47.蝙蝠の騎士
30階層にはすぐに到達した。
ボス部屋の中央に現れたのは、黒毛の馬に跨った鎧の騎士。ただし、首から上は人間ではなく蝙蝠のそれである。
「来るぞ、跳べ!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
俺の合図と同時に、仲間が左右に散開した。
直後、蝙蝠頭の騎士が口から大きく口を開き、先ほどまで俺達がいた場所を『音』の衝撃波が通り過ぎる。
30階層の守護者。蝙蝠の騎士――ボエナック。
口から発生する超音波と衝撃波。さらに手に持った槍による物理攻撃を得意とした遠・中・近のバランスの取れたボスモンスターである。
「ハディス、前に出るぞ! シャクナは下がって援護を任せた!」
「承知!」
「わかってるわよ!」
俺の合図を受けて、シャクナが下がり、ハディスが敵との距離を詰める。
ハディスがいつものように壁役を務め、俺が近接アタッカー。中距離に下がったシャクナが雷魔法を放って敵を牽制。さらにそこから少し下がった場所でリューナが待機し、必要に応じて補助・回復をする。
事前に話し合って決めておいたフォーメーションである。
『ガアッ!』
「む……重い!」
大剣の攻撃を大盾で受けたハディスが顔を顰める。
さすがに30階層ともなるとボスモンスターの能力も高くなっていた。ただの物理攻撃でも、まともに喰らってしまえばそれなりのダメージになるだろう。
「気合を入れて受けろよ。お前がやられたら後ろの2人が殺られるぞ!」
「御意、全身全霊を持って受け止めよう。姫殿下らには通さぬ!」
『ガアッ! ガアッ!』
ハディスが防御に専念して、ひたすらボエナックの物理攻撃を受けていく。
ボエナックの攻撃力は高いが、大盾装備が防御態勢を取れば十分に防ぐことができるだろう。
俺はその隙に、側方に回り込んで魔法剣で攻撃をする。
「グラビド・スラッシュ!」
黒い魔力を纏った剣が馬に乗った蝙蝠を斬りつけた。物理ダメージと同時に、スピード10%低下のデバフを与える闇魔法である。
ボエナックの動きがわずかに鈍くなり、蝙蝠の頭部が忌々しげに俺の方を向く。
『ギャアッ!』
「おっと!」
口から放たれる『音』の衝撃波を横に跳んで躱す。返す刀でもう一度『グラビド・スラッシュ』を打ち込んで、さらに速度を下げておく。
「貫きなさい、サンダーボルト!」
さらにシャクナが放った雷魔法がボエナックの胴体に着弾した。
一方的に攻撃を叩き込まれて、蝙蝠頭の悪魔が苛立たしげに上下の牙を打ち鳴らす。
『キイイイイイイイイイイイイイイイイッ!』
「ッ……!」
蝙蝠頭が頭上を見上げ、高々と咆哮を放った。脳を汚染するような不快感のある音波が俺達の身体を貫いていく。
ボエナックが使う全方位範囲攻撃――『悪夢の嘆き』である。
範囲内にいる人間は回避不可。絶対命中。音波に込められた呪いにより、『混乱』の状態異常を発症してしまう技だった。
「ぐ……があああああああああああああっ!?」
近距離から蝙蝠の咆哮を聞いてしまったハディスが『混乱』の叫びを放つ。どうやら、状態異常に冒されてしまったらしい。
「グラビド・スラッシュ!」
『ギャンッ!?』
しかし、同じく『悪夢の嘆き』を喰らった俺はというと、むしろ隙アリだとばかりに魔法剣を叩き込む。
【異常無効】のスキルを修得しているため、状態異常攻撃は俺には効かない。技を発動したことでフリーズしたボエナックにガンガン攻撃を叩き込む。
「ぐうううううううううううううっ!?」
俺と違って混乱してしまったハディスはブンブンと剣を振り回しているが、リューナが治癒魔法を発動させた。
「ホーリーキュア!」
「ぐうっ!? た、助かりました。感謝いたします!」
「大丈夫です! 何があってもすぐに治しますから、安心して戦ってください!」
リューナには事前に、ハディスが状態異常に冒されたらすぐに治療するように伝えてあった。
シャクナは『悪夢の嘆き』の効果範囲外にいるため、問題はない。
「初見であれば厄介な攻撃だが……来るとわかっていれば大した技じゃないよな! むしろ、使ってくれた方が動きが止まってくれて助かるぜ」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
「フンッ! 喰らうかよ!」
まるで俺の嘲笑に腹を立てたかのように強力な衝撃波を放ってくるが、そんな感情に任せた攻撃を受けてやる義理はない。
どんどん斬撃と魔法を浴びせかけ、ボエナックの体力を削っていく。
「グルルルルル……ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
しかし、ある程度のところまでボエナックの体力を削ったところで異変が生じた。
それまで馬に跨っていたボエナックが、突如として翼を広げて高い天井地下まで飛びあがったのである。乗っていた黒毛の馬が空気に溶けるようにして消滅した。
これがボエナックの第2形態。
一定以上のダメージを受けると宙を飛ぶようになり、高速スピードで移動。さらに頭上から攻撃を浴びせかけてくるのだ。
「ここからが本番。しかし……」
「遅いわよ、サンダーボルト!」
「その通りだ。呆れるほどにノロマだよ――シャドウスラッシュ!」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
シャクナと俺が、頭上を飛んでいるボエナックに魔法攻撃を放っていく。
翼を広げて本領を発揮した悪魔であったが……その動きは緩慢。魔法をぶつける的にしかなっていなかった。
それというのも、第2形態になったボエナックであったが、それまでの状態異常やステータス低下は引き継いでしまうのだ。
俺はこれまで何度となくスピード低下効果のある魔法剣を叩き込んでおり、ボエナックの速度を下げている。
今の状態で宙に飛び立ったとしても、速度は半減。持ち前のスピードを生かすことなど出来ていない。
「『敵を知り、己を知らば百戦危うからず』――いかに情報というのが戦闘を左右するのかわかるよな。ノロマが御大層に空を飛んだとしても、下から撃ち落とす格好の的にしかならない。そういうわけで……死んでいいぞ?」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』
俺とシャクナが何度となく魔法を打ち込み、やがて蝙蝠頭の悪魔が床に落下してきた。
墜落と同時に消滅したボエナックの顔には、蝙蝠の顔にもはっきりとわかる理不尽を嘆く表情が刻まれていたのである。
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