72.議題
おてんば娘のように見えてきてしまったローザを、俺は冷めた目で見てしまっている。
「え、えとローザさん?いったい何を……」
「この私が直々に自慢の兵達を率いて、戦線に加わりますわ(ワタ様のためならどこへでもついてまいります!)」
ローザの自信満々の宣言に頼もしく感じるところもあるが、どこか抜けているような気がするのは気のせいだろうか。
(最後何か言ってたような?)
「陛下がお望みとあらば、自慢の娘をお貸ししますわ(そのままもらってくださってもよくってよ)」
これがまさしく親バカというべきだろうか、イリス陛下は娘であるローザをこちら側に猛プッシュしてくる。
(またなんか聞こえたような?)
「あ、有難うございます。それでは何かお返しを今後しなくてはなりませんね」
「いえいえ、今やこの国は存亡の危機、そんな方々を苦しめるような汚れた心は持ち合わせておりませんわ、今度我々の国が危機になったときに助けてもらいますからその時にでも」
「とりあえず、後程詳細をお伝えしていただければ幸いです」
「お話しの途中申し訳ありませんが陛下方、そろそろ本題に入りましょう」
俺らの話が長くしびれを切らしたのか、参謀総長のヴァーテ・エレンは議題に入ろうと促してきた。
エレンは海軍士官のような白い軍服を身にまとい、碧眼でセミロングの銀髪をサイドテールでまとめ上げ、スタイルは全体的に整っていて、胸は大きく張り出している(Fぐらい)。まるで欧米諸国のグラビアモデルを彷彿とさせるようである。
そんなエレンは陸軍の作戦、情報、補給、人事の各参謀をまとめ上げ、最高指揮官である女王もしくは国王に対して助言をする重要な立場にある。
「今回起きてしまった女王陛下と王女様の拉致事件ですが、まず犯行に及んだ人物は現場に残っていた“魔力残滓”から帝国側の人間により起こされたものと特定いたしました。しかし、行方については情報が複数あるため現在追加調査中であります」
“魔力残滓”について後でベルに聞いて解ったことだが、事件を捜査するときには、指紋と同じように個人個人によって違う“魔力残滓”によって犯人を割り出す。しかし、この捜査技術が進んでいる王国であっても、捜査中では国内の犯罪者か他国の犯罪者かを見分けるのみにしか使えず、犯人特定材料にはならないのだが、被疑者を捕まえた時の本人かどうかの判断材料の一つとして利用することになっていて、さらに犯行時どのような魔法を使ったかも判断できるようになっている。
エレンがそう言い終わると鋭い目線でポーラに次を促した。
「え、えと、陸軍情報部からは次の救出作戦での運用部隊についてですが、わ、我が情報部内の部隊“メランオピス”を出動させます。そしてそのまま国王陛下直属として動いてもらう予定です。て、敵の居場所についてもわが情報部が現在全力を挙げて調査中です、そ、それと最後に一つ、今はまだ真偽は定かではないのですが今回の拉致事案にわが王国軍内部に内通者がいた可能性が挙げられています」
「どういうことだ?王宮の駐留部隊の連中か?」
すかさず近衛師団長を務めるセレナが反応する、王国の中心地を守る近衛師団から内通者が出たとなれば寝覚めも悪いだろう。
「い、いえ、まだわかっていませんが、おそらく王宮内のどこかの部隊でしょう。も、もしかしたら、軍部からではなく衛視隊や防衛隊からの可能性も否定できません」
「そ、そうか、もしそうなのであればこちらも最大限に協力しよう」
「わ、私からは、い、以上です」
ポーラが言い終わると、すぐにエレンが次の話を始める
「次に近くで待機していた武装メイド隊は事件当時何者かによって眠らされており、眠らされていた部屋には給仕や料理人なども一緒にされていたようです、そのことから犯行時、女王陛下の周りにいたのはすべて帝国側の人間であった可能性があります。もしかしたらこの手引きをしたのもその内通者たちかもしれません。でなければこんな完全な形で行われるはずもありません」
「なぜそんなことが……それより、リレイ、わかっているんだろう?」




