番外編 ウルザとレヴィエナの冒険 ①
はぐれた仲間視点になります。
これから1週間、毎日更新していきますのでよろしくお願いします。
怪鳥――ファルコン・ファラオによってゼノンが空に連れ去られた直後。
砂漠に残された2人の仲間――ウルザとレヴィエナはというと、かつてない混乱に襲われていた。
「ご主人様が連れ去られてしまいましたの! 大変ですの! 緊急事態ですの! エマージェンシーですの!」
空に連れ去られていくゼノン・バスカヴィルの姿に、奴隷にしてパーティーメンバーであるウルザは錯乱して左右に走り回る。
「お、追いかけたらいいですの!? あのでっかい鳥を下から撃ち落したらいいですの!? こ、ここは魔法を使って……………………ああ、ウルザは魔法が使えませんのっ!」
愛する主人がいなくなってしまった。
ウルザは赤い瞳に涙を浮かべて、わしゃわしゃと白い髪を掻きむしる。
「と、ととととととととっ、とにかく追いかけるですの! ご主人様を攫ったあの憎き怪鳥を追い詰めて焼き鳥にして食べちまうですのっ!」
「落ち着きなさい、ウルザさん!」
感情のままに駆けだそうとするウルザであったが……同行者であるレヴィエナに腕を掴まれた。
メイド服を着たレヴィエナがウルザを全力で捕まえる。馬鹿力の鬼娘に引きずられそうになってしまうのを必死になって引き留める。
「くっ……落ち着いてください! ここで私達が冷静さを失ってしまえば、本当にゼノン坊ちゃまに会えなくなってしまいますよ!?」
「れ、レヴィエナさん……!」
「坊ちゃまが心配なのは私だって同じです。まずは冷静に、落ち着いて、今できることを考えましょう」
「…………」
年上の美女からの説得にウルザの身体から力が抜ける。
唇を噛みしめながら、主人を追いかけたくなる衝動をどうにか堪えた。
「……ごめんなさいですの。ウルザが間違っていましたの」
「ウルザさん……わかってくれたんですね?」
「レヴィエナさん、ウルザ達はどうしたらいいですの? ご主人様のために何をしたらいいですの?」
ウルザが瞳に涙をためて、上目遣いでレヴィエナを見上げる。
ようやく落ち着いたウルザにレヴィエナは胸を撫で下ろし、細い両肩に手を置いた。
「ウルザさん……私達は主人の従僕。あの方の所有物です。どんな時だってゼノン坊ちゃまのために最大限に努力をする必要があります」
「はいですの」
「ゼノン坊ちゃまは怪鳥に攫われてしまいました。まずはこの状況を打開するためにタイムマシンを探すことにしましょう」
「………………はあ、ですの?」
レヴィエナが口にした奇怪な言葉にウルザがパチクリと瞬きを繰り返す。
とんでもないセリフを聞いたような気がするのだが……果たして、それはウルザの聞き間違いだろうか?
「大丈夫、私達だったら絶対に見つけることができます。まずはこの辺りを掘ってみましょうか」
「ちょ……レヴィエナさん!?」
レヴィエナが砂漠に膝をついて両手で砂を掘り始めた。
奇想天外な行動にウルザが駆け寄ると……レヴィエナの瞳は虚ろでまったく光が宿っていない。まるで白昼夢でも見ているようである。
「大丈夫、ダイジョブ……ちゃんと全部全部なかったことになりますから。過去に戻ってやり直したらいいんです。この間、仕事の休憩時間に読んだ本にそんなことが書いてありましたから……」
「ちょ……レヴィエナさん!? しっかりするですのっ!」
「タイムマシンがダメだったら、リセットしてセーブポイントからやり直すというのもアリですね。ええっと……最後にセーブしたのはどこでしたっけ?」
「し、しっかりがっつりテンパってるですの!? 正気になるですの、レヴィエナさーん!」
冷静に見えたレヴィエナであったが……彼女もまた錯乱しまくっていた。
命よりも大切な主人。幼い頃から面倒をみて、一時期は虐待じみた扱いをされても忠誠を誓っていた『坊ちゃま』がいなくなってしまったことにより、完全に精神の均衡を欠いてしまっている。
「ウフフフフ……そうだ、いっそのことゼノン坊ちゃまを量産すればいいのです。そうすれば一人くらい攫われたって立て直しができます。ああ、でもスペアがいるからと言って坊ちゃまを鳥の餌にするわけには……ああ、困りましたね。どうしましょう?」
「うわーん! もうお終いですの! ご主人様がいなくなってレヴィエナさんもおかしくなってしまいましたの! どうしたら良いのかわかりませんのー!」
そんなふうに大騒ぎしているうちにも、頭上からは灼熱の太陽が降り注いでいる。いつまでも砂漠の真ん中で立ち往生していれば、全身の水分を失って干上がってしまうだろう。
だが……それでも彼女達にはどうするべきかわからなかった。ゼノン・バスカヴィルという絶対の主柱を失ったことにより、パーティーは完全に瓦解している。
このままでは本当に全滅してしまう……絶体絶命。かつてない危機が残された仲間達を襲う。
「うるせえ! 静かにしやがれ、馬鹿野郎ども!」
「ッ……!」
だが……そんな女性2人に喝を入れた人物がいた。
怒声を発したのは意外な人物。つい先ほどまでゼノンらを襲った砂族の頭領である。
砂漠の主であるファルコン・ファラオに殺されそうになったところをゼノンに助けられた頭領だったが、拳を振るいながらウルザとレヴィエナに説教をかます。
「さっきの男の言葉を聞いてなかったのか!? あの野郎、鳥に攫われながらもお前らに王都に行くように叫んでたじゃねえか! 自分は大丈夫だと、心配するなと最後まで叫んでいやがった……その男気がテメエらには伝わってねえのかよ!?」
「貴方は……」
「信じた男が大丈夫だと言ったのなら、胸を張ってドンと構えていやがれ! 自分達が惚れた男を信じることもできねえのかよ!」
「ッ……!」
頭領の言葉がウルザとレヴィエナの胸に突き刺さる。それは2人にとってもっとも必要な言葉だった。
「目が覚めましたの……ご主人様だったら、鳥に攫われたくらいなんてことないですの」
「はい……取り乱してしまって情けないです。従者である私がゼノン坊ちゃまのことを信じられないだなんて、メイドとして失格ですね……」
「フンッ、わかればいいんだよ! わかればな!」
砂族の頭領が鼻を鳴らしてふんぞり返る。
頭領は目から鱗が落ちた様子の2人に背を向けて、指2本を立てて「ピッ!」とニヒルに振るった。
「それじゃあ……俺様はもう行くが、お前らも気をつけて王都に行くんだぞ。あの男によろしく伝えてくれ」
そう言い置いて、砂族の頭領が去っていく。
砂塵を浴びながら立ち去る背中からは哀愁のようなものが漂っており、ハードボイルドな男の生き様を感じさせるものである。
ウルザとレヴィエナは離れていく頭領を見送っていたが……「ハッ!」と気がついて両目を見開いた。
「……って、逃げるんじゃねえですの!」
「グオオオオオオオオッ!?」
ウルザが頭領に飛び蹴りをかます。
背中に衝撃を受けた頭領が砂にザリザリと顔面をこすりつける。
「そもそも、お前らが襲ってこなかったらこんなことになっていませんの! 犯罪者の砂族が何をカッコいいこと言ってやったみたいな顔してるんですの!?」
「そうですよ! 私達を襲ったこともそうですけど……貴方があの怪鳥を挑発しなければ戦闘は避けられていました! ゼノン坊ちゃまが攫われてしまったのは貴方が原因じゃないですか!?」
「ちょっ、やめ……い、命だけはあああああああああああああっ!?」
ウルザに続いて、レヴィエナも砂族の頭領に襲いかかる。
2人の女性からのリンチを受け……頭領の野太い叫び声が砂漠にこだましたのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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