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番外編 ウルザとレヴィエナの冒険 ⑦


「何ですの、この化け物は!?」


 ウルザが叫びながら、振り下ろされた拳を金棒で受け止める。


「うっ……!」


 ズシリと重い感触。ウルザは両足で地面に踏みとどまり、どうにか打撃を受けきった。


「コイツ……強いですの!」


「畳み掛けます!」


 レヴィエナが怪物の後方に回り込んで斬撃を繰り出す。

 怪物の背中が斜めに切り裂かれるが……その傷口はすぐにふさがってしまった。


「なっ……!」


『ガアッ!』


 怪物が鬱陶しそうに手を振った。

 レヴィエナは咄嗟に盾を構えて打撃を受け止めるが、堪えきれずに後方に退避する。


「クッ……強い!」


「レヴィエナさん!」


「大丈夫、です……! それよりも、戦いに集中してください!」


『ガアアアアアアアアアアアアアッ!』


 レヴィエナを吹き飛ばし、怪物がウルザにターゲットを絞る。

 丸太のような両腕で何度も何度も繰り返し殴りつけた。


「クッ……ですのっ!」


 ウルザは怪物の攻撃を金棒で防御する。

 怪物はパワーこそ強いものの、技量はそれほどでもなかった。ウルザは怪物の打撃を受け、弾き、流すことで直撃を避けていく。

 だが……何度となく攻撃を防御するうちに、ウルザの両手にジンジンと痺れが走っていく。あまり長くは続きそうもなかった。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


「ウルザをパワーで押し切ろうだなんて舐めた怪物ですの! 反撃……ですのー!」


 ウルザは一瞬の隙を突いて、鬼棍棒で地面を叩いた。強烈な打撃によって砂塵が巻き上がってウルザの姿を隠す。


『ガアッ!?』


 砂塵が目くらましになり、怪物がウルザの姿を見失った。

 絶好のチャンス。棒立ちになった怪物は隙だらけとなっている。


「ドタマかち割ってやりますの!」


『ガッ……!』


 砂塵から飛び出し、ウルザが怪物の頭部に鬼棍棒を叩きつけた。

 凶暴なトゲをいくつも生やした金棒の一撃がクリーンヒットする。怪物の巨体がたまらずふらつき、肩膝をついてしまう。


「レヴィエナさん!」


「はい! トドメです!」


 いつの間にか近くの民家の屋根に上っていたレヴィエナが、落下と同時に斬撃を放つ。

 全体重を乗せた剣先が怪物の頭頂部から顎下までを一気に貫く。


「これなら……!」


 レヴィエナが会心の笑みを浮かべる。

 脳を破壊した。明らかな致命傷だった。


『グウウウウッ……ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


「キャッ!?」


 しかし、頭部を貫かれてもなお怪物が暴れ狂う。

 ブンブンと頭を振ってレヴィエナを強引に振り払い、そのまま蹴りつけて吹き飛ばす。


「クウウウウウウッ……!」


「危ないですの!」


 あわや家屋の壁に突っ込みそうになるレヴィエナをウルザが受け止めた。


『ガアッ! ガアッ! ガアッ! ガアッ! ガアッ! ガアッ!』


 怪物が怒り狂ったように手足を振り乱している。

 どうやら、先ほどの一撃で逆鱗に触れてしまったらしい。まるで子供が駄々をこねるように無茶苦茶に暴れまわっていた。


「どうやら……ちょっと本気で戦わなくちゃ不味そうですの」


 ウルザの雰囲気が変わる。

 脳天を剣で貫かれてもなお動く気力があるというのなら、もはや手足をもいで完全に肉体を破壊するしかない。

 ウルザは全身全霊を込めて目の前の敵を破壊するべく、切り札の大技――『鬼神化』を発動させようとした。


 ウルザの瞳が真っ赤に染まり、瞳孔が金色色の輝きを放つ。火眼金睛。戦いの神の眼である。

 白い髪がまるでメデューサのようにウネウネと動き出し、身体からマグマのような赤いオーラが噴出した。


「ウルザさん……!」


 レヴィエナが畏怖を込めて仲間の名前を呼ぶ。

 かつてゼノンが父親であるガロンドルフの剣に貫かれた際、怒り狂ったウルザがこの状態となっていた。

 一瞬とはいえ、最強の戦士であるガロンドルフに恐怖と警戒を与えたウルザの最強モードの発現。


「さあ、ぶっ殺ですの! 骨まで喰うぞ!」


『ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 鬼神と化したウルザが叫び、怪物に向かって走り出そうとする。

 だが……2匹の魔物の喰いあいが始まるよりも先に、予想外の方向から横やりが入った。


「神の敵を焼き尽くせ……ホーリーバースト!」


 横から飛んできた炎の塊が怪物に着弾する。瞬間、怪物の全身が金色の炎の包まれた。


『グギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』


「その怪物は光属性の攻撃に弱い! 畳みかけるのならば今です!」


「え……?」


 突如としてかかる女性の声。

 振り返ると、そこには白いローブを纏った赤髪の女性が立っていた。女性は右手に木製のステッキを持っており、その先端が怪物に向けられている。


「ガウッ!? 何者ですのっ!?」


 喰いあいの邪魔をされたウルザが牙を剥いて怒鳴った。

 『鬼神化』を発動させたウルザは闘争心の化身。戦闘能力が大きく上昇する代わりに、理性や思考能力が著しく低下している。

 下手をすれば、助力をしてくれた女性の方に向かっていきかねない。


「う、ウルザさん! 今はあの敵に集中しましょう。詮索は後です!」


「グルルルル……レヴィエナさんに従いますの」


 レヴィエナの声にウルザはどうにか怒りを収め、怪物との戦いを再開させる。


『グギャアアアアアッ! グギャアアアアアアアッ!』


 金色の炎。おそらく光属性と火属性の両方を合わせた魔法を受けたことで、怪物は見るからに弱っていた。

 どうやら、赤髪の女性が言うように光の魔法が弱点だったらしい。


「畳みかけます!」


「ガアッ! トドメですの!」


 火だるまになって悶絶している怪物にレヴィエナとウルザが同時に攻撃を仕掛けた。剣と金棒が怪物の胴体にクリーンヒットする。


『ギャ……ガアッ……』


 怪物が弱々しく呻きながら、そのまま炎に包まれて黒い燃えカスになった。

 戦闘終了。苦戦はしたものの……どうにか勝利することができたようだ。


「えっと……助かりました。ご助力、感謝いたします」


 レヴィエナが赤髪の魔法使いに向き直り、頭を下げて礼を言う。


「……別に手助けはいらなかったですの。ウルザだったら勝てましたの」


 一方、ウルザは拗ねたように唇を尖らせていた。

 本気を出して全力で戦おうとしていたところに水を差されて不機嫌になっている。


「構いませんよ。アレは私達が戦っている敵。邪悪なる王と導師の手先ですから。そんなことよりも……お二人とも、素晴らしい戦いでした! まさか物理攻撃だけで『グール』と同等に戦うだなんて、とてもお強いのですね!」


 赤髪の魔法使いがローブを手で払い、右手を差し出してきた。


「私の名前はカナラと言います。この国を蝕む邪悪な権力者と戦っているレジスタンスの人間です! 愚王の手先に襲われていたということは、どうやら貴方達も私達の仲間のようですね! これからよろしくお願いします、我が同志よ!」


「は、はあ? レジスタンス……ですか?」


 初対面の人間に握手を求められ、レヴィエナが目を白黒させて困惑する。

 どうやら……国王や導師のことをよく知っている人間と遭遇したらしい。レヴィエナはどうするべきか思案しながら、とりあえず差し出された手を握り返すのだった。


 レジスタンスのカナラ。

 レヴィエナらは知りようもないことだったが……彼女はゲームのサブキャラクターであり、追加シナリオ『翡翠の墓標』の登場人物だった。

 彼女との出会いは意図しないものだったが……後にこの国の未来をめぐる戦いを左右することになる。


 ウルザとレヴィエナがそれを知るのは、ほんの少し先のことだった。




番外編 ウルザとレヴィエナの冒険   終わり

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 予想以上にウルザさんとレヴィエナさんですら相当危なかったですね!?ぎりぎりその戦闘を勝てでもサポート無しに敵勢力の手を避けながらの隠居生活は無理ぽいでしたから。
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