ったヴェイルーンでも追いつけまい。
「わかったわ。もう二度とリューナを手放したりはしない! 絶対に守るんだから!」
「バスカヴィル様はどうされるのですか? 一緒に逃げるのではないのですか?」
力強く胸を叩くシャクナに対して、リューナが不安そうに瞳を揺らす。
俺と離れることが不安ということもあるが……純粋に心配なのだろう。俺が何か危ないことをするのではないかと。
「俺は祭壇に戻ってルージャナーガを潰す。奴に雲隠れなどさせるものかよ!」
魔王軍四天王ルージャナーガ。
リューナを救い出した時点でマーフェルン王国における陰謀は打破しているが……だからといって、敵の大幹部を逃がすつもりはなかった。
四天王における唯一の知略家にして謀略家。様々な陰謀を巡らせて主人公を追い詰める人妖であるルージャナーガを、この段階で仕留めることができるのはかなり大きい。
魔王軍の戦力をかなり削ることができるだろう。
「アイツが皆既日食の進行を止めているのならば好都合だ。天体運動に干渉するほどの大魔法を使用しているのであれば、身動きはできないだろう。奴は殺す。ついでにあの変態悪魔も地獄に送り返してやるよ!」
「……どうか無理だけはなさらないでください。危なくなったら、バスカヴィル様も逃げてきてくださいませ」
「了解した。さっさと行けよ」
「じゃあ、先に行くわね! アンタも一応は気をつけて!」
シャクナがリューナの手を取り、ホルスの羽を使用して転移する。
二人が転移した先は『サロモンの王墓』。主であるサロモンと友誼を結んだことにより、王都以上の安全地帯となった場所だった。
本来、転移魔法ではダンジョン内に転移することはできない。
しかし、ホルスの羽はマーフェルン王国内限定ではあるが転移魔法ではいけない場所にも飛ぶことができるのだ。
『王墓』の下層にある安全スペースに隠れていれば、ルージャナーガにもヴェイルーンにも追っていくことはできまい。
「さて、俺も仕事をしなくてはいけないが……お?」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
大勢の人間……あるいはそれ以外のナニカの叫びが聞こえてきた。
方角は先ほどまでリューナが捕まっていた場所。すなわち、『蛇神の祭壇』からである。
「……ここにきて団体様のご到着かよ。あんな軍勢、いったいどこに隠していやがった?」
こちらに向かってきているのは人間と魔物が入り混じった混成軍だった。
人間の頭部を持った蛇やトカゲ、鎧で武装したワニ。剣で武装した骸骨騎士。
そして、鎧兜を身に着けた人間の兵士。瞳は虚ろであり、どことなく操られているような雰囲気がある。
魔物と人間の混成軍は少なく見積もっても一千以上。いったい、砂漠の真ん中にどうやってあれだけの兵士を呼び出したのだろうか?
「あの悪魔の転移能力を使ったのか? そういえば……『門』を生み出して大勢の人間を転移させる魔法があったな」
プレイヤーや仲間キャラクターは習得できない特別な魔法はず。
しかし、ゲームの外の存在であるヴェイルーンであれば使用することができてもおかしくはなかった。
「「「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」」」」」
不気味な鬨の声を上げながら、一千の混成軍が岩場めがけて突撃してくる。
何らかの魔法を使ってこちらの場所を探り当てたのかもしれない。迷うことなく、俺が隠れている場所を目指していた。
すでにリューナは逃がしたのだから、ここが見つかろうと関係はない。
とはいえ……あれだけの敵をかいくぐってルージャナーガを討つのは至難である。
「さてさて……どうしたものか。こっちの援軍は間に合わなかったのかね?」
「ご主人様―! 参りましたですのー!」
「お? 噂をすれば鬼が出たか!」
俺が振り返ると、遠くの砂山の向こうからウルザが手を振っていた。
ウルザは砂竜にまたがっており、乗馬経験もないくせに一丁前に乗りこなしている。
「ゼノン坊ちゃま―! お待たせいたしましたー!」
援軍にやってきたのはウルザだけではない。後に続いて、砂山の向こうからレヴィエナも顔を出した。
そして……二人に続いて、どんどんこちらに向かって砂竜に乗った者達が現れてくる。
数十、数百と数を増やしていく彼らの正体は……革命軍。
ルージャナーガに操られて腐敗したマーフェルン王国を打ち倒すべく活動しているレジスタンス組織である。
「ご主人様―! 言われたとおりに援軍を連れてきましたのー!」
「まさか二人が革命軍とつるんでいるとは驚かされたよな……まったく、頼りになる仲間だぜ」
半日ほど前、『サロモンの王墓』を脱出した俺とシャクナは、戦力をかき集めるために王都に向かった。
ホルスの羽を手に入れたことで、マーフェルン王国の内部であれば、どこにだって転移できるようになっている。
もちろん、一度も行ったことがない場所には行くことはできないが……王都はシャクナが暮らしていた場所。彼女に羽を使ってもらえば、問題なく移動することができた。
王都にやってきた俺はさっそく別行動をとっていたウルザとレヴィエナと合流したのだが……驚くことに、二人は王宮と神殿に反旗を翻している革命軍と行動を共にしていた。
導師について調べるうちに王宮に目をつけられてしまい、兵士と戦っていたところで革命軍のメンバーと出会ったとのことである。
そして……この場に駆けつけた戦力は革命軍だけではない。
もう一つ、別の勢力を味方として呼んでいた。
「全軍、突撃! 魔物の軍勢を打ち破れ!」
革命軍に送れて現れた一個師団。その先頭で砂竜にまたがった男が叫ぶ。
褐色肌で白い髪とヒゲを生やした壮年男性。その男の名前は……グレネイス・マーフェルン。
シャクナとリューナの父親であり、マーフェルン王国の国王。追加シナリオである『翡翠の墓標』におけるボスキャラ。
導師ルダナガによって洗脳され、マーフェルン王国に暮らしている人々に圧制を敷いている邪悪な国王である。
本来であれば、敵として立ちふさがるはずのグレイネス王が味方になったのには理由がある。
そもそも、グレイネス王が圧政を敷く暴君になったのはルージャナーガによって洗脳され、操られていたから。本来のグレイネス王は権威主義者ではあったものの、王としては無能ではなかった。
シャクナが『王墓』で入手した『オシリスの王笏』を使用して、グレイネス王にかけられた状態異常……すなわち、洗脳を解除したのである。
「我が娘……リューナを殺そうとした邪術士どもに天誅を降せ! 反逆者ルダナガを討ち取れええええええええええええっ!!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
国王の命令を受けて、現れた騎士達が突撃してくる。
洗脳が解けたことでグレイネス王は娘への愛情を取り戻し、リューナを生け贄にしようとしているルージャナーガを討つべく、自ら騎士団を率いて出陣してきた。
ボスキャラとその配下が援軍として登場して、味方として戦おうとしている。ゲームであればありえない展開である。
「国王に後れを取るな! この国を守るのは我ら革命軍であると示しなさい!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
革命軍も負けじと敵に向かって進軍を始めた。
革命軍と騎士団の連合部隊……その総数は五百ほど。敵の半分程度の兵士しかいなかったが、半日未満の急ごしらえでよく掻き集めたと言えるだろう。
少し前まで敵対している二つの勢力をまとめるにはかなり苦労したが……ウルザとレヴィエナ、シャクナのおかげでどうにかそれが成し遂げられた。
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
「「「「「ガアアアアアアアアアアアッ!」」」」」
革命軍・騎士団の混成軍。魔物・人間の混成軍。
二種類の混沌たる軍団が砂漠の真ん中でぶつかろうとしている。
「千載一遇の勝機。最高のタイミングでの援軍登場だな!」
敵軍は任せてしまったも良いだろう。
これでルージャナーガ、ヴェイルーンとの戦いに集中できる。
「変態悪魔と蛇ジジイ……厄介者にはどちらも消えてもらうとしよう。太陽が顔を出すまでにすべての因縁にケリをつけてやる!」
俺は凶暴に牙を剥いて笑い、隠れていた岩場から飛び出したのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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