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46.信賞必罰


 20階層にある休憩部屋で小休止を取ってから、俺達はそのまま21階層へと進むことにした。

 予想以上に攻略スピードが速い。今日はまだ体力にも魔力にも余裕があり、このまま30階層まで進むことができるだろう。


「いいわね、トラップがあったらちゃんと教えるのよ! 特にエッチな罠を見逃したら刺すからね!」


「わかった、わかった……まったく、神経質なお姫様だ」


 よほどエロトラップが堪えたのだろうか? 繰り返し訴えてくるシャクナに辟易しながら手を振り、俺はパーティーを先導していく。


 20階層を過ぎたことで攻略難度が上昇したが……まだまだ、メンバーには余裕があった。

 シャクナもハディスも危なげなくモンスターを倒すことができているし、リューナも慌てることなくサポートができている。

 むしろ、お互いの役割に慣れてきたのか連携が強化され、動きが洗練されているような気すらした。


「シャクナ殿下! トドメを!」


「わかっているわ――【剣の舞】!」


「グギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 壁役(タンク)であるハディスが敵の攻撃を抑えた隙に、シャクナが素早く武技を使って敵にトドメを刺した。

 連携された攻撃によって二本足のトカゲの姿をしたモンスターが倒され、消えていく。


 そんな戦闘が終わったタイミングを見計らい、思い出したように最後列にいたリューナが口を開く。


「そういえば……そろそろ、バスカヴィル様へのお礼を考えておかないといけませんね」


「あら、どうしたのよリューナ。急にそんなことを言い出して」


「いえ……バスカヴィル様は無関係な隣国の貴族であるにもかかわらず、私達に手を貸してくれています。その御礼について、ちゃんとしておかないといけないと思いまして」


 そう言えば……俺は傭兵として雇われていたが、ちゃんと報酬については決められていなかった。

 俺にとっても導師とやらの目的を打ち砕くことはメリットがあるし、特に気にしてはいなかったのだが。


「……こんな奴に報酬なんていらないでしょう? 私とリューナの裸を覗いたんだから。犯罪者として処刑されないだけマシじゃない」


「そういうわけにはいきませんわ、シャクナお姉様。もしもバスカヴィル様がいなければ、こんなにも短時間でこのダンジョンを攻略することだってできなかったはずです。けじめとして御礼はキチンといたしませんと」


「リューナは律儀な性格をしているんだな。どこぞのエセお姫様とは大違いだ」


 揶揄(からか)うように言ってやると、シャクナがキッと強い眼差しで睨んできた。

 俺は肩をすくめてクツクツと喉を鳴らして笑う。


「事実だろ? 手柄を立てた人間に正当な報酬を支払うのは、人の上に立つ者の義務じゃないか。『自分に尽くして当然』だなんて振る舞いをしていたら、すぐに誰もついてこなくなっちまうぜ?」


「……随分と知ったようなことを言うじゃない。私と年齢も変わらないくせに」


「年齢は変わらずとも、人生経験は違うさ。俺はバスカヴィル侯爵家の当主だぜ?」


 実際、俺はバスカヴィル家を継いだ時から信賞必罰だけはきっちりとするように心がけている。

 功績のある人間には十分な恩賞を与えて、罰するべき人間は厳格に裁く。これを怠ってしまうと、組織の規律が緩んで崩壊してしまうからだ。


 それは前世で学んだ歴史で嫌というほど知っていた。

 また、歴史なんて大それたものを持ち出さずとも、サラリーマンとして働いていた経験から社会秩序として学んでいる。

 営業成績の良い同僚が上司や会社から正当に評価されず、ライバル会社にヘッドハンティングされて痛手を被ったり。重役の親族だからとミスが見逃されていた社員のために職場全体の空気が悪くなり、営業成績が落ち込んだりという事もあった。


 上に立つ人間が信賞必罰を怠れば、それは組織崩壊の始まりなのである。


「……仕方がないわね。何が欲しいのかしら」


 シャクナが納得いかないという表情で、渋々と言ってくる。


「お金? それとも勲章? 他国の貴族に土地や爵位を与えると面倒になるから、それはあげられないけど……導師に操られたお父様を解放することができれば、大抵の願いは叶えてあげられると思うわ」


「ふむ、そうだな……」


 金や勲章は必要ない。あって困ることはないが間に合っている。

 いっそのことシャクナやリューナの身体でも要求してみたら愉快なリアクションが見れそうだが……まあ、冗談としては質が悪い。本気で刺されかねないことだし、それは自重することにしよう。


「それじゃあ……復活した魔王との戦いに協力してもらうというのはどうかな?」


「魔王って……そういえば、復活したそうね。我が国ではそれほど被害は出ていないけど、各地で魔物が強化されているって聞いたことがあるわ」


「その魔王討伐、もしくは魔王軍との戦いに、必要に応じて手を貸してもらいたい。それでチャラってことでどうだ?」


 魔王軍との戦いでは、大量の魔物が出現して国同士の戦争のように大規模な戦いが繰り広げられるシーンもあった。

 他国の軍隊を予備戦力として使えるとなると、そんな戦いも楽になることだろう。


 俺の提案にシャクナはしばし考え、深く頷いた。


「……いいわ。約束する。マーフェルン王国王女の名において、導師の野望を打ち砕くことができたら、スレイヤーズ王国に助力することを約束するわ。お父様の許可も貰ってみせるから」


「結構。報酬はこれで問題ないな」


 棚からぼたもち。

 意図していないところで、魔王軍との戦いを優位に進めることができるカードを入手することができた。


 俺がうんうんと予想外の成果に頷いていると、シャクナの背中からひょいっとリューナが顔を出す。


「もちろん、例の報酬だって差し上げますよ。こちらは手付のようなものですね」


「例のって……何か約束してたか?」


「さあ、どうでしょう……その時までには、私もちゃんと覚悟を決めておきますので。バスカヴィル様も準備をしておいてくださいね?」


「…………」


 悪戯っぽく言ってくるリューナに、俺はまたしても釈然としない気持ちにさせられる。


 ひょっとしたら……俺はこの盲目の巫女と相性が良くないのかもしれない。

 どうにも、会ってからずっと振り回されているような気分である。


「……それが不快でないのも問題だな。俺の周りは一筋縄ではいかない女ばかりいやがるぜ」


 俺は関係を持っている数人の女性の顔を思い浮かべ……深々と溜息を吐いたのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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