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劣等公女の剣術指南役  作者: 雪城立夏
一章 劣等公女
2/2

第二話「初教導」

 真幸はリシアンサスに部屋へ案内してもらい、一度別れて部屋の片付けと教導の支度をするために着替えをしていた。片付けと言ってもヴァーミリオン家の使用人が既に家具などは置いていてくれてあったので、服など生活用品をしまうだけだったが。


 黒のレザーパンツに白のシャツを着て、その上にはヤマト伝統の服装である蒼色の羽織を少しエクセリアの様式に似せた物に袖を通す。本来なら踝まである和服と呼ばれる服装なのだが、戦闘用に動きをあまり阻害しないよう改良したものを拵えてもらったのだ。


 この服はミスリルと呼ばれるマナを宿した鉱石を使用した繊維を使っていて、そう簡単に傷ついたりしないよう作られている。


「こっちに来る前よか動きやすいな……おっちゃんはやっぱ凄い」


 ヤマトで戦闘服を作らせるならこの人ありと言われる老技師が居り、真幸の服はその人に仕立ててもらっていてエクセリアへ来る前修繕に出したのだ。それから出発の日ギリギリまで修繕に時間が掛かって申し訳ないと謝られたのだが、そんな謝罪の言葉は要らなかったと思うほどの出来栄えだった。


 むしろこちらの方こそ帰ったら改めて御礼をしなければ、と思うくらい軽く動きやすい。羽織の上から腰に剣帯を回して留め具で固定し、左腰に刀と呼ばれるヤマトの武器を剣帯に付いている金具に装着して部屋を出る。


 本来ならヴァーミリオン家の人に挨拶を、と言う流れなのだが生憎リシアンサス以外家を空けているらしく、それは帰ってきてからと彼女に苦笑いされながら言われた。どうも本来なら帰ってきている時間らしいが、今日は遅いらしい。


 部屋は二階の角部屋を用意してもらっていて、長い廊下を抜けて吹き抜けになっているエントランスに出て階段を下り、そのまま玄関を出て中庭へ向かうとリシアンサスが先に待っていた。


「ヤマトの服はやっぱり独特ね、洋服にも合わせられるなんて」

「うちには最高の仕立て屋が居るから」

「いいな~私も今度着てみたいけど……と本来の目的はこれじゃなかった、雑談は後にして教導お願いします」

「そうだな、和服は機会があればってことで。とりあえずどの程度か見させてもらう」


 リシアンサスが珍しそうな服装に興味を示しているのを見て、女の子はやはりファッションが大切なんだな、と思っていた真幸だったのだがすぐ気持ちを切り替えてお辞儀をする様子を見てこちらも気持ちを切り替える。


(俺と似たような戦闘スタイルかな、それにしても)


 真幸同様動きやすい戦闘服を用意しているのか、膝丈の黒のスカートに黒色のシャツの上には赤いレザージャケットを纏っている。そして真幸が少し気になったのは、腰の剣帯に装備されておる朱塗しゅぬりに銀の紋様が描かれている刀の鞘だ。


 ヤマトの住民以外で刀を使っているのは中々に珍しいもので、この大陸主流である両刃の剣とは取り扱いも違う。ヴァーミリオン家はヤマトと交流もあるので美術品としての刀ならあってもおかしくはないが、まさか戦闘用の刀があるとは思っていなかったのだ。


「まさあ刀を使っているとは思ってなかった」

「先祖がヤマトの人を助けたことがあったらしくて、その時のお礼として貰ったらしいのよ。ただ今は使い手が居なくて今は私が使わせてもらっているの、一応刀争術の道場にも通ってたのよ」

「聞くに魔装の刀か。そりゃ大層な物だね、もし使い手を選ぶなら宝具級かもしれない」


 魔具と呼ばれる特別な物この世には存在する。マナと呼ばれる力を宿した鉱物を使い、マナの扱いに慣れたものが作成可能なものだ。そう簡単に壊れるものでな無いので応用性も高いことから、私生活で使われるものまで存在する、


 しかし現代では武具の魔具である魔装作成できる技師は多くないのだが、またそれとは別で存在する魔具がる。それが宝具と呼ばれる太古の時代に作成された魔具だ。その多くは使い手を宝具が認めなければ使用することができない、と言われるまでに強い力を宿したものが多い。


 リシアンサスがゆっくり鞘から引き抜くと、反りは浅く浅いほんのり朱い刀身が姿を見せる。


「そういうマサユキも刀を使うのね」

「同じ武器を使うから俺がリアの教導に来たんだと思うよ」

「それもそっか、でも刀は抜かないの?」

「まあ、抜くかどうかは俺が決めるからね」

「……そう」


 やや上からの物言いが少し気に障ったのか、低い声で返事をしてからリシアンサスは正眼に構える。


(基本に忠実、なにより綺麗な構えだ。隙もほぼない)


 真幸も半身で刀の柄に手を添えて臨戦態勢を取る。


 刀をすぐ抜かないと言ったのもこちらの動きを察せないようにする為だ。


「参りますっ……!!」


 正眼に構えたリシアンサスはそのまま袈裟懸けに切り込んでくる。


 しかし魔装具が稼動しているような気配も無く、周囲のマナが隆起しているような気配も無い。


 何かの作戦か? と疑問に感じながらも地面を軽く蹴って後ろへ向かってくる刃を避ける。


「まだ!! 猛りなさい朱月あけづき!!」

「……?」


 周囲のマナが少しざわつく感覚がすると、リシアンサスの返す刀がほんのり炎を纏うが、その勢いも大して強くない。


 下段から切り上げを更に後ろへ避け、着地からの衝撃を殺す為に膝を曲げ、そのバネを使って勢いで前に飛び出す。


 リシアンサスが習っていた道場の刀争術で言うと上下による三連撃なのか、振り上げた刀が翻り上段から振り下ろされ、前に飛び出した真幸に迫る。


「劣等公女とは言ったものだな……そういうことか」

「っ……」


 炎を纏った斬撃は、居合いからの切り払いで軽々しく弾き飛ばされリシアンサスの体勢を崩す。


 なにより彼女が驚いたのは、自分の斬撃を弾いた刀が愛刀より猛る紅蓮の炎を宿していたことだ。そして自分のことを蔑む呼び名が聞こえ、心が少し軋む。


「止まるな!! この程度でうろたえるな!!」

「うるさいわかってる!!」


 冷静でいられず迎撃が遅れそうになると叱咤されすぐ気持ちを切り替えようとして、真幸の横一閃を崩された体勢から地面を蹴って寸でのところで後ろへ避け、一旦立て直して正眼に構え直す。


「貴方にそう呼ばれるとは思っていなかった」

「俺は君の教導官だからな、なぜ劣等公女と呼ばれているかも把握する必要があった。口にしたのは悪いと思っているけど謝りはしない」

「意外と性格が悪いね」

「そりゃどうも。でも君をそう呼ばせないようするのが俺の役目だ、だから始めから全力でやらしてもらう。紅朱雀クレナイスザク!!」


 片手で握っていた愛刀に魔力を注ぐため周囲のマナを収束させると、刀身に纏っていた紅蓮の炎は更に勢いを増す。


 その勢いに押されるが、リシアンサスは真幸の一言が耳から離れなかった。劣等公女と周囲に呼ばれ続け、数々の家庭教師や教導官が自分のことを諦めていったのを、彼はそう呼ばせないと宣言してくれた。


堰鳴流えんめいりゅう刀争術とうそうじゅつ炎月えんげつ』」

「重いっ……!!」


 下段から振り上げる紅朱雀に魔力を乗せて放たれた炎の斬撃は、正面から受け止めた朱月を弾き飛ばし、リシアンサスも後ろへ飛ばされて起き上がろうとした時、眼前に切っ先が向けられる。


その先にあるのは、赤子をあしらうように自分のことを打ち負かした教導者の姿だ。


「参りました」

「マナが上手く扱えないのか。昔から?」

「物心ついた頃から。キョウちゃ、キキョウお姉さまとかお父様が辛抱強く教えてくれてるんだけどね」

「まずは原因からだな。少なくとも完全に扱えてない訳じゃないんだからなんで上手く扱えないか、それに並行して剣術も実戦式で教導していくのと」


 今までの教導官がここまで考えてくれている様子を見たことが無くて、真剣に考えてくれている真幸を見て少し脱力する。


 マナを扱えない原因なんて今まで一緒に考えてくれるのは家族以外居なかった。今までは公爵家令嬢の教導官という箔が欲しくて適当に教える人が殆ど、ましてや剣術まで鍛えなおすと言う人は過去に居ない。


「おっと、座りっぱなしにさせて悪かった。とにかく原因と更に剣術の基礎練しながら実戦形式のメニュー考えてくよ」

「本当に私の教導してくれるの? もしかしたら半端者なだけかもだよ?」

「なんの為に来たと思ってんだ。今までの人がどうだったかは知らないけど、俺は要らんと言われるまでリアのことしっかり教導するからな? 半端に終わらせない、必ず君を一人前の抜刃士ブレイザーにしてみせるよ」


 座り込んでいるリシアンサスに申し訳なさそうな顔をして刀を鞘に納め、手を差し伸べてくる真幸に不安だった気持ちを吐露する。


 しかしそんなこと知ったものかと言いながら手を掴んで立たせる真幸。半端な力の持ち主ならその半端な力で一人前にしてみせよう、要らなくなるまで教えるからなと言ってくれてリシアンサスは顔が少し熱くなっていくのを感じた。


「……ありがとう、お願いします先生」

「先生は止してくれと……それより門のところで隠れて無くてもいいですよヴァーミリオン公爵方」

「ふえっ!?」

「おや、リアといい雰囲気だったから邪魔しちゃ悪いなあと思って気配も断って居たんだが。さすがヤマトの抜刃士だ、気配探知はお手の物かな?」


 真幸が門のところに視線を向けると、燃えるような赤い短髪の男がニヤニヤしながら姿を現す。


 リシアンサスの父親であるアーサー・ヴェン・ヴァーミリオン公爵だ。その後ろには金髪の女性が二人、一人はおっとりとした雰囲気で、もう一人は目の前に居る顔を赤くしている少女に瓜二つだった。


 恐らく母親のクリスと姉のキキョウだろう、真幸は事前に聞いていた家族構成を頭に浮かべていると、握っていた手をリシアンサスが忘れていたのか慌てて離しながら家族に抗議しに行く。


「リアったら顔が赤いわよ~お母さんそんな表情はじめて見たわ~」

「ご馳走様リア、もう少し彼が気が付くの遅ければよかったかな?」

「キョウちゃんもお母様もお父様も帰ってきてたなら黙って見てないでよもう!! セバスも居るんでしょう!?」

「ここに」

「うおっ!?」


 真後ろに気配を感じて真幸が振り向くと、老執事がこちらにお辞儀をしながら立っていて驚く。まったく気配を感じさせていなかったので、心臓がかなりバクバク鳴っているがなんとか平然を装うとしてしっかり向き直る。


「ヴァーミリオン家執事長をさせていただいておりますセバスチャン・アーデルハイドと申します。これからよろしくお願いいたします丹羽様」

「真幸で大丈夫です、こちらこそよろしくお願いしますアーデルハイドさん」

「セバスでよろしいですよ真幸様。私もお嬢様の家庭教師をやらせていただいているので、教師同士連携を取れればと思います」

「わかりました」


 苦笑いしながらセバスチャンとの自己紹介を済ませる。しかし突然背後に現れたことといい実力が計り知れない執事を前にして、自分が来なくてもよかったのではと思わんでもなかった真幸だが、こんな彼でもリシアンサスの状態は手に余っていたのだろう。


 本人にも、その家族たちにも期待されているんだなあ、と思いながら門の方を見ると、まだ顔を赤くしながら家族に抗議している教え子の様子を見て、隣の執事長と目を合わせ肩を竦めて宥めに向かった。


立夏です、間が空きましたが二話更新できました。


や、実は右手甲を縫ったり筋やっちゃってたりで書くペースが遅くて。え、書けてる?ういす次は一週間内にしっかり更新します!!


ということで初の共同作業もとい真幸の教導、ここから彼らの成長を頑張って描けていけたらなと思っています。


それと、やっぱり執事の名前はセバスチャンだよね!!


それでは三話で

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