表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/266

57.同衾


 ボス部屋でクリア報酬を回収して、奥にある休憩スペースへの扉を開く。

 安全地帯であるこの部屋の構造はこれまでと同じ。ベッドがあり、テーブルがあり、簡単なキッチンがあって食事も摂れるようになっている。

 空腹を覚える気持ちはあったものの……それ以上に激しい疲労感があって、現実逃避するような心境でベッドに向かう。


「クソッ……寝る! 俺はもう寝るぞ!」


 休憩スペースにたどり着くや、俺は不貞腐れたようにベッドに横になる。


 図らずもリューナに結婚指輪を送ることになってしまった。

 もちろん、それが知らずにしてしまったことだとは伝えたし、リューナもそのことは了承している。

 だが……リューナはニコニコと不気味なほどに上機嫌になっており、右手の人差し指に嵌めた指輪を眺めているのだ。

 シャクナもハディスも微妙な目をこちらに向けてきており、いたたまれなさから逃げ出すようにベッドに飛び込む。


「明日はいよいよ、50階層までの攻略だ。お前らも適当に休んでおけよ!」


「あ、お食事はどうされますか? すぐに用意しますけど……」


「飯は起きてからでいい。今はとにかく寝かせろ」


 まるで新妻のような顔で尋ねてくるリューナに背中を向け、俺は掛布団を頭まで被った。

 そのまま眠ろうとするのだが……なおもリューナが布団越しに話しかけてくる。


「はい……おやすみなさいませ。それでは、私も休ませていただきます。魔力を使い果たしてしまい、もう動けそうにありませんので」


 リューナも治癒魔法やら結界魔法やらで、魔力を使い果たしている。モンスターハウスとフロアボスとの連戦で疲労しているのだろう。


「ああ、寝ろ寝ろ。さっさと休め」


「はい。それでは失礼いたします」


 リューナが楚々とした動きでベッドに寄ってきて、掛布団をまくって中に潜り込んでくる。

 背中に当たる柔らかな感触。肌に香油でも塗っているのだろうか……ジャスミンのような匂いが香ってきた。

 包み込むようなぬくもりが安心感と共に伝わってきて、眠りの世界への誘惑を強めてくる。


「……………………って、何で俺のベッドで寝てんだよ!?」


 寝ぼけながらも異変に気がつき、俺は掛布団を跳ね飛ばす。

 当然のようにリューナが俺のベッドに潜り込んできており、俺の背中に身体を押しつけていた。

 腰は細いくせに、背中に押しつけられた膨らみは意外とボリュームがあって驚かされる。


「あ、申し訳ありません。目が見えないもので気がつきませんでした」


「嘘をつけ! しっかりと抱き着いてきたじゃねえか!」


「夢と現実をごっちゃにしてしまいました。夢の中だったら、バスカヴィル様の方からベッドに引きずり込み、私が泣こうが叫ぼうが構うことなく貪りついてくるのですが」


「知るか! 来てもいない未来の性犯罪を押し付けるな!」


「やんっ! もう……バスカヴィル様は本当に強引ですね。そういうところは夢と変わりません」


 ベッドから追い出すと、リューナは残念そうに眉尻を下げながら隣のベッドに入っていく。

 そのまま横になりながら……ニコニコと上機嫌に俺の方を見つめてくる。


「……言ったよな? その指輪に求婚の意味はない。この国の習慣を知らなかっただけだ」


「はい、聞いておりますし、わかっております。それが何か?」


「…………」


 元々、初対面から妙に距離が近かったのだが、指輪を送ってからさらにコミュニケーション過多になっているような気がする。

 明らかに指輪に特別な意味を見出している気がするのだが……。


「うう……リューナが自分から男のベッドに……!」


 ちなみに……ベッドから少し離れた場所では、シャクナが両手両膝を床について限りなく土下座に近い格好になっていた。

 妹が男のベッドに忍び込むという夜這いじみた行為をしているを目の当たりにして、想像以上にダメージを受けている。


「……エンゲージリングまで贈られて、もう取り返しがつかないのかしら? このまま一方的に妹を奪われるくらいなら、いっそのこと私が先にあの男を襲って、イニシアティブを握って……」


「……テメエも恐ろしいことを企むなよ。キャラが崩壊してるぞ」


 小さくツッコミながら、俺は「もう知るか」とばかりに瞳を閉ざした。


 壁際ではハディスが我関せずとばかりに立っている。

 他人の振りができる神官騎士のことを心から羨ましく思いながら、俺はそのまま眠りにつくのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズも連載中!
i000000


☆書籍第1巻発売中!☆
↓画像をクリックしてみてください↓
i000000
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! [気になる点] >図らずもリューナに結婚指輪を送ることになってしまった。 >もちろん、それが知らずにしてしまったことだとは伝えたし、リューナもそのことは了承している。 …
[良い点] そうか、先に襲ってイニシアティブを握るって方法もありますか(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ