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6話:みんなの身の上話1

 その日は、ドライブ途中で買ってきた沖縄・泡盛の古酒を部屋に帰り子供が

寝た後、大人達3人で飲んで、自分達の過去の思い出を語り始めた。最初に

竹生幹男が、私は東京の板橋で育ち厳格な両親の元で良い子になろう、親の

期待にこたえようと何も考えずにひたすら良い点数を取るために毎日、試験勉強

を続け、とにかく、多くのことを暗記した。


 そして良い点数を取り、慶応中学、高校、大学を経て日本でトップクラス

の大手商社に入り社会人になっても親の言いつけ通り競争に勝つことばかり

を目標に働いて会社でも注目されアメリカに赴任して3年、脇目も振らず

働き抜いて何回も業績表彰をもらい期待にこたえることだけを生き甲斐に

猛烈社員を続け4年目からヨーロッパ、ロンドン、パリ、ベルリンと3年間

猛烈に働いて、9年目、31歳の若さで課長になって有頂天になっていた。


 32歳の年末に日本に戻った、翌日、起きようと思い立ち上がった時

、激しいめまいに襲われて倒れた。その物音を聞きつけ両親が私の部屋に

入り異常に気づいて救急車を呼んでくれ、大病院に担ぎ込まれた。入院

して意識が戻ったとき担当医から重度の自律神経失調といわれ私も医者に

なり、こんな重症の自律神経失調症の患者は初めてだと言い、めまい発作

とメニエール症状、左耳の難聴があると言われ、難聴は多分、回復しない

だろうと言われた。


 まず、安静にしてめまい発作を時間かけてでも直しましょうと言われた。

 どの位かかるかと聞くと静かに何年かかるか現状ではわかりません

と言われ会社に戻れるでしょうかと聞くと即座に無理ですと言われた。

 でも、あきらめて落ち込んで自殺を考えては駄目、生きていれば、

いつか、きっと良い事があるはずだからと言って担当医が病室を出て

行った。


 その後、入院して病室の天井をぼーと見ていると自然に涙が流れ初め、

やがて髪の毛が濡れて枕カバーが濡れるほど長時間、涙が止まらなかった。

 自分へのふがいなさ、情けなさ、惨めさが泉のように湧き上がった。

 その絶望感に包まれて3ヶ月が過ぎ、これ以上入院できないので自宅療養と

なった頃、自宅に会社の総務部長が来て今月で会社の有給休暇は終わりです

と言い依願退職の書類を持って来た。


 その姿を見て、いつも冷静な自分の中に初めて、こみ上げてくる怒りの炎

が、まるで火山の噴火のように吹き上がり、それが口をついて思わず大声で

馬鹿野郎っと怒鳴ってしまった。これを聞いて総務部長とついてきた部下の

2人の顔が青ざめ両親に持ってきた書類を渡し落ち着いたときに返送して

下さいと言い、逃げるようにして帰って行った。


 その後、こみ上げてくる悔しさが止まらず枕を濡らして涙が涸れるまで

 泣き続けた。すると母が大変だったねと言い泣きながら部屋を出て行った。

 父も気も済むまで、思うようにして良いぞと言い涙を浮かべて優しくドア

を閉めて、そっとしておいてくれた。その数年後、体調が回復してきたので

5月の新緑の頃、1人でドライブで、この地を訪れ、景色の良さ、空気の

美味しさ、生き生きとした新緑・若葉の生命力に見せられて古くなった家を

安く買って1人で住むようになったと話してくれた。


 この話をじっと聞いていた岩津と明美の目から涙がしたたり落ちた。

 涙をふこうともせず、じっと悲しさを耐えるかの様に、まんじりもせず、

だだ話を聞き続けた。少しして岩津がだから竹生さんが私の面倒を見てくれた

のですねと言った。ひどい目にあった事があるから、その本質が身にしみて、

わかり、自分を助けてくれたんですねと今度は岩津が泣き出した。

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