51.モンスターハウス
本編再開になります。
どうぞよろしくお願いします。
『サロモンの王墓』攻略は思いのほかに順調に進んでいた。
すでに目標の50階層の半分は踏破しており、脱落者もいない。大きな怪我をした者もおらず、まだ回復薬などのストックにも余裕があった。
もちろん、階を重ねるごとに敵の強さは増しているが……同時に、味方も成長している。
シャクナはフィールド全体を俯瞰して臨機応変に行動できるようになった。
元々、シャクナは前衛も後衛もサポートもこなすことができる万能職だ。戦い慣れたことで状況に合わせて行動できるようになっており、俺が細かく指示をせずとも的確に動いてくれるようになっている。
ハディスは最初から経験豊富なガーダーだったが、俺やシャクナとの連携に慣れたことで攻撃役としても活躍してくれていた。
基本的には後衛の仲間を守っているのだが……時には前に出て攻撃し、時には敵を挑発して囮役もこなしており、頼もしさに磨きがかかっている。
リューナは戦闘に慣れていないため、どうしても動きがぎこちなかったが、徐々に荒事にも慣れてきた様子。
戦いの恐怖を克服したことで戦況をキチンと見定められるようになっており、回復と支援をバランスよくこなすことができるようになった。
このパーティーならば50階層攻略も難しくはない。
俺はこれまでの旅路の中で、そんなふうに確信するようになっていた。
だが……忘れてはならない。
どれほど準備を重ねても、どれほど信頼しあう仲間とパーティーを組んでいても……100パーセント安全が保障された冒険など存在しない。
俺はそのことを改めて痛感することになる。
『モンスターハウス』という厄介極まりない形によって。
〇 〇 〇
「おいおい……マジか!?」
その異変が起こったのは俺達が39階層に足を踏み入れた時である。
下の階層に降り立った瞬間、たった今、下りてきたばかりの階段が消滅した。
代わりに目の前に現れたのは俺の記憶にはない光景。本来、そこにあるべきマップとはまるで異なる広大な部屋だった。
「モンスターハウスだと!? ここにきて何てものが出てきやがる!」
信じられないとばかりに叫んでしまう。
『ダンブレ』において『モンスターハウス』はそれほどまでに珍しく、滅多に出会えるものではないからだ。
モンスターハウス。
某・ダンジョン攻略ゲームではお馴染みのそれは部屋いっぱいにモンスターに満たされており、運悪く遭遇すれば全滅必至の危険地帯である。
ただし……『ダンブレ』というゲームにおいて、モンスターハウスは一種の都市伝説のような存在であった。
モンスターハウスが出現する確率は『デンジャラスエンカウント』よりも低く、1度も遭遇することなくゲームをクリアしたプレイヤーも多い。
10回以上も周回プレイをした俺でさえモンスターハウスに遭遇したのは1度きりしかないのだから、その稀少さがわかるだろう。
一部のプレイヤーの間では、モンスターハウスはゲームの仕様ではなくバグの一種ではないかと言われてるくらいだ。
「それがまさかここで出てくるとは……運が良いのか、悪いのか」
「悪いに決まってるでしょ!? どうするのよ、コレは!」
半分感動したような独り言に、シャクナが泡を喰ったように叫んだ。
目の前には広々とした部屋。この階層の全ての壁をぶち抜いて1つにした広大なマップが広がっている。
そして、そこには無数のモンスターが立ちふさがっているのだ。
まさに絶体絶命。初見でこんな状況においやられて動揺しないわけがなかった。
「まあ……気持ちはわかるけどよ。とりあえず、落ち着け。ここで慌てても死ぬだけだぞ?」
「落ち着けって……アンタはどうしてそんなに冷静なのよ!? 何か秘策でもあるわけ!?」
「秘策なんてない。モンスターハウスに必勝法など存在しない」
モンスターハウスに必勝法はない。
何故なら、遭遇する確率があまりにも小さすぎて攻略法を練るほどのデータがないのである。
ネットでは「モンスターハウスに遭遇して全滅できてラッキー♪ 何か良いことあるかも♪」などとスレが立っており、そもそも対策をとる必要性がなかった。
「とはいえ……必勝法はなくとも対処法がないわけではない。リューナ、結界を張ってくれ! とびきり強力なやつだ!」
「でも……バスカヴィル様。強力な結界は時間がかかってしまいますけど……」
「構わない。詠唱が終わるまでの時間は俺達が稼ぐ!」
「わかりました……!」
指示を受けたリューナが魔法の詠唱を始める。
敵の接近を防ぐ結界を展開しようとするが……それよりも先にモンスターが襲いかかってきた。
「ガアアアアアアアアアアアアッ!」
「フッ!」
飛びかかってきた狼頭の悪魔を剣で斬り伏せる。
部屋中にいるモンスターがこちらに気がついて集まってくるが、シャクナとハディスと協力して撃退していく。
「リューナが結界を張るまで保たせるぞ! シャクナは本職の戦士じゃないから、あまり無理をするなよ!?」
「可愛い妹のために無理しないでどうするのよ! 決死の舞踏――『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』!」
シャクナがシャムシールを振るい、華麗な舞を踊りながら魔物と戦う。
発動させたのはシャクナにとって切り札ともいえる隠し玉のダンスである。その激しすぎるベリーダンスは体力を消耗することと引き換えにして、攻撃力と速度を大きく上昇させる効力があった。
「撃ち抜きなさい……サンダーボルト!」
『ガアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
ダンスによる物理攻撃をしながら、併用して魔法攻撃まで発動させている。
ここは39階層。次の階層にはボスモンスターが待ち構えているのだが……シャクナもここが命の賭けどころであることに気がついているらしい。
全身全霊で、後先考えずに体力と魔力を削って戦っていた。
「ムウンッ! 巫女殿には指一本触れさせん!」
もちろん、命を燃やすようにして戦っているのは神官騎士のハディスも同様である。己の肉体を盾にして、多くのモンスターの攻撃を受け止めていく。
挑発スキルによって敵を集め、リューナを守ると同時にシャクナに向かう敵の注意まで引いていた。
「出来ました……! 結界、展開します!」
2人の健闘もあって、リューナが被弾することなく詠唱を終えることに成功した。白い半球状のドームが俺達の身体を包み込んでモンスターの接近を阻害する。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
『グギャッ! グギャッ!』
モンスターが悔しそうに鳴きながら結界を攻撃する。
十分な詠唱によって生み出されたバリアーは壊れる様子はなく、しばらくは保ちそうである。
「ハア、ハア……どうにか耐えられたわね」
「これでとりあえず小休止だ。怪我の治療をして、それが終わったら反撃だな」
俺はやれやれとばかりに肩を回し、アイテム袋からポーションを取り出してシャクナに投げ渡すのだった。
短編小説を投稿いたしました。
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