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44.巨虫の悪魔


 20階層の守護者として設置されていたのは巨大な虫型の怪物――マルマルトスという名前の悪魔である。

 黒光りしたボディに真っ赤なまだら模様。胴体は無数の節目によって分かれており、数え切れない節足がワサワサと蠢いている。

 見るものの生理的嫌悪を誘ってくるその悪魔は、いわゆる「ダンゴムシ」と呼ばれる虫に酷似していた。石とか持ち上げると下に潜んでいるやつだ。

 ただし、その身体は3メートル近い巨体であり、頭部に当たる部分には鬼のように恐ろしい顔面が張り付いてこちらを睨みつけている。


『キュチャチャチャチャチャチャッ!』


 巨大な虫が顎を打ち鳴らして不快な音を鳴らしてきた。戦闘開始の合図である。


 俺はすぐさま、3人の仲間に向けて指示を飛ばした。


「よし、それじゃあ……算段通りにいくぞ! くれぐれも油断するなよ!?」


「わかってるわよ! 偉そうに指図しないで!」


 シャクナが言い返してくる言葉を聞き流しながら、俺は事前に話し合っていた立ち位置へ移動した。ガーダーのハディスと入れ替わりにリューナの前に立ち、後衛である彼女をかばうようにして剣を構える。


 今回の戦いは10階層とは違って、俺も参加することになっていた。

 ここにくるまでの戦いぶりで3人の仲間の実力はおおよそ把握している。やや危なっかしいところはあるものの、俺がサポートすれば50階層くらいまでなら攻略することができるだろう。

 これ以上、腕試しは必要ない。さっさと倒して次の階層に進むまでである。


「出るわよ、ハディス!」


「承知しました」


 シャクナとハディスがそろって悪魔の正面に躍り出る。不気味な虫型の悪魔へと真っ向から立ち向かった。


「戦士の舞踏――『ソードダンス』!」


「畳み掛ける――『パワースラッシュ』!」


『キュチャチャチャチャチャチャッ!』


 シャクナとハディスが同時に攻撃を浴びせかけた。

 マルマルトスがわずかに怯みながらも反撃を繰り出してくる。節足の体をくねらせて噛み付いてきたり、尾についた長い毒針を伸ばしたりして攻撃してきた。


「ンッ……!」


「ムウンッ!」


 巨大な虫が放ってくる攻撃を、シャクナはダンスのステップで避け、ハディスは大盾で受け止める。

 2人には事前にこの悪魔の攻撃パターンを教えてあった。如何に鋭い攻撃であったとしても、来ることがわかっていれば避けるのは難しくはない。

 リューナもハディスも、攻撃前の予備動作を見て上手い具合に攻撃を捌き、一方的にダメージを与えていく。


「これなら問題なさそうね! 軽いもんじゃない!」


「油断するな! アレが来るぞ!」


 余裕綽々とばかりに敵を斬りつけているシャクナに警戒を呼びかける。

 この虫型の悪魔は体力値が半分を切るとモーションが変わり、決め技を繰り出してくるのだ。


『キチュウウウウウウウウウウウウッ!!』


 マルマルトスが節足虫の身体を丸め、勢い良く回転を始めた。高速回転しながら前衛2人を撥ね飛ばそうと転がってくる。


「殿下、お下がりを!」


「ッ……!」


 ハディスとシャクナがすんでのところで体当たりをかわす。もしも回避が間に合わずに直撃していたら、大ダメージを受けていたに違いない。


 この悪魔の決め技――『ブラッドホイール』は見ての通り、身体を丸めて回転しながら体当たりする攻撃である。

 回転中は敵からの攻撃を完全に無効。おまけにガード無効効果まで付与されるため、まともに喰らったら防御力の高い戦士職でも致命傷になりかねない。


「……事前に聞いておいて助かったわね。悔しいけど、あのスケベの女誑(おんなたら)しがいてくれて良かったわ」


「誰がスケベの女誑しだ! うっかり轢かれないようにちゃんと逃げろよ!」


「わかってるわよ……って、リューナ! 避けて避けて!」


 高速回転しながら旋回していた悪魔であったが、標的を変えて後方にいる俺とリューナのほうに向かってきた。

 まるで坂を転がり落ちる巨石のような悪魔の巨体が目の前に迫ってくる。


「バスカヴィル様!」


「ッ……!」


 リューナを抱えて回避しようとするが……間に合わない。

 悪魔の巨体が恐るべき速さで迫り、俺たちのことをまとめてひき潰そうとして……


『ピギャウンッ!?』


 俺達の身体をすり抜け、後方にあった壁に激突する。

 壁にぶつかったことで高速回転が解除され、元の形状に戻ったマルマルトスがフラフラと酔っ払いのように酩酊した動きになった。


「闇魔法――イリュージョンゴースト!」


 マルマルトスから少し離れた場所で、俺はリューナの肩を抱いて人差し指を立てた。


 最初からこうなることは計算していた。

 決め技を発動させたマルマルトスが後衛のリューナを攻撃してくることを見越して、わざと幻影の罠を張って待ち構えていたのである。

 回転しながらの突進攻撃――恐るべき威力の技だったが、何故か壁にぶつかると先ほどのように停止してダウン状態になってしまうのだ。これもゲームの仕様と同じで助かった。


「今だ! 畳み掛けるぞ!」


「いちいち言われなくても、わかってるわよ! 反撃の隙は与えない。このまま一気に潰すわ!」


「お姉様、援護します!」


 ダウン状態になったマルマルトスに全員で総攻撃を仕掛ける。

 シャクナが補助魔法によって俺達の攻撃力を上げて、リューナとハディスも一気に攻勢に出た。


『ギヂュウウウウウウウウウウウッ!?』


 巨大な虫の形状をした悪魔が床に倒れ臥したのは、それから1分後のことである。



新しく長編作品を投稿いたしましたので、こちらもどうぞよろしくお願いします!


【連載版】異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! [気になる点] >幻影の罠 このダンゴ虫野郎には幻影が効くのか。 普通のダンゴ虫なら効きそうに無いが、まあ、モンスターだし……。 [一言] 続きも楽しみにしています。…
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