19.死喰い鳥
スレイヤーズ王国における悪の首魁──バスカヴィル家。
建国以来、裏社会の主として国家に仇をなす可能性のある犯罪者やギャングを統率してきた我が家には、多くの曲者が配下として従属している。
『死喰い鳥』──リンファもその1人。父祖三代にもわたってバスカヴィル家に仕えているネクロマンサーの一族であった。
リンファの祖父は東国で修業を積んだ『道士』だったらしい。
道士というのは不老不死を目指して修行している僧侶のようなもので、死体を操ったりする術に長けている。
『キョンシー』というモンスターの名前ならば、誰でも一度は聞いたことくらいあるだろう。キョンシーは道士に使役されているアンデッドのことをいうのだ。
リンファの一族は正道を踏みはずした邪悪な術者だったようで、故郷の王族と争って国を追われたとのこと。
スレイヤーズ王国まで逃げてきた彼らはバスカヴィル家の配下に取り込まれることになり、主従関係は孫のリンファの代まで続いていた。
ちなみに、リンファもまたゲームに登場していたキャラクターである。
『2』におけるゼノンのサポートキャラであり、手下のアンデッドや人形を使ってレオンを追い詰め、ヒロインを寝取る手助けをする悪役キャラだったのだ。
「よくきたネー。ボスが会いに来てくれて嬉しいヨー」
顔を合わせるや、リンファが弾けるような笑顔で抱き着いてくる。
俺の腰ほどしか背丈のないリンファの笑顔は無邪気で純粋なように見えたが……俺は舌打ちをしてその頭部にヘッドロックをかます。
「お前な! 一応は主である俺に手下をけしかけるのはやめろ! 毎度毎度、鬱陶しいんだよ!」
ギリギリと少女の頭を締めつけながら、言い含めるように注意する。
先ほど襲ってきた人形であるが、奴らはリンファによって使役されたモンスターであった。
『死霊術士』は召喚士から派生した魔法ジョブであり、特定のモンスターを使役して自分の代わりに戦わせることができるのだ。
リンファが使役できるモンスターはアンデッドと人形のような無機物に限る。20体以上ものモンスターを同時にけしかけてきたことからも、その力量を推し量ることができるだろう。
「不是。それはできないヨー。盟主がボクのリーダーにふさわしいのか見極めなくちゃいけないヨー。それには戦うのが一番アル」
「……リアルで『アル』とか言う奴はじめて見た。いちいち胡散臭いんだよな、お前は」
頭をロックされていながらもリンファの顔は涼しげである。
むしろ、俺とスキンシップをとっていることが嬉しくて仕方がないとばかりに、幼い顔が喜色に染まっていた。
「むうっ! ズルいですの!」
そうこうしていると、ウルザが横から割って入ってきてリンファを強引に引き剥がした。
どうやら、俺が別の女……それも自分と同じくらいの体格の少女と乳繰り合っていることが気に入らなかったのだろう。
「誰ですの、このチビ女は! ウルザというものがありながら他のチビッ子と浮気なんて許せませんのっ!」
「応、これが例の鬼っ子アルか? 噂通りにちっちゃくて可愛いヨー。背丈もおっぱいも蟻んこサイズで可愛いらしいアルネー」
「なっ……言いましたね、このチビ牛が! ロリのくせに胸だけでっかいとか邪道ですの! レッドカードで一発退場ですの!」
「アハハハハ、そんな小さい身体でボスを満足させられるアルかー? ボクのほうがボスをずっと気持ち良くさせられると思うけどネー」
「ムカッ! テクニックさえあれば胸の大きさなんて必要ありませんの! ご主人様だってウルザのお口をとっても気に入ってくれて、昨晩だって……」
「ストップだ! それくらいにしておけ!」
俺はウルザとリンファの頭部を掴み、口論する2人を強引に引き剥がした。
いくら身内しかいないとはいえ、赤裸々な夜の生活を大声で暴露されるのは勘弁してもらいたい。
「遊んでないで仕事の話をするぞ。リンファ、お前に預けたアレはどうなってる? 情報は聞き出せたんだろうな?」
「是、もちろんヨー。ちゃーんと仕事は終わっているから誉めて欲しいネー」
リンファが抱き着こうとしてくるが……ウルザがすぐさま間に入ってきて道をふさぐ。まるで熟練のポイントガードのような機敏なディフェンスである。
「させませんの! ご主人様のロリッ娘枠はウルザのものですの! 邪道チビ牛には渡しませんの!」
「不好! ムカつく鬼っ子ネー! ロリ巨乳が世界最強だってことを思い知らせてやるから覚悟しておくアルヨー!」
「……もう勘弁しろよ。ツッコミ役が足りないんだよ」
俺は疲れ果てて肩を落とす。
ウルザとリンファ。2人のロリッ娘を会せたらどうなるかと思っていたが……想像以上にやかましいことになってしまった。
結局、俺が本題を達成することができたのは10分後のこと。
彼女達を宥めて落ち着けるまでの間、2人のロリッ娘はひたすらに低レベルな口論を続けるのであった。
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