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99.もう一つの英雄伝

100話達成!

そして、第1部最終話です!

「あ、バスカヴィルさんじゃないですかー。こーんな所でどうしたんですかー?」


 レオンとの待ち合わせの場所――校舎の屋上に向かう途中の階段で、レオンのパーティーメンバーであるメーリア・スーと遭遇した。

 メガネにおさげ髪、一見して真面目な優等生といった容貌の少女は、気安く手を振りながら階段を上から降りてくる。


「ブレイブに話があるんだよ。待ち合わせだ」


「へー、そうなんですか…………なんちゃって、知ってますよー。レオンくんから聞きましたからー」


「……だったら聞くんじゃねえよ。時間の無駄だ」


 意味もなく揶揄(からか)うような口調で話しかけてくるメーリアに辟易しつつ、俺は横をすり抜けて屋上に向かう。


「ふふふ、男どうして逢引きなんてやーらしー。3人も4人も女の子を侍らせておいて、今度はレオンくんにまで手を出すのかにゃー?」


「チッ……鬱陶しいな」


 面倒臭い口調で下から話しかけてくるメーリア。

 神経を逆なでする少女の声に舌打ちをして、俺は足早にその場を去ろうとする。


「……心配しなくても貴方はよくやっている」


 だが……そこでふと、メーリアが声音を変えた。

 同じ人間の口から発されたとは思えない、大人びて落ち着いた声が背中にかけられる。


「君を選んだのは正しかったと確信した。私と同じ『愛』と『怒り』を(いだ)く君ならば、クソッタレな制作が生み出したエンディングを打ち破り、この世界を本当のトゥルーエンドへと導いてくれると信じているよ」


「…………」


 俺は振り返って階段の下に目を向ける。

 そこにすでにメーリアの姿はない。おさげメガネの少女は、影も形も見当たらなかった。


 すでに階段の下に降りて行ってしまったのか。

 それとも……


「……白昼夢か。夜の運動のし過ぎだ。俺も相当に疲れていやがるな」


 首を振って、屋上に向けて上がっていく。

 すごく重要で意味深なことを言われた気がするのだが……不思議とその言葉は霞がかっていて、すぐに記憶から消えてしまう。

 階段の最上段に昇った時には、メーリアと会話をしたことすら思い出すことができなくなっていたのである。



     ○          ○          ○



 屋上の扉を開くと、約束通りそこにはレオン・ブレイブの姿があった。

 いつも一緒にいる幼馴染みのシエルはいない。こちらも珍しく1人きりである。


「やあ、バスカヴィル。1人だなんて珍しいな」


「お互い様だろうが……わざわざ呼び出して悪かったな」


「別にいいさ。それで……僕に話って、なんだい?」


 屋上の柵にもたれかかり立っているレオンであったが、夏休みが始まる前と比べてやや身体つきが逞しくなっている。

 どうやら、夏休みの間は修行に励んでいたらしい。ギルドで何度か見かけたことがあるし、依頼も受けていたのだろう。


「なあ、ブレイブ。お前はまだ英雄になりたいと思っているのか?」


「え……?」


 突然の質問にレオンが目を白黒とさせる。

 わざわざ俺からの呼び出し、もっと重大なことを言われると思っていたのだろう。

 ひょっとしたら、また決闘でも挑まれるのかと勘違いしていたのかもしれない。


「そりゃあ、もちろん……今も英雄になりたいって思ってるけど、悪いかな?」


 レオンはどこか怒ったように言ってくる。


「僕はお前みたいに強くない。だけど……やっぱり大切な人を守りたい。みんなが住んでいるこの国を守りたい。あの峡谷であった……シンヤって奴みたいな悪党を放っておきたくない」


 一拍置いて、レオンはグッと拳を握り締めて言い放つ。


「僕は英雄になる。祖先がそうであったような、誰にも負けない英雄に。今は負けてるかもしれないけど……君にだっていつか絶対に追いついてみせる!」


「はっ! そうかよ! 上等だ、それを聞いて安心したぜ」


 俺はくつくつと笑い、レオンから視線を逸らして屋上の外に向ける。

 校舎の屋上からは、俺達が暮らしている王都一帯が見渡すことができた。

 ウルザを買ったオークション会場も。エアリスと入った喫茶店も。ナギサと連れ立って歩いた市場も。レヴィエナが帰りを待っているであろうバスカヴィル家の屋敷だって一望できる。


「俺だって守りたいさ。愛する人とこの景色を」


「バスカヴィル……?」


「実はな……ブレイブ。俺も英雄になりたいんだよ。ずっと前からなりたかったんだ」


 この世界に来る前から、ゼノン・バスカヴィルになる前から、ずっと勇者や英雄に憧れていた。

 大切な人を守り、町を守り、世界を守り――そんな誰もが憧れるヒーローになりたかったのだ。


「俺は勇者の子孫じゃない。特別な力なんて持っていない。だけど……俺は俺のやり方で、この世界を守って見せる」


 すでにそのための行動は始めている。

 魔王を倒すため、バスカヴィル家の権力を使って。


 復活した魔王は勇者であるレオン・ブレイブにしか倒すことはできない――本当にそうだろうか?


 先代勇者が魔王を封印したのは300年も前のこと。

 レオンは先代勇者の血を引いているがゆえに勇者の力を有しているわけだが……はたして、勇者の力を受け継いでいるのはレオンだけだろうか?

 300年も昔の人間の子孫がレオン1人しかいない。そんなことがあり得るだろうか?


 答えはノーだ。

 直系か傍系か。血が濃いか薄いかの差はあれど、勇者の子孫は必ずほかにもいるはず。

 他の子孫の中にだって、勇者の力を秘めている者はいるはずだ。


 すでにバスカヴィル家の配下に命じて、勇者の子孫の捜索を始めている。

 戸籍や家系図といった便利な証拠があるわけでもなく、容易な捜索ではなかったが……いずれは勇者の子孫を見つけられるだろう。

 彼らをプロデュースして『第二の勇者』として育て上げれば、レオン無しでも魔王を倒すことができるかもしれない。


「バスカヴィル……お前、急に何の話を……」


『フハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』


 レオンが怪訝そうな声を漏らしたちょうどその時、突如として何者かの哄笑が聞こえてきた。

 それは地の底から鳴り響くように深く、暗く、背筋が凍えてしまいそうな恐怖感を煽る笑い声であった。


「へっ……どこから……?」


「どこを見ていやがる。上を見ろよ、ブレイブ」


「え……ああっ!?」


 レオンが俺の視線を追って頭上に目を向ける。

 見上げた空は晴れ渡っており、雲一つない晴天だったが……青空からにじみ出るようにして巨大な人影が現れた。

 それは黒色の髪を長く伸ばした男である。顔の上半分を銀仮面で隠しており、眼窩に空いた穴から満月のような金色の瞳がこちらを見下ろしている。


『聞け、人間共よ! 吾輩は帰ってきたぞ!』


 威圧感のある声が空から降ってくる。

 男の唇が吊り上がり、血のような真っ赤な舌が口端から覗く。


「あれは……魔族か!? どうして王都に……!?」


「落ち着けよ、レオン。アレは幻影だ。本体じゃない」


 慌てて剣を構えようとするレオンを、俺は落ち着き払った声で諫める。

 現在進行形で王都を襲っている異常事態。それはゲームのシナリオでもあったイベントだった。


『焦がれ恐れて聞き知るがいい! 吾輩の名はアージャガッシュ。300年の時を越えてこの世に甦った、人類廃絶の覇道を歩む魔王である!』


「魔王だって!? そんな、復活してしまったのか!?」


 レオンが驚いて叫ぶ。

 魔王アージャガッシュ。それは300年前にレオンの祖先によって封じ込められた魔王であり、『ダンブレ』におけるラスボスだった。

 これは『魔王復活イベント』。魔王が己の復活を人類に宣言して、魔王軍との戦いが本格化するきっかけとなるイベントである。


「いよいよ、魔王が復活したか。これでシナリオも折り返しだな」


 レオンが混乱する一方で、俺は落ち着いた声でつぶやいた。

 魔王復活イベント。このシーンはゲームで何度も見たことがある。今さら慌てる必要などない。

 頭上では魔王がゼノン以上の邪悪な笑みを浮かべて、大きくマントを翻した。


『さあ、恐怖せよ! 絶望せよ! 破滅せよ! 今より先はこの世の終末。人類絶滅の始まりである! 不可避の破滅の時を震えて待つがいいわ!』


 空のスクリーンに映し出された魔王は、再び哄笑を上げながら消えていく。

 校庭から、町から、王都のあちこちから混乱と動揺のざわめきが上がった。魔王復活を知った人々は恐怖のあまり嘆きの声を上げているのである。


「魔王……!」


 誰もが絶望に沈む中――レオンだけは拳を握り締め、先ほどまで魔王の姿が映し出されていた大空を睨みつけている。


 流石は勇者。伊達や酔狂で主人公はやっていない。

 レオンの瞳は使命感に燃えており、少しも絶望なんてしていない。

 人類を滅ぼすことを宣言した魔王に対して、激しい義憤を抱いているようだ。


「くっ……はははははははははははっ!」


「バスカヴィル?……」


 そんなレオンの横顔に、俺は思わず笑いだしてしまう。

 レオンが不審そうにこちらを振りかえり、怪訝に目を細める。

 俺はそんなレオンに向けて満面の笑顔を浮かべ、両手を左右に広げた。


「なあ、ブレイブ。勝負をしないか?」


「え? 勝負って……何を言ってるんだよ、こんな時に……!」


「俺とお前、どちらが先に魔王を倒すことができるか勝負しよう。学園に入学して、お前とは色々あったが……これが正真正銘、最後の対決だ!」


 不謹慎を咎めるレオンの言葉を無視して、俺は人差し指を天に突き上げて堂々と宣言する。

 先ほどまで魔王の姿が浮かんでいた空を指差し、牙を剥いて笑う。


「魔王だろうが勇者だろうが。まとめて容赦なくぶちのめしてやるよ。俺は最強無敵の悪役キャラだからな!」


 悪役キャラ。スレイヤーズ王国に蔓延る全ての悪を管理する魔犬――ゼノン・バスカヴィル。


 その鮮血に濡れた悪逆覇道の英雄伝(ブレイブソウル)は、ここから始まるのだ。






悪逆覇道のブレイブソウル 第1部   完



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― 新着の感想 ―
[良い点] ランキングから一気読みしてしまいました、 面白かったので是非とも続編希望
[一言] 終わり方が少年漫画の打ち切りエンドっぽいですねw 個人的には結構好きだったので、魔王を倒すところまで続けてくれることを期待してます。
[一言] 俺たちの戦いはこれからだ!! HAHAHA... 続きを期待して待ってます。
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