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71.王墓からの脱出

「新人技術者さん」様よりレビューをいただきました!

温かな応援に心より感謝を申し上げます!


「もちろんだよ。さあ、受け取ってくれ」


「む……」


 サロモンが手をあげると、俺の眼前に3つのアイテムが飛んできた。

 1つはまだ宝箱から回収していなかった50階層のクリア報酬。十字架によく似た形状だが上の部分が楕円形になっているそれは『オシリスの王笏』。

 あらゆる魔法効果や状態異常を解除する効果があるアイテム。このダンジョンに潜ることになったそもそもの目的である宝具だった。


「そして……『ゾディアックの小さな鍵』、『ホルスの羽』か」


 60階層のクリア報酬である『ゾディアックの小さな鍵』。「鍵」という名称に反して四角形の印鑑のような形をしたアイテムだ。

 70階層のクリア報酬である『ホルスの羽』。30センチ以上もある大きな羽で白を基調として青と赤のラインが所々に入っている。


「そのアイテムがあればリューナを助けられるのね? どんな効果があるのかしら?」


「それは……道すがら説明させてもらおう。今は時間が惜しいから、とりあえずこのダンジョンから出ようか」


 俺はアイテムを覗き込んでくるシャクナに応えて、3つの秘宝をアイテム袋にしまう。

 これで首の皮がつながった。絶望的な勝率が50:50まで引き上げられ、リューナを救い出す希望の目が見えてきたようだ。


「サロモン、俺達はここで失礼する。悪いんだが……その男の亡骸を保存しておいてもらえるか? 後で取りに来るから」


 俺は転がっているハディスの死体を指差して言う。

 死体を運ぶほどの余裕はないが、ここまで一緒にダンジョンを探索してきた仲間の亡骸を放置するのも気が引ける。


「ああ、いいよ。気をつけて行っておいで」


 サロモンが気安い仕草で手を振ってくる。

 まるでコンビニに買い出しにいく友人を見送るような軽い態度だが……とりあえず、こちらの願いを了承してくれた。

 俺はシャクナを連れてボス部屋から出ていく。手前の部屋に戻ると、ダンジョンの入口に戻るための魔方陣が現れていた。


「今さらではあるけれど……君がこの国に来てくれて良かったよ。君ならルージャナーガを倒して、邪神の復活を阻止することができるだろう」


 魔法陣に足を踏み入れると……同時に、背中にサロモンの声が投げかけられた。


「君からは神の気配を感じる。封印された邪神じゃない。外からこの世界にやってきて古神を封じ込めた新神の気配が」


「…………」


「どういうわけか神に目を付けられている君の未来は平穏と遠いだろうけど……まあ、頑張りなよ。応援くらいはしてあげるから」


「おい……」


 聞き返そうとするが、それよりも先に目の前の景色が変わる。

 転移の魔方陣によってダンジョンの入口まで放り出されたのだ。


「最後に気になることだけ言い残しやがって……人をおちょくってんのか?」


 俺は呆れたようにつぶやきながら、EXダンジョン――『サロモンの王墓』を後にする。

 数日ぶりにダンジョンから出ると外は日が暮れて夜になっていた。

 目の前には闇に閉ざされた砂漠の光景。そして……数人の人間の死体が転がっている。


「あれは……!」


「……神官騎士の死体だな。あの悪魔……ヴェイルーンに挑んで殺されたようだ」


 それは一緒に砂漠を旅してきた神官騎士の死体である。

 ハディスの部下であった彼らの骸は武器を握りしめており、何者かと戦って命を落としたことがわかった。


「みんな……ごめんなさい。私達が巻き込んだせいで……!」


 シャクナが彼らのすぐそばで膝をつき、そっと涙を流した。

 彼らは生贄にされようとしているリューナを救い出すために旅に同行して、ここで追手として放たれたヴェイルーンの足止めをして死んだ。

 ある意味では、シャクナとリューナのために死んだと考えられなくもない。


「……助かったぜ。よくやってくれたな」


 だが……責任の所在などどうでも良い事だ。マーフェルン姉妹を責めることなど、ここにいる者達も望んではいないだろう。

 彼らは守るべきものを守るために戦って死んだ。そんな男達の亡骸に野暮な言葉を向けたりはしない。

 彼らが稼いだ時間はわずかなものだろうが……それがなければ、50階層に到達する前にヴェイルーンに追いつかれていたかもしれないのだから。


「ん……?」


 心の中で彼らの冥福を祈っていると……遺跡の入口からヒタヒタと足音を鳴らして何かが出てきた。

 現れたのは獣の頭部を持った悪魔。サロモン配下の悪魔である。

 獣頭の悪魔達が倒れている兵士の骸を担ぎ上げ、ダンジョンの中へと運び込んでいく。

 おそらく、ハディスの死体と一緒に預かってくれるということだろう。


「立てよ……シャクナ。座り込んでいる暇はないぜ」


「…………」


 兵士らの死体が片付けられたのを確認して、座り込んでいるシャクナに声をかける。


「奴らの死を無駄にするな。リューナを助けることが戦って斃れた連中に報いることだ。違うかよ?」


「……わかっているわ。言われるまでもないでしょう」


 シャクナが涙を拭いて立ち上がる。

 「キッ!」と刺すような目でこちらを睨み、胸を張って口を開く。


「リューナを助けに行くわよ! 目指すは『蛇神の祭壇』……遅れるんじゃないわよ!」


 涙をにじませた瞳で言い放ち、シャクナが砂漠に向けて一歩足を踏み出した。

 仲間の死を乗り越え、悲しみを胸に前に進もうとする。

 その力強くたくましい姿からはシャクナが伝説の勇者の子孫であることが伝わってくる。


「シャドウバインド」


「ふぎゃっ!?」


 しかし……俺はそんなシャクナの脚を強制的に停止させる。

 影のムチで足をからめとられたシャクナがズシャリと頭から砂に突っ込んだ。


「いや……どこに行くつもりだよ。こんな夜に砂漠を進めるわけがねえだろうが」


 RPGのお約束。夜は現れるモンスターが強化されるのだ。

 このまま2人で夜の砂漠を進んでいったとしても、余計な体力を消耗させてリューナを助け出すどころじゃなくなってしまうに決まってる。


「く、口で言いなさいよね!? 砂を飲んじゃったじゃないっ!」


 顔を砂まみれにさせたシャクナが怒鳴ってくる。


「ここからリューナがいる祭壇まで6時間はかかるってサロモン王が言ってたじゃない!朝になってから出発したら、間に合わないかもしれないでしょ!?」


「お? 一応はちゃんと考えてたんだな。感心なことじゃねえか」


 仮に朝5時に夜が明けたとして、儀式が行われるのは正午。祭壇まで6時間かかるとなれば時間に余裕はない。シャクナの言い分にも一理ある。


「だが……間違っているぞ? 俺がどうして、このアイテムを手に入れたと思ってやがる」


「それって……」


 取り出したのはサロモンからもらったクリア報酬――『ホルスの羽』である。

 このアイテムがあれば形勢逆転。時間の問題だってクリアできるはず。


「制限時間はあと18時間。それまでにルージャナーガに目にものを見せてやる。あのクソヘビ爺に誰の女を攫ったのか教えてやるよ!」


「うっわ……また悪い笑い方してる……」


 牙を剥き、目を吊り上げて笑う俺。

 シャクナは怯えたように身体をのけぞらせ、味方であるはずの俺に思いっきり引いていたのである。


同作者の書籍化作品『レイドール聖剣戦記』の2巻が発売いたしました!


書籍版では原作にはなかったエピソードを多数追加しています。

レイドールとヒロイン三人娘(ネイミリア、セイリア、メルティナ)のちょっとエッチな朝の風景。

主人公不在の王都でのセイリアの冒険者生活と女子会について。

苦労性の少年――スヴェンとヤンデレお姉ちゃんとのイチャイチャ入浴シーンなどなど。


Web版を読んだ方でも改めて楽しめる内容になっておりますので、どうぞよろしくお願いします!


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コミカライズも連載中!
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― 新着の感想 ―
[一言] 彼らが稼いだ時間がなければ、50階層に到達する前にヴェイルーンに追いつかれていたかもしれないですけど、ダンジョン挑戦の前に追い付かれたら主人公さんも参戦出来た筈だからリューナさんがあっさり攫…
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