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チャンバラディストピア!!  作者: 藤夏燦
血で染まる大気圏
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本当の敵

 レッドとイメクは一連の邪気の王と皇帝のやりとりを訳も分からずただ茫然と見つめることしかできなかった。邪気の王というこの仮面の男はいったい何者なのか、それすらもよくわかっていない。ただ一連の行為は皇帝への裏切りで首謀者はおそらくこの邪気の王といったところか。割られたガラスのあった箇所はすでに防風用のシャッターが閉じられている。ただしガラスが割れたのは一か所だけだったので玉座の間から外の様子が伺えなくなったわけではない。


「皇帝は死んだ。戦争は終わる」


 邪気の王は剣を下すと静かにそう言った。この言葉はレッドとイメクに向けられているのだろう。確かに皇帝は死んで戦争は終わる。だがレッドは複雑な思いだった。ラークス少佐やメカド隊長、アロス、そしてフダカとアーク。みんなが命がけで切り開いてくれた道だというのに自分は何もできなかった。それでいいのだろうか。自分が戦争終結の英雄ではないにも関わらずこの場にいてもいいのだろうか。心の中にもやもやした気持ちが広がっていく。そんな中で邪気の王は続けた。


「ただ、このままお前たちを家に帰すわけにはいかないな。私たちの存在自体が極秘でね。皇帝は共存軍に不幸にも暗殺されかけ、脱出ポッドで自害したことにしなければならない。お前たちは運が悪かったな」


 複雑な思いと緊張の中、アルトと相対し剣を構えていたイメクが尋ねる。


「つまり僕たちを殺すということだね?」

「ああ、そうだ。あまり時間がない」


 邪気の王はまるでレッドたちなど敵ではないかのように、ものを片付けるかのような素振りで答えた。


「随分と余裕そうだな」


 レッドもイメクもこれにはプライドを傷つけられた。自慢の風の刃を構え、戦闘の目つきに変わる。レッドは思った。こんな奴らに殺されるわけにはいかない。だがこれはチャンスでもある。こいつらを倒すことができれば、自分たちはここまで来た甲斐がある。みんなの思いを受け継ぎ、自分の心も晴らすことができるかもしれない。


「風の刃か、その年で扱えるのは珍しいな。残念だ」


 邪気の王がそう言った瞬間、レッドは彼の懐に入り込もうと駆け出した。それを見てイメクも目の前のアルトと戦いを始める。影の王は退屈そうに二人の戦いを眺めていた。レッドは邪気の王に一斬りを浴びせると、一度後方へと下がった。手の内が分からない相手にはまずこうすることが一番だ。


「遅いな」


 邪気の王はレッドの風の刃を見抜いており、二度剣を構えて攻撃を受け流した。二回攻撃があるのであれば、二回かわすか受ければいい。風の刃と何度か地獄樹海で手合わせしたことがある邪気の王の中で定石となっている戦い方だ。


(風の刃の弱点が見抜かれている……)


 レッドはこの仮面の男にただならぬ強さを感じていた。経験値が違いすぎる。これまで戦った誰よりもおそらく強いだろう。こんな時、ホージロやメカド隊長がいてくれたら心強いのに。


「……なんだ、それだけか」


 今度は邪気の王がレッド目掛けて飛び込んでくる。レッドは剣を両手で握りしめ、攻撃を受け止めたが反動で足が少し後ろに押し出されてしまう。その後もすぐに剣を振りかざし、レッドになんども斬りかかってくる。予想通り、邪気の王は強かった。その剣は特に特徴のない普通の日本刀だが、一斬り一斬りが重く速い。そしてなにより隙が全く無いのだ。狭い玉座のまわりでレッドは彼から逃げ回ることで精一杯になりはじめていた。

 イメクもまたアルトの攻撃についていくのがやっとだった。素早く、長い棒のような白い剣をイメクは士官学校時代に教本で見たことがある。『熱射剣』と呼ばれるその剣は白い棒状の刃を高熱に温めることによって殺傷能力を与えるものだ。刃こぼれをすることがなく、鞘にいれておく必要もないので軍や警察でよく使われている。イメクはその絹布のように軽い剣を華麗に振り回し、アルトの首元を狙おうと試みるが剣のリーチが狭いため全く近づくことができない。イメクの剣はそれ自体だすごく軽いものの、攻撃の一撃も同時に軽くなってしまうため、急所を狙わないことには相手を倒すことができない。しかしアルトもその性質をよく理解しているようで剣を大振りはせず、首に近づけることすらさせてくれない。


「随分と珍しい剣だな」


 頭の触手をドレッドヘアーのようになびかせながらアルトは笑った。この状況でも笑う余裕があるのかとイメクは驚く。


「特注品だからね。世界に一本だけだよ」


 自慢げに愛刀を振りかざしながらイメクはアルトにそう答えた。身体が柔らかく、幼いころからバレエを習っていたイメクに剣術の師匠が授けてくれたものだった。イメクはダゴヤでも有数の裕福な家庭に育ち、官僚の両親の秘蔵っ子として育てられた。そんな少年が軍隊に入隊するなどまずありえないことであったが、今ではこうして皇帝の玉座の間で戦争を終わらせるために戦っている。ずっと剣士に憧れを抱き続け、親の反対を押し切ってまで軍隊に入隊したからこその今である。

 大人しく自己主張はあまりしない。みんなのまとめ役でもあるイメクだったが、彼には心の中に大きな夢をいだいていた。それは自分が戦争を終結させ、入隊に反対した両親に英雄として恩返しをすることだった。その目標まであともう一歩のところまできている。


(僕はこんなところで負けるわけにはいかないんだ)


 イメクは思い切って大振りで剣をしならせた。アルトは一度、後方へ大きく下がり、熱射剣を構える。二人の間が少し開いたところで、イメクは一気にアルトの懐へと飛び込んでいった。


「こいつ、死ぬ気か」


 アルトはその捨て身のような攻撃に驚き、軽い剣を受け止めたが、イメクの剣はまるでロープのようにしなやかに曲がり始め、アルトの首筋をかすめていった。


「何?!」

「これが僕の剣の本当の姿さ」


 イメクは新体操のロープのように剣をくるくると頭の上で回してみせる。邪気の王を倒し英雄になるか、邪気の王に倒されて偽物の英雄にされるか。レッドとイメクの、この戦争最後の戦いが幕を開けた。


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