第一話 劣等公女と教導者
「ここがエクシリア王国教導学院……思っていたより大きいな」
そろそろ夕暮れの時間になる頃、丹羽真幸は今ルナン大陸南東に位置するエクセリア王国首都にある、クレアス教導学院の正門前に立っていた。
半月ほど前、教導学院に在籍している従姉からとある公爵家の令嬢を教導して欲しい旨の手紙を貰い、あれやこれやと準備に追われた半月がかなり昔のように感じる。手紙にはその教導を任せられている少女の詳細も書かれていたが、自分が教えるより従姉が教えたほうが必ず強くなれると思いはした。
しかし人を見る眼は十八歳にして国一を誇る従姉の言うことを信じ、先に荷物も送り届けてもらい最小限の荷物を持って魔導車に揺られること十時間。
住んでいた国からエクシリアの首都までは馬車で二日、マナと呼ばれる大気中に存在する力を動力にして動かす魔導車なら十時間という二択を迫られたときは迷わず車を選んだ。なによりそんな長時間馬車に揺られては身体のあちこちが痛くなること必至、痛い思いをするくらいなら道中は楽に行きたかった。
そんな過程を経て件の教導する少女へ会いに行く前に学院の景観を見に来ていたところだ。正門には両脇に守衛の詰め所があり、学院内を見るようにしている真幸のことを守衛が気になったのか、一人が話しかけてくる。
「学院の中を見ているようだけど何か用でもあるのかい?」
「あー……明日からこちらの学院にお世話になるので場所の確認と景観でも見ておこうと思いまして、怪しかったですよね」
「まあずっと見ていたからね、転入生の話は聞いているよ。あのヤマトから来たんだろう? ようこそエクシリア王国クレアス教導学院へ、と言うのは少し早いね」
苦笑いしながらも青年の守衛は気さくに話してくれた。真幸はどうも国外にあまり出る機会が少ないせいか、外国の人としっかり話せるか少し不安であったがこの守衛の青年は優しく話してくれたおかげで少し緊張も解けた。
「歓迎の言葉ありがとうございます、明日から通うのでよろしくお願いしますね。俺はこれからヴァーミリオン公爵家に向かいたいのですが、ここからだとどう向かうのが近いかわかりますか?」
「ヴァーミリオン公爵邸なら正門から左の道を二十分ほど直進すると目に見えて大きな屋敷が見えてくるからそこだよ」
「教えてくれてありがとうございます、それでは失礼します」
青年と詰め所に居る守衛に頭を下げて目的地に向かう真幸の背中を見送る青年は、詰め所に戻ると先輩の守衛と先ほどの少年の情報を告げると、先輩守衛は何故か苦笑をした。
「ということはリシアンサス様の家庭教師……指導者は彼か、今後が大変だな。まだ若いのに」
「今回はあの『朱の舞姫』がヤマト本国から招聘したという話ですし、もしかしたら大物かもしれませんよあの少年」
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守衛の話を聞いて歩くこと約三十分で真幸は立派な屋敷の前に辿り着く。横並びに四件似たような豪邸が並んでいるが、目の前の屋敷はそのどれより立派だ。
一応防犯のためか門はあるが今は開いており、誰でも屋敷の入り口まで入れる状態だが、玄関らしき扉の前では一人の少女が壁に寄りかかっているのが見える。
長い銀色の髪に青を基調としたドレスのようなものを着ている。俯いているように寄りかかっているためその表情は見えないが、手紙にあった少女の外見と一致していた。ここ誰か出てくるのを待っているわけにもいかないので、真幸は門を抜けて少女のそばへ近づいていくと、彼女がこちらに気がつき寄りかかるのをやめてこちらを見る。
整った顔に少々つり目気味の碧い瞳が真幸を正面から出迎えた。
「はじめまして、私はヴァーミリオン公爵家次女のリシアンサス・ヴェン・ヴァーミリオンと申します。」
「……はじめまして、ヤマト皇国から君の専属教導官として来たニワ・マサユキ……あれ、こっちの言い方だとマサユキ・ニワか?」
ヤマトとその他の国では苗字と名前の順番が逆であるためか、挨拶のときどう名乗るかまったく考えていなかった真幸が少し困っていると、リシアンサスと名乗った少女がクスッと笑う。
もしかして粗相でもしてしまっかと思い何とか自己紹介をしようとすると彼女が口を開く。
「こういう時は自分の国の言い方で大丈夫よ、マサユキ……でいいのかしら?」
「そうなのか、ありがとう。親しい人はユキって呼ぶから、これから長い付き合いになると願いたいし、好きなように呼んでくれても構わないです」
「それじゃあ先生でもあるししばらくはマサユキと呼ばせてもらうわね、それと敬語は大丈夫だから普通に話してくれると嬉しいな。私も家族や親しい人にはリアって呼ばれてるからそう呼んで、名前長いから」
少し苦笑いしながら喋るリシアンサスに親しみやすい感覚を覚える。これから彼女に教導する立場としてどう接しようか考えていたのだが、難しく考える必要はなかったらしい。
「わかった、これからよろしくなリア」
「こちらこそよろしくお願いしますマサユキ先生」
「先生はやめてくれ……君に教える立場ではあるけど歳はそんなに変わらないんだから。それにしても何で玄関に?」
「ふふふ、ごめんなさい。外に居たのはマサユキを待っていたの、私の……大切な先生になるってアマネさんが言ってたからどんな人なのかなって気になって」
「天姉最初からプレッシャーかけてくるなぁ、まあいいか」
従姉である大和天音は幼いころからの付き合いでもあり、同じ武術の流派の姉弟子でもある。そして悪戯好きというか、特に真幸をからかうことがヤマトに居たときは特に多かったのだが、武術や大切な物事には真剣に取り組むしっかりした人でもある。
しかしそんな天音が教導を頼んできたのだから、リシアンサスの指導は恐らく他の指導者では手に負えないが故に真幸に依頼してきたのだろう。
と考え事をしているとリシアンサスが気なったことがるようで話題を変えてくる。
「今日から屋敷の空いてる部屋で過ごしてもらうけど大丈夫?」
「荷物はなんかヴァーミリオンさんの人たちが、その空き部屋に置いておいてくれてるって荷物もって行ってもらったときに説明してもらったから大丈夫だと思う」
「それじゃ部屋まで案内するね、改めてようこそエクシリア王国ヴァーミリオン公爵家へ」
満面の笑みで手を差し出すリシアンサスに見惚れてしまい、握手するタイミングを少し外してしまったがその手を握る。
華奢なように見える手は、握るとわかるその内側に剣だこができていた。きっと毎日剣を握って練習などをしているのだろう。
「これからお世話になる、それと教導は俺の支度が終わったらすぐ始めるからな」
「うん、私を……よろしくお願いね」
手を離して二人は屋敷へと向かっていくと、空には夕日が沈み始め星々が輝き始める。
この出会いを祝福するような、満天の星空へと変わっていった。
はじめまして、雪城立夏と申します。
なにぶん独学で小説を書いているため拙い文だと思いますが、どうかよろしくお願いします。
一話のタイトルっぽくねえ……と思うかもしれませんが、そこは考えた結果ですのでスルーしてください()
また感想や誤字脱字ばしばし言ってください!!
それではまた二話で。