61.最後の扉
「さて……気を取り直してボス部屋だ。いい加減にというか、流石にここからは遊んでいる場合じゃないぞ」
途中で思わぬ方向に脱線しかけたものの……俺達は無事にボス部屋に到着した。
目の前には金属製の禍々しいデザインの扉。50階層の守護者が待ち構えるボス部屋の扉である。
「ここまで長かったな……本当に長かったよ、マジで」
自分で言うのもなんだが、戦っていた時間よりも遊んでいた時間の方が長い気がする。
いくらエロゲの世界観であるとはいえ、こんなダンジョンを舐めた態度で攻略してしまって良かったのだろうか?
「ここが50階層……ようやくたどり着いたのね」
シャクナが緊張した様子で固唾を飲む。
地上より旅をして、はるばる到着しました50階層。
俺達の旅も終わりが近づいてきた。ここに目的の『オシリスの王錫』がある。
「ふむ……」
これまでの旅の道中での出来事を思うと感慨深いものがあった。
まるで走馬灯のように、この砂漠に足を踏み入れてからの出来事がよみがえってくる。
砂賊に襲われ、巨大な怪鳥に攫われて。
どうにか脱出してオアシスに飛び降りたかと思ったら、裸の王女姉妹の水浴びに出くわして。
シャクナとの決闘に勝利して、なし崩し的にリューナを娶るような流れになり。
ダンジョンに入ってからは悪魔との戦いの連続。
シャクナがエロいトラップに引っかかってネチョネチョになり。
リューナに妙に懐かれ、ベッドの中にまで忍び込まれて。
マーフェルン姉妹との距離がどんどん近づいていき、外堀どころか内堀まで埋められかけて……。
「……ろくな思い出がねえな。ほとんど巫山戯てんじゃねえか」
俺はガックリと肩を落とした。
思い出されるのは姉妹の褐色肌ばかり。
文章にしたら十万文字を越えるような壮大な冒険をしていた気がするのに、瞳を閉じて瞼の裏に映る光景がエロいものばかりとはどういうことか。
「色々なことがありましたね……バスカヴィル様に押し倒されて操を奪われた夜、一生忘れられませんわ」
「記憶を捏造するな! そんなことした覚えはねえよ!」
夢見るような良い笑顔で言ってのけるリューナに脊髄反射でツッコミを入れる。
盲目の巫女とかわりとミステリアスなポジションのような気がするのだが……この旅の中ですっかりエロ娘になってしまった。
どこぞの聖女を彷彿とさせるキャラ変状態なのだが……この世界では、聖女や巫女は欲求不満で性欲を持て余さなくてはいけないルールでもあるのだろうか?
「失礼しました。妄想……じゃなくて予知夢と間違えました」
「今、妄想って言ったよな? いよいよ予知ですらなくなってるよな?」
「どちらでもいいではありませんか。私達が結婚するのは確定事項なのですから」
「確定してねえよ! これみよがしに指輪を見せつけるな!」
人差し指に嵌めたエンゲージリング……ではなく、クリア報酬の指輪をこれでもかとチラつかせてくる。
そんなに嬉しかったのだろうか。喜んでいるところを無粋なのだが……アレは別に俺がプレゼントしたものではなく、全員で勝ち取った報酬アイテムのはずなのだが。
「もういいわよ……好きなだけイチャイチャしなさいよ」
そんなリューナを尻目に、シャクナが腕を組んで唇を尖らせていた。
「おい……お前まであきらめるな。自分の妹だろうが。責任を取ってどうにかしろ」
「責任を取るのは貴方でしょう? 悔しいけど、この旅の中で貴方の強さはわかったわ。認めてあげるから、責任取って私達の夫になりなさい」
「…………」
聞き違いだろうか。
シャクナは今、『私達』ととんでもなく不吉なことを口にした気がするのだが。
「いや……気のせいだ。俺の鼓膜が腐っていただけだ。考えるな、感じろ……」
「…………」
俺はシャクナの問題発言を聞かなかったことにするべく言い聞かせる俺に、同乗したようにハディスが肩を叩いてくる。
振り返ると、まるで娘を嫁に送り出す父親のような顔をした老兵の顔があった。
「……王女殿下を任せた。貴殿ならば信頼できる」
「……最後の最後で友情みたいなのに目覚めるのはやめてくれないか? 死亡フラグが立つぞ?」
俺は気を取り直して、自分の頬を思いきり左右から叩いた。
「よし、お遊びはここまで。ここからはガチの戦闘フェーズだ。このダンジョンで最後のボス戦……絶対に勝って地上に帰るぞ!」
「ええ! もちろんよ!」
「はい、負けません!」
「……ウム」
色々なことがあったが……ようやく、俺達は一丸になることができた気がする。
真の仲間になった俺達はリューナの補助魔法、シャクナのダンスによるバフをかけてもらってステータスを底上げして……最後のボス戦に挑むべくボス部屋の扉を開いたのであった。
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