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58.ダンジョン最後の夜


 休憩スペースのベッドで眠り、目を覚ました時には翌日になっていた。

 部屋の壁に掛けられている時計で時間を確認すると……ちょうど日が昇るかどうかという時間である。


「寝すぎたか……どうやら、想像していた以上に疲れていたらしい」


 ダンジョン生活も今日で4日目。

 モンスターとの戦いによる疲労もあるが、それ以上に組んだばかりの仲間と行動を共にしていることへの精神的疲労が大きかった。


 別に人見知りというわけではない。

 だが……十分に信頼関係ができておらず、実力も把握できていない相手と行動を共にすると、俺なりに気を遣う部分がある。

 彼らが……特にシャクナとリューナに万一のことがないよう、必要以上に精神をすり減らしている部分もあった。


「とはいえ……だいぶ余裕もできたし、何事もなければ今日中には目標の階層にたどり着けるな」


 即席のパーティーにも慣れてきた。連携も取れている。

 少なくとも……昨日のモンスターハウスほどピンチに陥ることはないだろう。

 50階層のボスモンスターは40階層の番人よりもさらに強い相手だが、それでも大きく苦戦することはないはず。


 もちろん、油断はしない。

 昨日のアクシデントからもわかるように、ダンジョン攻略に絶対はないのだ。

 常に予想外の事態が生じることを前提として、ラスト1日の攻略に励まなくてはならない。

 俺は改めて気合を入れ直し、身体を起こす。


「よし、他の連中は……」


 軽く両手を伸ばし、ストレッチをしながら周囲を窺うと……まだ他の面々は眠っているようである。

 リューナは隣のベッドで、その向こうのベッドではシャクナが寝息を立てていた。

 ハディスもまた壁際に座り込んでおり、愛用の大剣を抱きかかえるようにして眠っている。


 実直でいつも不寝番を買って出る神官騎士であったが……さすがに昨日はかなりの強行軍だったし、疲労に耐え切れずに眠ってしまったのだろう。


「見張りをしてそのまま眠っちまったか……悪い事をしたな」


 ベッドから立ち上がり、女性二人を起こさないようにハディスに近づく。


「おい、起きろよ」


「む……ぐ……貴殿は……!?」


 軽く肩をゆすると、ハディスはすぐに目を覚ました。「ハッ」と両目を見開き、慌てたように剣の柄を掴む。


「敵じゃないから落ち着けよ。変に騒いだら、王女殿下が起きちまうぞ?」


「ム……すまない。寝ぼけていたようだ」


 どうやら、状況を思い出したようだ。ハディスは肩を落として剣の柄から手を放した。


「そんな姿勢じゃ、疲れも取れないだろ。まだ時間はあるから横になっておけよ」


「……そうですな。少し寝台をお借りするとしましょう」


 親指でベッドを指さすと、少しだけ考えてハディスは頷く。

 昨日はベッドを勧めても頑なに横になることのなかったハディスであったが、今日はあっさりと了承された。

 どうやら、ハディスもまたともに修羅場を乗り越えたことで信頼を深めてくれたようである。

 俺が3人との連携を強く感じるようになったように、こちらもまた心を開きつつあるようだ。


「ハハッ……ジジイの好感度を上げても嬉しくはないがな」


 ベッドに横になったハディスを見つつ、俺は肩を揺らしてクツクツと喉を鳴らす。


「さて……今日はこのパーティーで攻略する最後の1日。せっかくだし、朝食は俺が用意してやるか」


 意外に思うだろうが、俺はこう見えても料理が苦手ではなかった。

 このゲームでは食材アイテムを消費して料理を作り出すことができる。作った料理を食べることにより、戦闘中に役に立つ回復やバフ効果を得ることができるのだ。


「ちょうど材料もあるし……無難にカレーだな」


 カレーで失敗することなどありえない。

 朝からカレーかよと思わなくもないのだが……マーフェルン王国はアラビアに近い文化圏の国であり、濃い味の料理を好む傾向があった。

 朝からカレーを作ったとしても、そこまで嫌がられることはないだろう。


「よし、そうと決まれば取り掛かるか」


 俺はアイテム袋から材料を取り出しつつ、休憩スペースの隅にあるキッチンに向かうのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! >「そんな姿勢じゃ、疲れも取れないだろ。まだ時間はあるから横になっておけよ」 >「……そうですな。少し寝台をお借りするとしましょう」 年寄りへの気遣いもできる辺り、…
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