92.コンダート王国海軍
本章から海軍編の始まりです!
コンダート王国海軍の海軍大臣ガンダルシア・ヴィアラは、代々海軍の要職を務めてきた大貴族のガンダルシア家出身で、ガンダルシア家以外にも海軍系の貴族はいるが、ほとんどが最近名を連ね始めたばかりの家が多く、ガンダルシア家以上に古い家はないほどこの家は歴史のあるところだ。
ヴィアラは海軍士官学校に通いながら現場で一兵士として実戦経験を重ねていたため、剣術や体術は並外れた能力を持ち、陸軍出身の名のある剣術指導者に圧倒的な差をつけて勝利するほどだ。
海軍で多い実戦経験がなく上層部の評価ばかりを気にしがちな軍のエリート層や大貴族の子供の様に現場を一切知らない人たちとは違い、ヴィアラ本人は現場を重視し、上層部の意見を時には無視することさえあった。
しかし、本音が出るのと強気な性格のせいで海軍の内部ではあまり好ましく思われていないようで、大臣に就任する前には就任させないために色々と“工作”が行われていたようだ、逆に陸軍内部では叩き上げの軍人が多く現場主義のため、高評価されているようだが本人は陸軍とあまり関わり合いがないのでそのことについては何も知らない。
そんなヴィアラは常に白い海軍の軍服と制帽を身に着けており、誰もが振り向くほどの美人ですらりと伸びる長躯に腰まで伸びた薄い水色の髪、そして服からはみ出そうなぐらいの胸の持ち主で色気MAXだ。
ただ今まで近寄ってきた男は数多いたが、ヴィアラのお眼鏡にかなう男は一人もいなかったというより、ヴィアラ自体がそういった男たちに向ける冷たい視線や態度によって拒絶していたからなのだろう。
王国海軍の中心部であるキーレの町は、建国当初から栄える港町で周辺の海域では豊かな漁場があるため市場には毎朝新鮮な魚が並んでいる。
また貿易港としても栄えており、戦争が始まる前までは他の大陸から珍しい品物なども届き、中にははるか東方からの輸入品も届き、その品物も市場にならび大いににぎわせていた。
造船業もまた盛んで、この国で造られている船の実に70%もの船がこのキーレで造られていて、中型級の船については他国からも定評がよく、船自体を輸出していた。
そしてその貿易港と造船所を守るための海軍基地もあり、一大拠点となっていた
王国海軍は創設当初から風の力によって航行する帆船を配備していて、沿岸及び近海での戦闘を考慮しており、遠洋などを航行するための大型艦(50m以上)は保有していないため、代わりの中型艦(30m以上)や、より小回りの利く小型艦艇を大量に保有し領海を警備していた。
しかし対する帝国海軍は、元々他大陸や近隣諸国の海に時たま出没し領海や貿易ルートを荒らし、あわよくば金品を奪い去ってしまおうという野蛮な思想の元運用されており、その性格上、遠洋にて長期間活動することもあるため、他の国の追随を許さないほど大きな船を多数保有し、武装も両舷に50門もの砲を搭載し甲板には大型のバリスタも装備し非常に凶悪である。
そんな凶悪な帝国海軍にちっこい船をかき集めたような王国海軍が太刀打ちできるわけもなく、初戦から敗退し続け、しまいには沿岸に好き勝手に上陸されるなど散々な状態であった。
そんな王国海軍の存亡をもかかっている今、海軍大臣のガンダルシア・ヴィアラとキーレ港司令兼中央艦隊司令長官であるキーレ・ミサ中将の二人はキーレにある海軍総司令部の大臣執務室でお互い頭を抱え唸っていた。
今一緒になって頭を抱えているキーレ・ミサ中将は、海軍士官学校時代からヴィアラに仕えてきた右腕的な存在で、今やほとんどの会議や執務を一緒にするほどお互い信頼しあっている間柄のようだ。
ミサの見た目は長い黒髪で前髪を赤い髪留めで止めてあり、見た目は真面目そうな印象で赤い縁の眼鏡をかけている。ミサの身長はそこまで高くなく、胸の大きさも控えめだ。
本来であればここは海軍参謀総長であるアルバ・リザや作戦本部長のジェミナ・フラウもいたはずなのだが、他の方面での作戦で忙しくこの場には参加していなかった。
そこに一人取り残されるように俺は二人が頭を抱えているのを眺めながらコーヒーを飲みつつただ待つだけだった。
ちなみにこの時の俺は軍艦に乗って活動するため海上自衛隊の着ている将官用の服を着てきていた。
暫しの間その状況が続いていたが何を思い至ったのか、姿勢を戻しまるで今俺のことを気付いたかのように話しかけてきた。
「それで陛下、かの“召喚”のことについてですが、一体どういったものを“召喚”なさるのでしょうか?」
「その件についてだが8隻の大型艦の召喚を予定している、これを見てくれ」
俺は召喚するリストをヴィアラとミサに手渡した。
手渡された本人たちは、当然聞いたことのない名前がずらりとならんでいるのを読み、そろって困った表情をしている。
「こ、これが……」
「そうなるのも無理ないよね、早速説明させてもらうよ」




