86.軍議
「さて、まず何から話しましょうか?」
「陛下、まずわたくしからよろしいでしょうか?」
メリアの問いかけにまずエレシアが手をあげ答える。
「まず前回の“拉致事件”についてですが、首謀者は帝国海軍所属の特殊部隊隊長でそれに協力したのは王国近衛師団第3近衛歩兵連隊長でした。首謀者とこの連隊長ですが、その場で“処刑”されました。この話は同じ連隊所属で、今回の作戦に参加しないで逃げてきた兵に聞いたところ、連隊長は女王陛下の拉致を手引きし、クーデターを起して空いた王宮を連隊で占領し、そのまま軍事政権を樹立させ自らがその政権の長となり、この王国を帝国の“属国”としてもらえるように企んでいたようです。また首謀者は陛下をあの小屋にとらえた後、西部にある我が国の手薄な港から海路で本国に戻る予定だったというのが事件後の調査によって明らかになっています。今回は軍として、一組織としてあってはならないことを起こしてしまい、陛下にも非常に不快な思いをさせてしまったことを深くお詫び申し上げます。ひとまず以上です」
エレシアの発言が終わるとすぐに反対側の席に座っていた海軍大臣のガンダルシア・ヴィアラが口を開く。
ヴィアラは少し焼けているのか肌の色が薄い褐色、髪は薄い水色の少しウェーブがかったセミロング後ろで団子状にまとめ上げ赤色のリボンがついている、胸は程よい大きさをしている。
「今回の陸軍の失態は残念でした、陸軍がこれでは海軍は外におちおち出ていられなくなるではないですか、それに陸軍のまとめ役が包囲されてしまったわけですし、発案された作戦も陸軍主導で海軍は何かがあっても陸軍が勝つまで指をくわえて待っていろと?冗談で人は動かせませんから……しかしこちらも帝国によって手痛くやられているのも事実、最近でも帝国海軍陸戦隊と思われる部隊の強襲によって軍港が一時占拠され建物が破壊される事態も起きてしまっています、また今の海軍に残っている船も少なく、新たに船を建造できるようなまともな施設もなく、港も破壊または一部損壊の状態で、そこを修理する人が不足していてしまっています。この後の作戦が失敗したら海軍は運用困難の状態に陥り、事実上海軍は“消滅”します。そこで、そうならないためにも日々活躍をされている“国王陛下”のお力をお借りして、僭越ながら我々海軍にも“銃”のように新たなる兵器を召喚して頂きたく思います」
話が終わったのを見計らって、海軍側全員が立ち上がりこちらに向かって頭を下げてきた、これを見ていれば海軍が自身の組織の存続だけではなく国の存続のために一生懸命になっているのが伝わってくる。
「……わかった、頭を上げて、そのことについては以前から考えていたことだったから今更お願いしなくても大丈夫!それでそのことだが……」
俺は以前より(この国の状況を知らされたときから)海での戦いについても考えていた、この世界の船は全部が木造で、動力は帆で風を受けて動かしていた。大砲は“弾”というよりも、ただの丸い鉄の球体を飛ばす前装式(現代の大抵の大砲は通常後ろ側から弾を込めるのだが(こちらは後装式)、火器自体が作られ初めたころは全て銃口(弾が出る部分)から直接弾を込めていた、そのことを前装式という(現代でも迫撃砲などの一部兵器がこの方式))の大砲を積んでいて、こういう大砲を装備した船は、撃ち合う時船側面を相手に向け比較的近距離で多数の砲を乱射していた。
それでも沈まない場合は船を相手の船につけて船員が乗り込み白兵戦を行っているようで、まだ大砲を撃ち合う事を目的とした軍船はない。
そこで俺は、今まで現代の兵器を使ってきたがここはあえて“大艦巨砲主義”の象徴ともいえる、とある国のある船を出そうと思っていた。
その名は“戦艦大和”、当時世界最大の45口径46㎝砲を積んだ最強の戦艦で、名前だけなら誰でも知っているはずだ。
この戦艦大和の他に姉妹艦である戦艦武蔵や長門型戦艦、金剛型戦艦を召喚する予定だ。
この世界の船にとってはオーバーキルだが、物量をもって攻めてくる敵には質(暴力)をもって対抗していきたい、しかもこの戦艦たちであればこの時代の弾を何発か食らったとしても何事もなかったかのように動き続けることができるだろう。
そのことをヴィアラたちに話すと、時折細かい部分の質問がなされるほど興味を示してくれたようだ。
「そのようなことをお考えであったとは……御見それいたしました、しかしその巨大な船を動かすためには少々時間が必要なのでは?」
「そのための今回の作戦よ、ヴィアラ?これから召喚しておいて少しでも馴らしておけば実践が可能だと思うわよ?ただワタが召喚したものは一応すべての人がすべての兵器を扱えるようになっているの、だからあとは慣れておくだけ」
「しかし、召喚したとはいえ整備する人間の絶対数が足りませんが、それについては如何様にされますか?」
ヴィアラのその一言によって、俺とメリアは口を閉ざしてしまった。




